王都への帰路の途中、俺たち一行はゴウラス騎士団長が手配した、早馬に出会うこととなった。
「ソリス男爵へ、ゴウラス閣下からの急使としてまかり越しました。
ご一行には、急ぎ王都にお戻りいただくこと。
お戻り次第、学園のクライン閣下をお訪ねいただくよう、至急の伝言をお預かりしております!
長旅の途中、何かとお疲れでしょうが、火急の件とのことですので、よろしくお願いいたします」
王都から?
しかも騎士団長自らが何故?
そして学園長に?
俺は、状況が掴めず、混乱していた。
「何はともあれ、騎士団長自らがご使者をを立てられたこと、これは非常事態と考えます。
急ぎ、王都に戻りましょう」
アンの提案で、そこからは騎馬の足を速め、大急ぎで王都まで向かうことにした。
※
2日後、予定より早く王都の門をくぐった俺は、旅装を解かず、その足で学園へと向かった。
「男爵よ、待ちかねておったぞ。今の其方はとても危うい状態でな。
ゴウラス殿に頼み、早馬を送って貰ったのじゃ。
予定より早く帰参できたということは、無事知らせは届いたということかの?」
「はい、帰路の途中でご使者とは出会えました。
所で、私が危ういとは……、一体何が起こったのでしょうか?」
「早速で悪いが、先ずは男爵の不在中、何が起こったか説明するかの……」
学園長の話してくれた内容は、驚くべきことだった。
悪意ある、事実無根の噂がこの王都に広がっており、俺の立場は非常に危険なものになっているのを、この時初めて知った。
これまで俺たちが、いかに呑気な悩み事を議論していたか、思い知らされることになった。
「この件では、辺境伯も騎士団長も手が出せん。
彼らも当事者として、監督不行き届きを責められておる立場でな……」
俺はその2人も、多大な迷惑を掛けているということか。復権派の動きを、甘く見すぎていた。
「そもそも、事の発端は其方の迂闊さが招いた結果。それは分かるかの?」
「はい、わが身の不徳と、至らなさを、改めて恥じ入っております」
「魔法士の価値を一番知っている其方が、その価値を一番軽んじておった。そういう事じゃな。
遅ればせながら、途中で対策を採り、教会には蓋をした。それは良い。
だが、既に流れ出た情報への対処を怠り、そして謀略というものに対し、甘い考えで放置した。
それが、この結果じゃの。
明るみになっておる26名の魔法士、これだけでも十分な脅威というものよ。
本来なら、王都に来た折、我らと知己を得た際に、何よりも先に助力を乞う。そうすべきじゃったの」
俺は項垂れて、学園長の言葉を聞いていた。
確かに、迂闊すぎる。世の中の動きを、自身の物指しで判断していた。
宮廷闘争、政治闘争、そういったものに対し、何の知識も無かったにも関わらず。
「まぁ、我々も対策はしておったが、今回は奴らに一歩先んじられた。そういう事だな。
して男爵よ。この失点、どうやって挽回する所存かな?」
「はい、まず第一に、自身の迂闊さと甘さを猛省いたします。
次に、学園長を始め、皆様にご迷惑をお掛けした件、深く陳謝いたします。
そして、この件で策を講じていただいていたこと、そのありがたさを深く胸に刻み御礼申し上げます」
いったん言葉を切り、学園長には深く、心を込めて礼をした。
「今更ながら、ではありますが、私共としては、皆様のお力添えを、改めてお願いします。
ソリス男爵家は、現状抱える37名、全ての魔法士を、勅令魔法士として申請したく思います。
ただ、それだけでは芸がないと考えます。
現在噂になっている26名は公開で、残りの11名は、その数と詳細も含め、非公開で申請が叶えば、そう思っております」
「ほう! 37名もおったのか。流石にそこまでは儂の諜報も及ばんかったぞ!」
「はい、形式上、ソリス男爵は全ての魔法士を勅令魔法士として申請した。この事自体は、事実に基づいた噂として、流していただきたいと考えております。
そして、26名に関しては、どのような魔法士であるかなど、情報を公式のものとします。
残りの11名は、私共とクライン閣下、王権派の方々のみ知る情報として、活用いただければと思います。
既に、全ての魔法士の詳細と、26名と11名に分けた資料はこちらにご用意しております」
そう言って、俺は資料を学園長に差し出した。
早速、学園長はその資料に目を通し始めた。
「ほう、今回の件を知らぬ状態ですら、我らに全てを預ける気でいたということか!
それは感心なことじゃの。我らも守り甲斐があると言うもの……
なっ! なんと! 重力魔法士じゃと!」
学園長は、ヨルティアの資料を見て、驚愕の声を上げた。
「王国に、重力魔法士は絶えて久しい。
元々、重力魔法を司っておった氏族の末裔、その公爵家でも、重力魔法の血統は絶えてしまった。
貴族の中で重力の血統魔法が絶え、今はどの家でも、他の属性の血統魔法が受け継がれておるというのに。
其方は、まことに……」
「はい、彼女は現在私の妻の一人として、テイグーンの護りに従事しております。
昨年は、陛下にもその運用の一端を御覧いただきましたが、帝国軍数万を撃退する切り札として、日々魔法の研鑽を積んでおります」
「なるほどな、それで陛下が……
今だから話すが、此度の勅令魔法士の件、陛下の発案での。ソリス男爵家の魔法士を何としても守れ。
そう我らに厳命されておったのじゃ。
これで合点がいったわ。
其方、陛下に大きな借りができたこと、改めて心に刻むようにな」
「はっ! 心に深く刻み、感謝を忠誠として、今後も王国に対し尽くすこと、お約束いたします」
やはり陛下はヨルティアの事が分かっていた。
俺はそう確信し、陛下の配慮と庇護に深く感謝した。
「魔法士の件、其方の進言通り取り計らおう。
この重力魔法士を含む11名の情報は、当面我らが隠し持つ。いずれ大きなカードとなろう。
26名の氏名と魔法属性を公開すること、全ての魔法士を申請したという事実のみ、公表するものとする。
恐らく多くの者は、その26名が全て、そう思うであろうな。
これで其方の嫌疑はひとまずは晴れるだろう」
「ありがとうございます」
「だが、嫌疑は晴れても、脅威と不安は残る。それが新たな策謀の温床となる。それは分かるかの?」
「はい、私はこの先、王国への忠誠を示す証として、何をすればよろしいでしょうか?」
「其方には気の毒だが、現在東の国境の雲行きが怪しくてな。春から夏に掛けて戦になる可能性が高い。
そこに、其方が魔法士を引き連れ援軍として馳せ参じることになろう。王国を守る盾としてな。
そうすれば、不安や疑念を口にする者の、立つ瀬もなくなるであろうな」
「はっ! 承知いたしました。
私共はどれだけの兵を率いれば宜しいでしょうか?」
「其方は本来は、東の戦局には関わりのない立場。されど、魔法士を活用した軍の運用には実績がある。
それを、防衛軍に伝え、現地で影ながら助力する。そんな立場で良かろう。
率いるのは魔法士10名程度、軍はそなたの護衛として、100名もいれば体裁はつくであろう」
「畏まりました。この件、早速配下の者と協議し、準備を進めます」
「うむ、其方のこれまでの功績、忠誠に疑いのないことは、我らも重々承知しておる。
だが、敵はそんな事も邪な目で見てくること、心しておくことじゃ。
我らも、其方の申した【大掃除】、徐々に進めておるでな。本件も儂らに任せてもらおう。
遠路疲れておるところ、すまんかったの。戻ってゆっくり休み、この先の英気を養うがよい」
「ありがとうございます。なにとぞよろしくお願いいたします。閣下にも改めて感謝いたします」
こうして、俺は学園長の前を辞した。
多分、これで窮地からは脱することができたと思うが、行き掛かり上、俺たちは新たな試練を抱え込むこととなった。
ご覧いただきありがとうございます。
次回は【それぞれの転機】を明日投稿予定です。
どうぞよろしくお願いいたします。
※※※お礼※※※
皆さまの温かいお声をいただきながら、ある程度予約投稿のストックも蓄積できました。
この辺りからストーリーの展開も早く、それに合わせて第百三十話以降、2月一杯は毎日投稿を復活させて頑張りたいと思っています。
ブックマークやいいね、評価をいただいた皆さま、本当にありがとうございます。
凄く嬉しいです。
毎日物語を作る励みになり、投稿や改稿を頑張っています。
誤字のご指摘もありがとうございます。いつも感謝のしながら反映しています。
本来は個別にお礼したいところ、こちらでの御礼となり、失礼いたします。
また感想やご指摘もありがとうございます。
お返事やお礼が追いついていませんが、全て目を通し、改善点や説明不足の改善など、参考にさせていただいております。
今後も感謝の気持ちを忘れずに、投稿頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。