――俺とレティシアがFクラスに編入されてから、一ヵ月後。
「それでは、Fクラスの”王”はアルバン・オードランくんに決定ということで!」
パウラ先生がパチパチと拍手。
さらに黒板には”おめでとうアルバン・オードラン!!!”とデカデカと書かれている。
「はい……面倒くせぇけどやります……」
あーあ、とうとう決まっちゃったよ。
まあ別にいいけど。
レティシアが推薦してくれた時から、腹は決まってたし。
――どういう経緯か知らないが、レティシア誘拐事件があった少し後、
『俺たちはお前を”王”と認める』
とマティアスから告げられた。
これはFクラスの総意であると。
そう言われたら、もう断る理由もない。
俺は大人しく、”王”とやらをやることにした。
クラス内が静かになるなら、それに越したことはないしな。
それはいい。
それはいいんだが……。
「でもさ……なんでソイツがまだ居るワケ?」
俺はさも当然のように席に着くイヴァンを睨みながら言う。
てっきりコイツは学園を去るものとばかり思っていた。
かの誇り高いスコティッシュ公爵家の人間が、王座争いに敗れたのだから。
イヴァンはフンと鼻を鳴らし、
「僕が居ては不都合だ、とでも言いたそうだな」
「不都合どころか不快だわ。そもそも、俺はお前を許してないんだからな」
だってコイツのせいでレティシアが危ない目に遭ったんだし。
殺していいと言われたら、今この場で殺せる。
いや、やっぱ殺しておこうかな。
またいつ俺らを陥れようとするかわからないから。
なんて思っていると、
「私が在籍を許したのよ」
後ろの席のレティシアが言った。
「え……レティシアが?」
「私たちとイヴァンをまとめて陥れようとした”串刺し公”とかいう謎の男……その手掛かりを握っているのは彼だけだから」
――ああ、そういうことか。
そういえば黒幕がいるんだっけ、今回の事件。
イヴァンを唆した仮面の男。
レティシアが捕まった倉庫には現れず、その行方は未だに掴めていない。
ゴロツキ集団のボスも正体を知らなかったみたいだし。
証言も曖昧で、尻尾が掴めるかは怪しい。
そんな”串刺し公”と直接会ったのはイヴァンだけ。
コイツを放逐したら、”串刺し公”を探す手掛かりが失われるかもしれないのか。
ぶっちゃけモヤモヤとはするが、
「……レティシアがいいなら、俺はいい」
「そう言ってくれると助かる。僕もまだ、やり残したことがあるからな」
「やり残したこと?」
「ああ……キミたちへの罪滅ぼし、そして僕を陥れた”串刺し公”に一矢報いてやらねば、気が済まないのでね」
なんとも恨めしそうな顔で言うイヴァン。
……つまりは復讐か。
まあ気持ちはわからなくもない。
一応はイヴァンも陥れられた側だからな。
なるほど、私怨が混じるとなればまた裏切る可能性は低いだろう。
ま、一応警告はしておくか。
「……そうかい。言っておくが次はないぞ」
「理解している。……改めて、すまなかったな」
「はーい! 私語はそこまで!」
話の流れを戻すように、パウラ先生がパンパンと手を叩いた。
「今日から三年間、Fクラスはアルバンくんに絶対服従となります! 皆、”王”の命令には死んでも従ってくださいね!」
「思ったんだけど、俺が”王”ってことはパウラ先生も配下ってことになるのか?」
「いいえ! 私のことは”王”の上の”皇帝”と思ってください!」
「あ、そう」
いやまあ、聞いてみただけだけど。
そりゃ先生が生徒の言いなりになっちゃ駄目だよな。
学級崩壊になっちゃうし。
「でも皆さんは凄いですよ! AからEまでの各クラスは、現時点で最低でも一名以上の退学者を出していますから!」
「え? そうなの?」
「はい! 退学者を一名も出さなかったのはFクラスだけです! きっとアルバンくんのカリスマがあってこそですね!」
違うと思うが。
俺別にクラスに対してなんもしてないし。
どちらかというとレティシアのカリスマのお陰では?と思ったり。
「これは教師陣が想定していなかった、本当に予想外&驚異的なことです! ですので――なんとファウスト学園長が、直々に表彰をしてくださるそうですよ!」