《パウラ・ベルベット視点》
「……」
私は、魔法映写装置に映るFクラスとAクラスの生徒たちをしばし眺める。
そして、すぐに気付いた。
……うん! AクラスにFクラスの動きを漏らしている人がいますね! ――と。
だってAクラス、明らかにFクラスの動きがわかった上で自クラスの生徒たちを展開させてるじゃないですか。
Aクラスにカーラさんのような使い魔の使役者、または透視系魔法を扱える千里眼使いでもいるなら話は別ですが、そういう生徒はいないはずですし。
〝声〟だけ伝えるなら、私たちに監視されながらでもある程度バレずにできますしね。
……さて、どうしようかな?
試験への不正介入があった時点で、本来なら犯人捜しに動くべき。
でもなぁ、まだ弱いなぁ。
向こうに何人協力者がいるかも未だ不明。
だから、あんまり安易に動きたくないんですよね。
そもそも、向こうだって私のことを監視してるでしょうし?
どうしたものでしょうか。
一応、教育者としては試験を中止すべきではあるんですが……。
……。
…………。
…………………。
――惜しい。
惜しいなぁ、やっぱり。
生徒同士が全力で潰し合うお祭り――それもトーナメントを勝ち抜いた強者同士の潰し合いだなんて……こんな最高の娯楽、すぐに中止にするなんて勿体ない!
もう少しくらい観戦してもバチは当たらないでしょう!
――よし、もう少し泳がせておきましょう!
うんうん、それがいいですね!
そうすれば、私ももっと楽しめますし!
まあ、エースであるアルバンくんがいないのはちょっとつまらなくはありますが……。
――とはいえ、エース不在でもFクラスは十分に強いですから。
なにせ私の自慢の生徒たちですし。
それに……どうせこの事態も想定済みなんですよね、レティシアさん?
試験会場自体に細工がなされていることも。
それ前提で組んだあなたの戦術……とくと拝見させて頂きますよ――。
▲ ▲ ▲
《カーラ・レクソン視点》
「「アハハハハハハハ!!!」」
――アンヘラが処刑刀を、ディアベラが処刑斧を振るってくる。
小柄な二人が振るってくる長大・重量級の得物は距離感を見誤らせ、それでいて破壊力も抜群。
岩でできた洞窟の地面や壁を容易に粉砕し、砂埃を巻き上げる。
しかも攻撃時の連携が完璧。
アンヘラが正面から攻撃すればディアベラが背後に回り込み、ディアベラが背後から攻撃すればアンヘラが次の挙動に移る。
テレパシーができているのではないかと思えるほど、両者の連携に隙がない――。
攻撃方法がどうしても単純化するという重量武器の弱点を、上手く補い合っている。
「「どうしたの!? ねぇどうしたの!? 避けてばっかりじゃ面白くないわ!!!」」
「……」
アンヘラとディアベラの連撃に次ぐ連撃を回避し、私はシャノアちゃんの前にヒラリと着地。
「カ、カーラさん! だ、大丈夫ですか……!?」
「うん……私なら平気……。でも……」
私は、自らの頬に指先で触れる。
マスクが少し裂けたらしく、ヌチャリとした生暖かい液体が隙間から流れている。
指先を離して見てみると、真っ赤な血が付着していた。
どうやら彼女たちの攻撃が、僅かに頬をかすめたらしい。
これ自体は他愛のないかすり傷にすぎないが――。
「……魔法陣の効果が、消えてる」
「ふぇ……?」
「洞窟に描かれているはずの、死傷避けの魔法陣が……効果を失ってる……。今なら、攻撃がそのまま肉体に通る……」
「! そ、それってつまり……!」
「うん……たった今、試験は〝本物の殺し合い〟になった……」
――試験中、〝肉体に対して明確な殺傷効果のある攻撃〟は、特殊な魔法陣の効果によって無効化される。
ただ〝死亡判定〟となって身動きが取れなくなるだけ。
この場合の殺傷効果のある攻撃というのは、刃物による斬撃や刺突、または強力な魔法による攻撃などがそれにあたる。
一応の例外として、殴る蹴るといった比較的殺傷力の低い攻撃、あるいは攻撃を受けた側の肉体が殺傷に至らないほど頑丈であったりなどした場合、死なない程度のダメージが通るという場合はあるようだけれど。
中間試験の時、エステルちゃんはその効果を利用して殴り合いに勝利したみたいだし。
彼女、金槌で殴られたら逆に金槌の方が砕けた過去があるらしいから……。
だから拳による殴打は、肉体をちょっと傷付けることがあるかもしれない。
だが――刃物による斬撃は、確実に無効化されるはず。
私の身体は、別に刃物が通らないほど頑丈ってワケじゃないし……。
斬られれば普通に死ぬし……。
だから斬撃による攻撃は全て無効化されて、血なんて出ないはずなのに――。
……何者かが、洞窟の魔法陣を消してしまったのだろう。
どうせエルザ第三王女の手の者だろうが。
でも――お生憎様。
これもレティシアちゃんは予想してたんだよね……。
私はアンヘラとディアベラへ視線を移し、
「アンヘラ……ディアベラ……洞窟の魔法陣が効果を失ったわ……」
「「ふぅん、それで?」」
「……これ以上戦うと、本当に殺し合うことになる……。私は、無駄な殺しはしたくない……」
「「アハハ! 随分暗殺者らしくないことを言うのね!」」
彼女たちは私の忠告を笑い飛ばし、再び片手を繋ぎ合う。
「「私たちも殺し合いなんて嫌よ? だって私たちがしたいのは一方的な殺し――処刑だもの」」
「……」
「「それに魔法陣が無効化されたなら、本当にあなたたちの首を落っことせるってことじゃない。素敵だわ」」
「……つまり、あなたたちに停戦の意思はない、と……?」
「「あるワケないわ。さあ、もっと楽しみ――」」
――ドスッ
「「……あら?」」
――アンヘラの右肩に、投擲された苦無が突き刺さる。
直後、彼女の可愛らしい衣服にブワッと血が滲んだ。
「……もう一度だけ言う」
私は新たな苦無を取り出し、右手に構えた。
「私は……レクソン家の〝教義〟に則り……無駄な殺しはしたくない……。死にたくなければ……今すぐに去れ……」
「「アハハ……脅しがお上手ね。でも嫌よ。ロイドに怒られちゃうもの」」
「……そう」
刹那――私は再び苦無を投擲。
瞬きするよりも速く苦無は飛翔し――ディアベラの額に突き刺さった。
「あ゛っ」
ディアベラはアンヘラと手を繋いだまま卒倒し、頭部からドクドクと血を流す。
どう見ても即死である。
……私は暗殺者だ。
無駄な殺しはしたくないけど……殺すと決まれば容赦しない。
「……忠告はした。まだ逃げないというなら……アンヘラ、次はあなたの――」
「「……ウフフ」」
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