《レティシア・バロウ視点》
声に釣られ、私とローエンは後ろへと振り向く。
そして私たちの目に映ったのは――ニコニコ笑顔を浮かべた、パウラ先生の姿だった。
「! パウラ先生!」
「お疲れ様です、レティシアさん! いや~、実にお見事な采配でしたよ!」
パチパチと小さく拍手しながら、彼女は私の方へと歩み寄って来る。
「魔法映写装置越しにじっくりと観戦させて頂きましたが、もう最高に楽しめました! 先生大満足です!」
「は、はぁ……」
「本音を言えば、Fクラスの代理〝王〟であるレティシアさんと、Aクラス〝王〟であるロイドくんには最後まで潰し合ってほしかったんですけど……流石にそれは職務怠慢って言われちゃいますからね!」
彼女は顔面に張り付けたようなニコニコとした笑顔を一切崩さず、今度はその顔を〝串刺し公〟へと向ける。
「ロイドくん――ではなく〝串刺し公〟くんとお呼びした方がいいでしょうか? まあ、どっちでもいいですが」
「……」
「キミにFクラスの動きを漏らしていた協力者は、全員捕縛させて頂きました! Aクラスの担任、監督官を担当していた者、洞窟に入り込んでいたFクラスを監視していた部外者――延べ十二名!」
「! 十二名って……そんなに……」
数字を聞いて驚く私。
Aクラス協力者――というよりエルザ第三王女の協力者が妨害工作をしてくるだろう、というのは私も予測していたし、実際それ前提で戦略を立てていた。
だけどまさか、そんなに人数がいたなんて……。
パウラ先生も「私も驚きましたよ~、まさかそれほどの人数を買収していたとは!」と感嘆とした様子で言葉を続け、
「大方、万が一Aクラスが負けたらFクラスを始末する役目も任されていたのでしょうね! ですが……レティシアさんの動きを見て動揺し、相互に連絡を取ろうとしたのが〝隙〟になりました」
「……ククク、それで芋づる式に捕まってしまったと」
「ええ、尋問すれば本当の首謀者もすぐに明るみになるでしょう。……残るはあなただけです」
――僅かにパウラ先生が殺気を帯びる。
同時に、剣や杖などで武装した学園の監督官たちが周辺の道から現れて、遠巻きに〝串刺し公〟を取り囲む。
もはや、彼に逃げ場はない。
「言っておきますが、絶対に逃がしませんから。私こう見えても、狙った獲物を取り逃がしたことがありませんので」
「……………………………………………………………………ク…………ククク…………」
長い沈黙の後――〝串刺し公〟は不気味な笑い声を奏で、
「逃げる……? 小生は逃げるつもりなど、毛頭ありませんよ?」
そう言って、右手の指に挟んだトランプを構える。
それを見た監督官の一人が〝串刺し公〟を取り押さえようと僅かに身体を動かしたが、パウラ先生がバッと片手を伸ばして制止。
けれど視線は〝串刺し公〟に向けたまま、
「……私、これでも生徒想いでして。最期に、なにか聞き届ける言葉はありますか?」
「それでは――――〝エルザ様よ、どうかお幸せに〟」
一言そう述べた彼は、ゆっくりと右腕を動かし、トランプを自らの首筋に当て――それを素早く引いた。
刹那――〝串刺し公〟の首から、深紅の鮮血が恐ろしい勢いで噴き出る。
「――ッ!!」
その光景に、私は思わず両手で口元を覆う。
ショックで肩が震え、足が竦んで動かない。
彼がまとう白の衣装は瞬く間に真っ赤に染まり、足元には血溜まりが作られていく。
文字通り、全身の血が抜け出ていっているのだ。
見る見るうちに顔面が真っ青になり、〝串刺し公〟はズシャッと地面に膝を落とす。
「クク……ク……」
「あ……あなた……どうして……!」
「エルザ様は……想いを……遂げられた……。ならば……偽物など……不要……」
額からは止めどなく汗が流れ、息も途切れ途切れ。
酷く苦しそうなのに――それでも彼の口の両端は、大きく吊り上がっていた。
「レ、レティシア・バロウ……小生に、聞きましたな……〝それでいいのか〟と……。クク……いいに決まっている……ではありませんか……!」
「え――?」
「エルザ様が……エルザ様さえ幸せなら……小生は……それで満足なのです……! 小生の人生は……愛しき人のために……!」
徐々に、〝串刺し公〟の呼吸の間隔が短くなり、弱々しくなっていく。
それに合わせるように、目の光も失われていき――。
「あぁ……エルザ様……お慕い……申し上げ……て……」
グラリ、と力が抜けるように姿勢が崩れる。
そのままドサッと地面に倒れると――彼の呼吸は、完全に途絶えた。
※書籍化します!
『怠惰な悪役貴族の俺に、婚約破棄された悪役令嬢が嫁いだら最凶の夫婦になりました』
書籍化してくださるのはTOブックス様となります!
https://tobooks.shop-pro.jp/?pid=180509955
(ランキングタグにも掲載しておきました!)
皆、予約して……!