一年の〝王位決定戦〟が始まって、一週間以上が過ぎた。
既に各クラスの〝王〟が続々と決まっていっているらしく、俺たち二年生の間でも一年の話題で持ち切り。
中には「誰が一年の〝王〟になるか?」を賭け始める奴まで出てくる始末……。
――っていうか、その賭けを最初に始めた奴はFクラスにいるんだが。
「で? オードラン男爵、アンタは誰に賭けるんだよ?」
ニヤニヤと笑いながら、マティアスが俺に尋ねてくる。
今は昼休み。
場所は教室の中。
俺は面倒くささMAX感を隠そうともせず、机の上でダラダラと頬杖を突きながらマティアスの方を見る。
「……賭けるって、なにを?」
「決まってんだろーが。誰が一年の〝王〟になって、アンタに挑戦してくるかだよ」
マティアスは紙に書いた手書きのオッズ表を掲げ、俺へと見せびらかしてくる。
そこには、
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『各クラス』/『名前』/『オッズ』
Aクラス/ユーリ・スコティッシュ/2倍
Bクラス/フラン・ドール/5倍
Cクラス/コルシカ・ポリフォニー/3倍
Dクラス/エレーナ・ブラヴァーツカヤ/7倍
Eクラス/???/10倍
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……と書かれてあった。
「まず大本命はコイツ、Aクラスのユーリ。言わずと知れたイヴァンの弟で、一年の中で最速でクラスの〝王〟になってる」
「……」
「二番人気がCクラスのコルシカ。ローエンの妹分らしくて、中々腕が立つらしい。当然、ローエンの奴もここに賭けた」
「…………」
「次いでBクラスのフランとDクラスのエレーナ。フランはアールグレーン侯爵家の令息を負かして退学に追い込んでるし、エレーナもブラッドレイ男爵家の令息を下して子分にしてる。この二人はダークホースで、オッズも――」
「…………おい、おいマティアス」
聞いているのも面倒になって、俺はマティアスの言葉を遮る。
「聞いてもない話をベラベラ進めるな。言っとくが、俺は誰にも賭けんからな」
「ンだよ、つまんねーな」
残念そうにオッズ表をしまうマティアス。
俺は「ハァ……」と深いため息を吐き、
「っていうか、お前ギャンブルはやらないんじゃなかったのかよ」
「ああ、やらねーよ? 実際、俺は誰にも賭けてない。いい金儲けになると踏んだから、こうして主催する側に回っただけだ」
マティアスは指で銭のサインを作って「いい額入って来てるぜ」得意気に笑って見せる。
……主催する側に回るのは、余計にタチが悪いのでは?
ったく、この金の亡者め……。
俺が呆れてモノも言えなくなっていると、
「そんじゃ――レティシア嬢、アンタはどうだ?」
続けてマティアスは、俺の前の席に座るレティシアへと話を振る。
「結構ですわ。私も賭け事は好きじゃありませんから」
ツンとそっぽを向いて答える我が妻。
その答えを受けて「そりゃ残念」と肩をすくめ、呆気なく引き下がるマティアス。
ぶっちゃけ言ってみただけなんだろう。
レティシアがギャンブルやらないなんて、コイツもよくわかってるはずだし。
つか、人の嫁さんを賭け事に誘うんじゃねーよ。
はっ倒すぞ。
はい終わり。これにてこの話題終了。
いっそレティシアには、マティアスの奴に少し説教でもしてやって欲しい――なんて思ったのだが、
「――ただ、さっきのオッズ表をもう一度見せて頂ける?」
「え? あ、ああ、いいけど」
――レティシアの口から出た、意外な一言。
それを受けて、マティアスはもう一度オッズ表を出してレティシアに見せる。
再びオッズ表をまじまじと見たレティシアは、
「Dクラスの〝王〟は、エレーナさんになったのね。知らなかったわ」
「なんだレティシア嬢、知り合いなのか?」
「ええ、以前危ない所を助けてくれたの。この〝タリスマン〟も彼女に貰ったのよ」
首に下げた装飾品を僅かに掲げて見せるレティシア。
彼女がエレーナという後輩に助けられたって話は、俺も聞いた。
そして親交の印としてお守りを貰ったことも。
話を聞く限り、なんか微妙に怪しい奴な気もするが……妻を助けてくれた恩人なのは事実。
〝タリスマン〟からも変な気配はしないし、疑念を抱くのはよそうと思ってる。
いつかどこかで出会えたら、しっかり礼の一つでも言わなきゃな。
〝タリスマン〟を見たマティアスは「ほほぉ」と興味深そうに唸り、
「Dクラスの〝王〟になった上に、もうレティシア嬢とのコネもあんのか……。こりゃオッズの倍率も変わってくるかな?」
「邪推は感心しないわよマティアス。ところで――Eクラスの名前の部分が〝???〟になっているのは、何故なの?」
「そりゃまだ〝王〟が決まってないからだな。Eクラスはローザン子爵家のビクトールが有力候補だったんだが、どうにも一筋縄にはいってないらしくてよ」
「…………Eクラスには、あのジャックもいるわよね……」
考えるように口元に指を当てるレティシア。
……ああ、あの忌々しいゴミカスクソ野郎も、Eクラスにいるのか。
レティシアの件を今思い出しても、煮え滾るような殺意が芽生えてくるな。
……実は、俺はまだジャック・ムルシエラゴとかいう阿呆の顔を拝めていない。
レティシアを守るためにずっと一緒に行動していたってのもあるが、不思議とそれらしい奴を見かけたりすれ違ったりすることは一度もなかった。
見た目が特徴的な奴らしいし、レティシアが常に隣にいたから、見逃してたってこともないと思う。
もし出くわしたら、いっぺん顔面でもぶん殴ってやろうかと思ってたのに。
残念だ。
それにレティシアはムルシエラゴ家に対して、ジャックのことを尋ねた手紙を送ったのだが――その返事もまだナシ。
俺がレティシアの立場なら、こんな異常者さっさと実家に送り返せと学園長に直談判するが……一応レティシアにはレティシアなりの考えもあるみたいだからな。
夫として、俺は妻の考えを尊重する。
それにしたって、様子見するしかないこの時間がもどかしい……。
早くジャックの顔をぶん殴りてぇ……。
つーかぶっ殺してぇ……。
――などと思っていると、
「――皆、ニュースだよ!♦ ビッグニュース!★」
教室の中にラキが飛び込んで来る。
そして俺たちを見回すや――
「今、『決闘場』で一年BクラスのフランとCクラスのコルシカちゃんが決闘してるんだって!♣ 皆で見に行こうよ!★」
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