――『決闘場』に響き渡る爆音と衝撃波。
濛々と立ち昇る砂煙により、コルシカの姿は完全に見えなくなる。
『いえーい、大勝利。V』
砲口をカシャンとしまって球体関節を動かし、無表情なまま両手でVサインを作るフラン。
……フランのぶっ放した魔砲は、明らかに人間一人へ向けて放たれていい威力ではなかった。
俺の知る限り、魔砲というのは攻城戦において建築物の破壊に使われたり、または野戦にて密集した兵士をまとめて吹き飛ばす際などに使われる対群兵器。
大量の魔力を充填し、それを一気に発射するという仕組みなので、一発発射するだけでも相当な破壊力がある。
なのでまかり間違っても、個人に向けて撃っていい代物ではない。
もっとも掌に収まるサイズの砲口であったため、一般的な魔砲と比べれば威力は劣るようだが……それでも完全なオーバーキルだろう。
……っていうかあの使用人、腕から魔砲出したぞ。
しかも腕が球体関節だったぞ。
なんかカシャッて音鳴らして砲口展開してたし。
一体どうなってんだ、アイツの身体……。
不思議に思う俺だったが――
「――とおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおうッ!!!」
砂煙の中から、上空に向かってバッと影が飛び出す。
その影はキラリと斧槍の刃を輝かせ――フラン目掛け、思い切り振り下ろした。
『――!』
フランは身体を庇うように頭上へ左腕を掲げる。
同時に左前腕部に収納されていた折り畳み式の円盾が扇子のように展開し、全身をカバー。
直後――ギィンッ! という鋼と鋼が激しく噛み合う音が、『決闘場』に木霊した。
「むっふっふ……! 煙の中に浮かぶ人影……そして颯爽とステージに登場するアイドル……これぞまさにライブって感じの演出ッ! わかってらっしゃいますね、フランさんッ!」
斧槍を力一杯押し込みながら、不敵に笑うコルシカ。
その目の奥にある☆マークが、キラリと輝く。
……どうやら、さっきの魔砲を上手いコト捌いたらしい。
ほほぉ、案外やるな。
『……仕留めたと思ったのに、しぶてぇ女だ、でございます』
フランは左腕を振るってコルシカを弾き飛ばす。
改めて両者は間合いを置き、
「うむうむ! フランさん、あなたは中々の演出家ですよッ! ライブの盛り上げ方を、本能で理解してらっしゃるッ! いっそ私と一緒にアイドル始めませんかッ!?」
『否定。お前みたいな頭すっからかんのポンポコピーと、アイドルユニットなんて組んでたまるか、寝言は寝て言え、でございます』
「むぅ! 誰がポンポコピーですか!? 将来のアイドル候補として、その口の悪さは頂けませんよ!」
『返答。別に使用人は口が悪くてもよい、癖とはそういうモノだ、と博士はキショイことを仰っておられました。ですので、是正は拒否致します』
フランはそう言って盾を収納すると――真っ直ぐに直立し、両腕・両腕をだらんと下げる。
まるで脱力するように。
『……白兵戦モードに移行。各部関節のロック解除。体内角速度計測器、稼働』
――フランは身体全身に、魔力を纏う。
そして滑らかな動きと共に片足立ちし、両腕を広げてゆっくりと体勢を変えていく。
リズムよく、踊るみたいに。
けれどその重心は、驚くほどに乱れない。
この挙動は――〝舞踊〟だ。
『宣言。ここからは本気で行くぞ、でございます。アイドルなら、精々踊ってみせろ――こんな風に』
タンッ――とフランが地面を蹴る。
刹那、全身を鞭のようにしならせ、猛烈な勢いで回転しながらコルシカ目掛けて飛んでいく。
その速度はまるで放たれた弓矢のように豪速で、強烈な遠心力が乗った回転蹴りがコルシカを襲う。
「ひょわわッ!?」
寸でのところで回避するコルシカ。
だがフランの攻撃は止まず、踊るように殴打や蹴りの連撃を仕掛けていく。
――明らかに人間の動きじゃない。
天地などもはや関係ないとばかりに身体が回転を続け、上下左右お構いなしに回り続ける様は、まるで重力を失っても尚回転し続けるコマのよう。
頭部が上を向いている時間の方が少なく、上半身に対して下半身があり得ない方角を向き、人体の構造的に絶対に不可能な角度やタイミングで攻撃を放っている。
なのに――重心が全く乱れない。
人外としか思えない動きで猛攻を繰り出しているのに、傍から見ると身体の中心が地面に対して水平に動いているようしか見えないのだ。
踊っているような挙動と相まって、その光景は……正直言ってかなり不気味で、不自然で、気持ち悪い。
なんつーか、高熱を出した時に見る夢ってこんな感じなのかもな?
俺高熱って出したことないから、よく知らんけど。
そんな不気味な相手の攻撃を、斧槍で凌いでいくコルシカ。
ありゃー相手する側にとっちゃ、さぞ面倒だろうな――なんて俺が思っていると、
「……なるほどなるほど~。どうやらフランさんの身体は~〝魔生人形〟となっているようですね~」
納得したかのようにポンと手を打ち、エレーナが言う。
「〝魔生人形〟……?」
「はい~。う~んと~、順番にご説明しますが~……アルバンさんは屍者技術~もとい屍体蘇生術という魔法を~聞いたことはありますか~?」
――屍体蘇生術。
俺はその単語を聞いてもピンと来なかったが、レティシアはハッとしたような顔をする。
「本で読んだことがありますわ。確か十五年ほど前に、ジョージ・ロジャースとハーバード・ウェストという二人の魔法研究者が、魔法省に対して発表したモノだとか……」
「流石レティシアさん~、よくご存知です~。彼らはヴィクター・ザ・ワンという屍体を~実際に蘇生してみせました~。発表した当初は~その革新性と死を超越したという偉業から~『ヴィクター・ザ・ワン:あるいは魔法界の原初の火』とさえ賞賛されたほどなのです~。懐かしいですね~」
「懐かしいって……その頃だと、エレーナさんはまだ生まれたばかりくらいのはずじゃ……?」
「ふぇ? あっ、ち、違います違います~! 懐かしい気分にさせてくれるな~というお話です~!」
レティシアの言葉に対し、あたふたしながら訂正するエレーナ。
……なんでそんなに慌ててんだ? なんて思ったりしたが、突っ込むよりも早くエレーナは話を続ける。
「オホン! ですが~ヴィクター・ザ・ワンには知性・感情・記憶がなく~本当の意味での蘇生ではないと~、魔法省の一部役人から指摘されてしまったのですね~。それと屍者への冒涜だと倫理観を問題視されたこともあり~、屍体蘇生術は結局〝禁忌とすべし〟という判断を魔法省によって下され~歴史の闇に消えていったのです~」
「ほぉ……。で、それが〝魔生人形〟ってのとどんな関係があるんだ?」
「はい~。屍体蘇生術の研究を禁じられたジョージとハーバードの二人は~、仲違いの末に~それぞれ独自の道を歩むようになります~」
「独自の道……?」
「ヴィクター・ザ・ワンが失敗した理由を~ジョージは〝魂のせい〟だと主張し~、ハーバードは〝屍体のせい〟だと主張したんですね~。それで今回は~ジョージのお話になります~」
エレーナはそう言って、『決闘場』の中央で戦い続けているフランへと視線を移す。
「ジョージはヴィクター・ザ・ワンが失敗したのを~、本当の意味での〝魂〟が発見できていなかったからだと思ったんですね~。そして彼は何年もの研究の果てに~〝23グラムの魂〟を発見したのです~」
「……聞いたことがありますわね。人間は死亡すると、その瞬間に体重が23グラム減少する――それが魂の重さだと」
レティシアの言葉に対し、エレーナはコクリと頷く。
「〝23グラムの魂〟を発見したジョージは~それを人形に定着させる試みを秘密裏に始めます~。そしてこれは~一定の成果を収めたのですね~」
「……つまり、人形に魂が宿った――ってことか」
俺が言うと「はい~」とエレーナは答え、
「人形には魂が定着し~知性と感情を発露させました~。ジョージはその成功を以て~、〝魂〟が宿った人形を〝魔生人形〟と呼んだのです~。……もっとも~生前の記憶を人形へ呼び戻すことは~最後までできなかったようですが~」
エレーナは目の前の手すりにもたれかかり、どこか遠い目をしてフランを見つめる。
なんだか懐かしそうな、安堵したような目をして。
「……ジョージは〝魔生人形が成功した〟としたためた手紙を魔法省宛てに送った後~行方不明となりました~。以後〝魂〟の研究がどうなったのか誰も知りませんでしたが~……間違いなくフランさんは~〝23グラムの魂〟が宿った〝魔生人形〟ですね~」
「……」
「もしかすると~……フラン・ドールという少女はジョージの娘さんなのかも~? ファウスト学園長は~どうやってあの子を見つけ出したんでしょうね~」
「…………なん、というか……まるでジョージ・ロジャース本人や、その研究過程を知っているかのような口ぶりですわね」
少し茫然としながら、レティシアが言う。
それに対し「まさか~」とエレーナは間延びした声で返し、
「知っているワケありません~。私はナウでヤングなバカウケちゃんなのですから~」
ほへ~、と笑ってそう答えた。
しかしすぐに視線をフランたちへと戻し、
「おやおや~? そろそろコルシカさんの反撃が始まるみたいですよ~」
屍体蘇生術の説明の辺りは完全に趣味です。許して|ω`)
(気が付いたら色んな作品をオマージュする感じになってしまいましたが、わかる人にはわかる……かな?)
あと23グラム表記はワザとです。
+2グラムは、魔力の分……?汗汗
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