「ワァーッハッハッハ!!!」
コルシカは斧槍でフランの蹴りを弾き、『決闘場』に響き渡るほどの高笑いを上げる。
「素晴らしい身体能力ですよ、フランさんッ! それだけの身体捌きができれば、踊り上手のアイドルとして大成できますッ!」
『否定。フランはアイドルではなく使用人だボケ。何度言えばわかるんだ、このスカポンタン、でございます。』
「うむうむ! そうですねッ! まずはアイドルの振付に慣れるべく、〝踊ってみた〟から始めてもいいかもしれませんねッ!」
『……検証。もはや意思疎通が不可能と判断。どうやらお脳の一部が破損してるらしいな、でございます』
無表情のまま呆れ果てるフラン。
対してコルシカは、まるで「今この瞬間こそ、我が人生青春真っ盛り!」とでも言いたげに目の中の☆を光らせる。
傍から見ててもハッキリとわかるくらい、両者のテンションの落差が酷い。
……なんか、微妙にフランに同情しちまう気もするな。
俺も苦手かもしれん。コルシカみたいな、ああいうグイグイくるタイプ。
だって面倒くせぇから。
たぶん、フランの奴も同じようなことを思ってるんじゃねーかな。
しかし、そんな俺やフランの気持ちなど知ったことがと言わんばかりに――
「ですが! それはそれとして、この勝負には決着をつけねばなりませんッ!」
コルシカは斧槍の柄尻を地面に突き立て、堂々と胸を張る。
「フランさん! あなたのアイドルとしての可能性に敬意を表し……私も本気で勝ちにいきますッ!」
『ほう……どうするつもりだ、でございます』
警戒しつつ問うフラン。
それに対し、コルシカは不敵に笑い――
「――聞いてくださいッ! 〝ライジング・アイドル~一番星〟ッ! ミュージック、スタートぉうッ!!!」
――コルシカの背後で、ドーンッ! と爆発が起こる。
同時に白煙が巻き上がり、その中で何本もの色鮮やかな光の筋が発光。
さらにどこからともなく軽快は音楽が流れ始め――『決闘場』は、コルシカの独壇場と化した。
「んんん~ッ! キタキタキタ~! コルたんの十八番ッ、〝ライジング・アイドル~一番星〟ッ!!!」
「この曲を待ってましたああああッ!!!」
「よっしゃあッ! 皆、全力でコルたんを応援するんだッッッ!!!」
歓喜と興奮に沸き立つ一年Cクラスたち。
ライブ会場――ではなく『決闘場』の空気は、一瞬にして沸騰する。
そして――コルシカは歌い出す。
勿論、踊りという振付もアリで。
……凄い、凄い曲だ。
彼女の歌は歌声も歌詞も独特かつエキセントリックで、まるで電波のようなソングだった。
ポップなのに情熱的。情熱的なのにパラノイア的。
聞いていて脳内に溢れ出す、まるで長いようで一瞬の青い春。
それを躁でハイな感じの極彩色に染め上げて、劇物とシェイクしたかのような。
〝アイドルといふ現象は、仮定された有機交流電燈の、ハジケた青春の照明です(あらゆる超エキサイティンなキラキラの複合体)〟
一言で言うと、そんな感じの曲。
それが脳の奥に直接流し込まれているような感覚……。
聞いているだけで、思考力が奪われて気分アゲ☆アゲ☆になれそう……。
……いかん、もう俺自身、自分でなにを言ってるのかわからなくなってきた。
明らかに脳が毒されてきている……。
「さあフランさんッ! あなたも一緒に歌って踊りましょうッ!」
『……こんなまやかし、フランには効かねーぞ、でございます』
フランは〝舞踊〟の動きのまま構え直し、再びコルシカ目掛け攻撃を仕掛けていく。
スピードも威力も、人間には到底不可能な挙動も、全てそのままに。
しかし――
「アイドル・イズ・無敵ッ!!!」
コルシカは、フランは攻撃を捌く。
捌き、いなし、回避し――さらには反撃までも加えていく。
それも、ちゃんと歌い続けながら。
傍から見ると〝歌いながら戦っている〟というどう見てもおかしな光景なのだが――コルシカのテンションは、異様に高い。
いや――テンションだけじゃない。
動きが、さっきと違う。
フランの動きをほとんど完璧に見切り、圧倒し始めている。
歌い始めてから、明らかに戦闘力が上がった。それも急激に。
そしてなによりも――コルシカの全身を包む、沸き上がるような魔力。
魔力量と出力が、さっきまでとは桁違いだ。
……魔力が身体能力を底上げしている?
しかもまるで、〝歌〟が魔力を引き出しているかのような――
「……始まったな、コルシカの〝歌〟が」
ローエンが、ニヤリと笑って言う。
「あん?」
「コルシカは歌うと強くなるのだ、文字通りの意味でな。一年前、奴は単独でミノタウロスを討伐したが……その時も、ああやって歌っていたらしい」
「ほうほう~? それは〔魔声帯〕の持ち主~ということでしょうか~?」
ローエンの説明に対し、「珍しいですね~」と返すエレーナ。
おっと……? なんかまた知らない単語が出てきたぞ……?
「その、〔魔声帯〕ってのは……?」
「簡単に言うと~声帯~つまり発声器官である〝喉〟に~魔力の生成能力を持つ人のことですね~」
エレーナは指先で自らの喉を指差しながら解説を始め、
「〔魔声帯〕は~その特殊な喉の構造により~歌うことで無制限に魔力を生成し~魔法を発動できると言われていますね~」
「む、無制限だぁ? そんなのあり得んのか……?」
「はい~あり得るのです~。ただしそれは~、あくまで歌い続けられれば……のお話ですが~」
そう答えて、エレーナはコルシカを見る。
「古来より歌声には魔力が宿ると言いますが~、コルシカさんは溢れ出る魔力を~肉体強化に使ってらっしゃるようですね~。それもまた珍しい~」
「そういえばそうですわね。〔魔声帯〕であれば直接は戦わずに、歌声で相手を無力化するというイメージがありますけれど……」
不思議そうにレティシアは小首を傾げる。
それに対し――ローエンはガックリと項垂れた。
「……言わんでやってくれ。コルシカは魔法に関心がなかったというか……基礎的な魔法を覚えられんほど、頭がアレだったのだ」
「「「…………」」」
思わず沈黙し、苦笑いする俺たち。
一方で――コルシカとフランの戦いは佳境を迎えようとしていた。
『くっ……!』
「ワァーッハッハッハ!!! さあ行きましょう! ピリオドの向こうへッ!」
コルシカの曲がAメロ、Bメロと終わり、遂に一番盛り上がるサビへと突入。
それと同じくして、コルシカのボルテージが上がる。
『決闘場』……もう面倒くさいのでライブ会場でいいが、その会場の空気感もMAX最高潮。
そして遂にコルシカの斧槍が、フランの腕を弾き――
「アイ・ドル・斬ッ!!!」
一閃。
サビが終わると同時に、フランの胴体へと斬撃が叩き込まれた。
『――――ク……ソ……が……!』
フランの動きが、ピタリと止まる。
見えない力に拘束されてしまったかのように。
「――フラン・ドール死亡! この戦い、コルシカ・ポリフォニーの勝利!」
立会人の教員が宣言。
刹那、ワッという歓声がコルシカを包む。
「えへへ……ビクトリーッ!☆」
最後に――観客たちに対し、コルシカは精一杯の笑顔でVサインを送った。
本当はコルシカの曲の歌詞も書きたかったのですが、全然思い付かなかったので諦めました……。
思えば作詞作曲の経験が皆無だった……( ´༎ຶㅂ༎ຶ`)
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