「酷いのじゃ、ギーク!」
「砂浜とはいえ、走ったら危ないぞ。……というか、そんな水着どこに売っていたんだ?」
「ほう、妾の水着に興味があるのじゃな! アカデリオンの高級店で妾に似合う最新の水着を選んでもらったのじゃ。ナイスバディな妾にピッタリじゃろう?」
「……そうだな、アノンによく似合っているよ」
「おおっ、そうか!」
見事に平らな胸を張るアノンが着ている水着は俺の前世でもあったいわゆるスクール水着というやつだ。紺色のワンピース型で飾り気のない水着。言ったら怒られそうだが。子供らしいアノンによく似合っていた。
そういえばメリアも似たような水着を着ていたし、今学園都市ではこんな水着が流行っているのか……。相変わらずこの世界のファッションはよくわからない。
「ア、アノン学園長!? こ、こんにちは!」
「こここ、こんにちは……!」
「が、学園長も来ていらしたのですね!?」
「うむ。シリル、メリア、ベルンじゃな。ギークからよく話は聞いておるぞ」
「な、名前を憶えていただき、光栄です!」
「………………」
なぜだかアノンを見てみんながとても畏まっている。いったいこれはどういうことなのだろう……?
「……イリス先生、もしかしてアノンのやつって実は結構すごいやつだったりします?」
「もちろんですよ! ギーク先生は知らないんですか!? エルフはとても魔術に長けた種族ですが、とても数が少ない種族です。その中でもアノン学園長は他の人よりも遥かに強大な魔力を持っていて、元Sランク冒険者として様々な功績を成し遂げたことによってバウンス国立魔術学園の学園長に就任されたんですよ!」
「元高ランク冒険者とは聞いていたけれど、そこまで有名だったとは知らなかったな」
この世界には冒険者という職業がある。前世でもファンタージーなどの物語であった職業だが、簡単に言ってしまえば短期の派遣かなんでも屋みたいなものだ。冒険者ギルドには毎日様々な依頼が寄せられ、自由にその依頼を引き受けることができる。
街の清掃から始まってペットの世話や店の臨時店員などの依頼があり、中でも命の危険がある魔物の討伐などを行うとよりランクが上がっていく。
俺が学園を卒業してアノンに世話になった時も冒険者として活動していたのは知っていたが、それほど有名な冒険者だとは聞いていなかった。そもそも貴族たちが多く通う魔術学園を卒業した者の中で冒険者の道へ進むことは稀なため、そっちの方にはあまり冒険者の情報が回ってこないということもある。
「冒険者を引退してバウンス国立魔術学園の学園長に就任したことはニュースにもなりましたね。それにとっても可愛らしいので、学園長のファンクラブなんかもあるんですよ」
「そうなのか……」
その頃は研究室にこもりっぱなしでニュースなんて見ていなかったからな。前にアノンと街を歩いた時にあれほど人の視線を集めていたのはアノンがエルフだからという理由だけじゃなかったらしい。そういえばイザベラの両親が学園に来た時も両親はアノンのことを知っていたようだし、それくらい有名だったのか。
……ノクスのやつはたぶん知っていて俺には黙っていたな。
「せっかくの機会じゃし、妾とも遊んでほしいのじゃ!」
「え、え~と……」
「よし、せっかくだからみんなで遊ぶか。新任の学園長も普段は書類仕事で忙しいから、こういう機会くらい生徒たちと交流して楽しまないとな」
「は、はい! よろしくお願いします!」
せっかくアノンが生徒たちと交流できる滅多にない機会だし、ここは俺も手を貸すとしよう。アノンもようやく書類仕事が終わったようだし、最後に少しだけでも楽しめそうでなによりである。
初めはアノンに遠慮していた生徒たちだが次第に打ち解け、シリルたち以外の生徒たちとも交流ができたようだ。最終日は日が暮れるまで海で生徒たちと遊んだ。
「さて、これより最後のイベントであるキャンプファイヤーを始める」
そして日が暮れて夜になり、この合宿の最後のイベントが始まる。
最後のイベントということで合宿に参加していた生徒全員が参加していた。エリーザとソフィアもシリルたちが誘ってくれたようだ。
「ギーク先生、キャンプファイヤーとはなんですか?」
「ふむ、いい質問だな、シリル」
こんな時でもちゃんと手を挙げて質問をするのはシリルらしい。
「キャンプファイヤーとは俺の故郷の行事で、大きな焚き火をみんなで囲って様々な催しをするというイベントだ」
昔はよく学校のお祭りなどのイベントで最後に校庭で行われていたものだが、危険で近隣住民に迷惑が掛かかることもあって、近年では行われなくなってきた行事である。とはいえ、せっかくの機会なので、この浜辺で行ってみることにした。もちろん施設には許可を取ってある。