「ヴェヌシス。
ラビアンジェの創った世界この世界にいる限り、時間の際限はないわ。
もちろん、アヴォイドも」
「ああ。
ずっと一緒にいよう、ヴェヌシス」
ヒュシスとアヴォイドがヴェヌシスの前に立つ。
すると未だにリコリスに巻きつかれ、座りこんだままのヴェヌシスが、ボロボロと涙を溢し始めた。
「……ごめ、ん……ごめん……」
くしゃりと顔を歪ませたヴェヌシスは、搾り出すような声で、謝る。
今のヴェヌシスは、何百年も生きた悪魔からはほど遠い姿だ。
まるで外見と同じ、10才程の子供に見える。
何度も謝りながら涙するヴェヌシスの、頬を伝って落ちた雫が、巻きつくリコリスの上に落ちる。
するとリコリスは雫に触れた部分から、霞のように輪郭が揺らぎ、霧散していった。
世界は、ただ白いだけの、何もない空間へと変わっていく。
「あなた達が生き別れになった頃の姿で、あなたが望んだようにヒュシスとやり直してもいい。もしくは大人の姿に戻り、人だった頃に得られなかった、姉弟で語り合う時間を持つのもいいと思うわ。時間は無限にあるもの。
好きになさい」
「やり、直し……うっ、うっ……ラビアンジェ……ごめん……本当に……ごめんっ」
公女が幼い姿の姉弟とアヴォイドにそう伝えると、ヴェヌシスが公女に謝り始め、嗚咽を漏らす。
ロブール公子が報告した、初代ロベニア国王ヴェヌシスが悪魔になった原因。
それは姉のヒュシスと生き別れる前の、11才の頃に時間を戻そうとしたから。
そうか、公女は全てを計算して……。
「そうだ、アヴォイド。
私の記憶を覗いて、お手本を見せてあげたでしょう。
あなたにセコンド役を任命するわ」
……公女よ、清々しい声で、ムードを台無しに……。
「そうね、アヴォイド。
悪役レスラーもやってちょうだいね」
ヒュシスも、公女の話にしれっと乗りつつ、自分の要望を押しつけるでない。
しかし余は思う。
ヒュシスにして、公女だと。
「そ、そんな……ヒュシスにまた……」
ヴェヌシスよ、また、何だ?
何故潤んだ目で、それも頬をほんのり赤らめ、ヒュシスを上目遣いに見た?
「…………くっ……善処してみよう」
アヴォイドよ、苦渋の決断的な雰囲気を出しまくっておるな。
そこは断っても良いであ……ろ、う?
ん?
何故、ヒュシスと公女が余の方を見ておる……。
「ないわね」
「そうね」
再び公女の言葉に、ヒュシスが同意して、少女2人が揃って頭を振る。
くっ、何故だ?!
余の中に、訳のわからぬ悔しさが生じておる?!
「ふぅ、ラビアンジェ。
そろそろ出よう」
ライェビスト、情緒が死んだ、魔法馬鹿め。
しかし余は、悔しさに加え、いたたまれなさも感じ始めた。
故に、どうでも良さげにため息を吐いた、魔法馬鹿の発言に全力で乗ってくれる!
「そうだな。
公女よ、頼めるか」
「そうね。
それじゃあ、ヒュシス、アヴォイド。
そしてヴェヌシス。
良い余生を~」
良し!
公女が言うだけ言って、ヴェヌシスには手をヒラヒラ振って、余達の方へと踵を返した!
「ほら、ヴェヌシス。
立って」
「ヒュシス……」
するとヒュシスがヴェヌシスに手を差し出し、ヴェヌシスがその手を取る。
途端、姉弟を中心に、様々な紫色のアイリスが芽吹き、次の瞬間には、この世界全てにアイリスが咲き誇った。
風が吹き、小川が流れ、空に雲が浮かび、影が生まれる。公女が歩んだ後ろに、そして公女が歩を進める度、あぜ道ができる。
「あの3体からの、そしてピヴィエラからの、最期の餞別よ」
振り返らずに告げた公女の瞳は、透明感のある煌めく藍色。
あの3体とは、恐らく虎、蜘蛛、亀の聖獣達だろう。
そしてピヴィエラもまた、聖獣だ。
風、水、土、聖の様々な非なる魔力が生み出し、模した自然だ。
公女の瞳の変化から、公女にもロブール家特有の瞳の力があったのかと……いや、少し違和感がある。
「ほう、魔法でミハイルの力を複製したか」
「その通りよ、お父様。
さあ、ジルガリム、お父様。
行きましょう」
公女が余達に、それぞれの手を差し出し、余達も手を取った。
すると余の視界は白い光に包まれ……。
「「「「「「「ありがとう、ラビアンジェ」」」」」」」
公女の世界に留まる者達、全員の声が聞こえた気がした。
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
これにて悪魔ジャビとの最終戦(?)は、お終いです(≧∀≦)b
最後まで、(ほぼほぼ)シリアスで走れました!
ええ、誰が何と言おうと、最後まで(ほぼほぼ)シリアスでした!
やったー!