『ウロボちゃん』から、巨大な穴からモンスターが大量に出現したという報を受けた俺たちは、ひとまず『ウロボロス』へと戻った。
拘束した総統や、自殺しようとした女副官などはすべてメンタードレーダ議長や銀河連邦の救援艦隊の方たちそのままバトンタッチした。
そしてそのまま大陸北部に開いているという大穴まで直行し、今『ウロボロス』の『統合指揮所』の正面モニターに映っているのは、その大穴である。
大針葉樹林の広がる大地の真ん中に、直径300メートルくらいの穴がぽっかりと開いていた。しかもその穴は浅い角度で開いているようで、下りて歩いていけるように見える。
問題なのはその斜めの穴を凄まじい数のモンスターが這いあがってきていることだ。見た感じDランク(深淵獣で言うと乙型)以下のザコが多いが、時折Cランク(甲型)、Bランク(特Ⅰ型)も交じっている。
モンスターたちは地上に出ると、そのまま森の中を歩いていこうとする。しかし木々に阻まれて思うように進めていないようであった。小型のモンスターは木の間を抜けていき、大型のものは木を押し倒して進んでいくが、その歩みは幸いにまだ遅い。
ただしモンスターが目指す先には、大きな都市がある。もちろんその周辺にも耕作地帯が広がっていて住宅地も散在している。放っておけば大惨事になるのは間違いないだろう。
それまで「ほへ~」とか間抜けな声を出しながらモニターを見ていた双党が、俺の方を振り返った。
「先生、あの大きな穴がまるまるダンジョンの入口っていうことでいいんでしょうか?」
「たぶんそうなんだろうな。にしてもあんな大きなものは見たことがないが」
「下手するとこの『ウロボロス』ごと入れそうですよね」
「確かにな」
言われてみれば、たしかに宇宙戦艦がそのまま通れそうなほどに巨大な穴である。
当然ながら怪獣みたいな大きさのAランク、『特Ⅱ型』相当のモンスターも余裕で出てこられそうである。穴が広がる前は難易度の高いダンジョンという話だったので、『特Ⅱ型』が大量に出てくる可能性も否定できない。
「とりあえず地上に出てきてる奴らは片づけておこうか。『ウロボロス』、やれるか?」
『本艦と「ヴリトラ」で対地射撃を行えば余裕でっす。ただ周囲の森林に少し被害が出るかもしれません~』
「多少は仕方ないだろ。火事だけに気を付けてやってくれ」
『了解しました~。「マギレーザー」は熱を発生しないので大丈夫でっす。レールガンも併用しまっす』
レーザーなのに熱を発生しないのは不思議な気がするが、まあ魔力ベースの武器だから普通のレーザーとは違うということなのだろう。
この場には巨大戦艦『ウロボロス』と『ヴリトラ』の2隻でやって来ているのだが、その2隻の下面にある砲塔が稼働し、巨大ダンジョン入り口付近に密集するモンスターたちに狙いをつけた。
『「マギレーザー」連続発射~』
赤黒い光線が瞬時に何十本も閃くと、地上のモンスターたちを薙ぐようにして切り裂いていく。同時に射出された実体弾が、散弾のように地上に降りそそぐ。
巨大戦艦2隻の対地射撃の前に、地上のモンスターたちはなすすべなく消滅させられていった。ブレス持ちのモンスターはこちらに向かって火球や氷球などを放ってくるが、艦体の表面に張られた魔力を使ったシールド、『マギシールド』を破ることはできない。
「『ウロボロス』と『ヴリトラ』の艦砲射撃はすさまじいでぇすね。モンスターの大群がまるで塵のようでぇす」
「こうなると少し可哀想な気もしますね。でも放っておくことはできない存在ですから、仕方ないのですけど」
レアと三留間さんがそれぞれ感想を述べている間にも、モンスターたちは大部分が消えてしまい、地上にはおびただしい数の魔石が残された。
『艦長、穴の奥からは継続的に多くのモンスターが出てくる反応がありまっす。ただし数はそこまで多くはないようでっす』
「なら乗り込むチャンスか。『ウロボロス』、この船ごと入ることは可能か?」
『さすがにそれは無理そうでっす。少し入ると通路が狭まっていまっす』
「まあそうだよな。じゃあ下りて調査と行くか。30分後に調査を開始するから全員飯を食って準備をしておいてくれ」
俺が指示すると、青奥寺たちは返事をして『統合指揮所』を出ていった。
さて、この巨大ダンジョンはどれほど広いものなのだろうか。俺としても初めてになる規模のものなので、ちょっと楽しみではあるな。
さて、超巨大ダンジョン攻略だが、メンタードレーダ議長に連絡を入れたところ、
『私も是非ご一緒させてください。そのダンジョンの奥から、かなり特殊な力を感じるのです。近くに行けば私の感覚でなにかわかるかもしれません』
と返信が来て、急遽議長同行ということとなった。
そんなわけで今、ダンジョンの入り口である直径300メートルはある大きな穴の縁に、多くの人間が揃っていた。
俺たちの方は、俺、青奥寺、双党、新良、レア、雨乃嬢、絢斗、三留間さん、そしてアンドロイド兵100体である。
メンタードレーダ議長の側からは、議長本人、そしてその護衛30人が降りてきた。
議長の護衛は全員が濃紺の戦闘服に身を包んだ兵士で、手には『魔導銃』の銀河連邦バージョンを手にしている。彼らの銃も背中に背負った充填槽とつながっていて、長期の戦闘にも耐える仕様のようだ。勇者から見ても相当に練度の高い兵たちである。
『無理を言って申し訳ありませんミスターアイバ。しかしやはりこの奥は私が直接入って調べた方がいいようです』
俺のところにメンタードレーダ議長がやってきた。メンター人という特殊な宇宙人である議長は身体が半分別次元に存在しているとかで、見た目は人の形をした白い靄でしかない。
「いえ、こちらのセンサーや自分の知覚にはひっかかってこないものなので、議長に直接調べてもらえるのは助かりますよ」
『ここまでのところ、この惑星ドーントレスはゼンリノという人物に好きに扱われてしまったようですからね。このダンジョンにそのゼンリノの最終目的があるのかもしれませんし、それは銀河連邦としても掴んでおかなければならない情報です』
「なにもないのが一番なんですけどね。とにかくモンスターの発生を抑えるためにも一度奥まで行ってみましょう」
ということで、全員で隊列を組んで、ダンジョンの穴へと入って行った。