レオノーラとアデーレが部屋に戻り、しばらくすると、またもやノックの音が聞こえてくる。
「どうぞ」
そう答えると、扉がゆっくり開かれ、エーリカが部屋に入ってきた。
エーリカは水色のドレスを着ており、肩が露出している。
「ど、どうですかね?」
エーリカはちょっと頬を染めながら部屋に入り、聞いてくる。
「似合っていると思うし、普段の印象と違うから新鮮な気がするな」
「で、ですかね? 変じゃないです?」
「いや、とても良いと思うぞ」
「ありがとうございます」
疲れる……
でも、これで今度行く時はやっぱりという枕詞を付けて同じセリフを言えばいいだろう。
残念ながら俺は頭が良いが、こういう時になると語彙力が貧困になるのだ。
「まあ、座れよ。ちょっと慣れるためにもそれで話でもしよう」
「はい」
エーリカがさっきまで座っていた対面に座った。
「固いな」
「慣れてませんし、仕方がないじゃないですか」
「写真でも撮って親にでも渡すか?」
「飾られちゃいそうなので嫌です」
だろうな。
「まあ、着る機会なんてないだろうしな。3級を取ったら城に行くから必要なんだろうけど」
「3級なんて先の先ですし、雲の上すぎて取れる気がしませんよ」
まあ、先の話だわな。
「そういやウチの学校の卒業式ではドレスを着ていた女子が多かったな」
「あ、そういえば、ウチも何人かは着てましたね」
「やっぱりか。多分、卒業式の後にやってたパーティーのためだと思うが……」
パーティーなんてよくやるわ……
「王都の学校はそんなのもあるんですね……一応、聞きますけど、出ました?」
はい?
「出たと思うか?」
「思いませんね」
エーリカが笑う。
その顔はいつものように明るく、ようやく本当の意味でドレスが似合うなと思った。
「すぐに帰ったな。興味ないし、出ても誰ともしゃべらん」
「今なら出ますか? もしもの話ですよ?」
今……
「アデーレ次第」
他に話すような奴いないし。
頑張ってもマルタぐらいだ。
「ですかー……私はちょっと出てみたいですね」
「その格好でか?」
「あ、やっぱりいいです。そういえば、ジークさん、お仕事はどんな感じですか?」
エーリカは恥ずかしくなったようで話題を変えた。
「あー……クリスが帰ってきて作業場を追い出されたわ」
「あ、帰ってこられたんですね。ドロテーちゃんは喜んでたでしょ」
「いつものドロテーに戻ってたな。それでお土産ということでワインをもらったわ。飲むか? ワインが似合いそうな格好だし」
そう言って、クリスにもらったワインを取り出し、テーブルに置く。
「せっかくですし、夜に皆で飲みましょうよー。私は1杯だけですけど」
2杯で潰れるしな。
「そうするか。それで追い出されたから条件付きでテレーゼのアトリエを借りることになったわ」
「へー……」
「それでなんだが、明日は観光だとしてもそれ以降はどうする? お前らがいないとテレーゼがアトリエを貸してくれないから来てほしいんだが……」
やることないけどな。
「あー、それが条件ですか。いいですよ。元々、そのつもりでしたし、一応、ジークさんのお手伝いという名目で来てますんでお茶を淹れます」
ありがとうよ。
「じゃあ、頼むわ」
「わかりました! あの……そろそろ着替えてきてもいいですかね? レオノーラさんとアデーレさんが来そうです」
そいつらはもう来たけどな。
「そうしろ。9級に受かったらそれでサイドホテルに行こうか」
10万エルも出したエーリカのためにもちょっと良いコースにしよう。
「ありがとうございます!」
エーリカは満面の笑みを浮かべ、部屋を出ていった。
「ヘレン、人付き合いって大変だな」
「もちろんそうです。でも、レオノーラさんじゃないですけど、身内は大切にしてください」
「わかってるよ」
その後、いつもの格好に戻ったエーリカと共にお茶を飲んでいると、本当にレオノーラとアデーレが1時間後に何食わぬ顔でやってきたので4人で話をしながらお茶を飲んだ。
そして、この日の夕食はホテルなので俺の部屋で夕食を食べ、一息つく。
「へー……クリスさんが帰ってきたんだね。じゃあ、ドロテーちゃんも安心だ」
夕方にエーリカに説明したことを2人にも説明したのだ。
「そうそう。そういうわけで明後日、付き合ってくれ」
「いいよー。肩でも揉もうか?」
「いらん。邪魔なだけだろ」
そもそも凝ってない。
「じゃあ、邪魔しないように本でも読んでるかなー」
「そうしろ……アデーレ、あまり本部に行きたくないかもしれんが頼むわ。もし、誰かさんがどうしても嫌って言うならホテルで待っててもいいが……」
「いや、行くわよ。1人でホテルに残っている方が嫌よ。それにアウグストさんもあんなことがあったら絡んでこないんじゃない? レオノーラがいるわけだし」
どうだろ?
「まあ、頼むわ。遊んでいればいいから」
「勉強でもしようかしら?」
真面目な奴。
良いことだけど。
「そうしてくれ。それでクリスからお土産ってことでワインをもらったわ」
レオノーラとアデーレにワインを見せる。
「へー……これはすごいね」
「おー……確かにすごいわね」
すごいの?
「出張先で高いワインをもらったって言ってたけど……」
「これ、50万エルはするよ」
「確かにそのくらいよね」
バカじゃない?
「……ワインに50万エル?」
「……御二人は何を言っているんでしょうか?」
エーリカと顔を見合わせた。
「プレヒト家の人に贈るワインだからねー。私もこんな高いお酒は飲んだことないよ」
「私もよ。それを弟弟子にあげるクリスさんもクリスさんね」
あいつ、すげーな。
「エーリカ、潰れてもいいから2杯は飲んでおけ。二度と飲めんかもしれんぞ」
「確かに! グラスを持ってきます!」
エーリカが人数分のグラスを持ってきてくれたので4人でワインを飲む。
「おー! 濃厚な味わいでエレガントだ!」
「香りもフルーティーでエレガントです!」
なー?
「あなた達、絶対に適当に言ってるでしょ……」
そりゃそうだろ。
「お前ら貴族令嬢はわかるのか?」
「………………」
「………………」
2人はワインを嗅ぐと、口に含んだ。
「……これは50万エルだね」
「……ええ。40万でも60万でもないわね」
俺とエーリカ以下のコメントをありがとう。
お前ら、本当に貴族か?
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!