あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
夕方になり、仕事が終わると、本部長が迎えにきたので車に乗り、バイキングの店に向かった。
そして、店員にテーブルに案内されると、食事を取りにいく。
「レオノーラさん、このお肉は何ですかね?」
「それはマトン。羊肉だね」
「おー! 羊さんですか! 食べたことがないです!」
エーリカが嬉しそうに肉を皿に乗せる。
「エーリカさん、野菜を先に食べないとダメよ」
そう言うアデーレの皿には野菜が1つも乗っていない。
「そうでしたね! この桃にしよう!」
「エーリカ、このぶどうも良さそうだよ!」
「ホントですね!」
桃やぶどうって野菜か?
俺はちょっと呆れながら3人の皿を見ると、テーブルに戻った。
「えらい楽しそうだな……」
本部長がワインを飲みながらいまだに料理を選んでいる3人を見る。
「毎朝、こんなんですよ。ホテルの朝食もバイキングなんで」
「食い意地の張った弟子共と猫だな」
ヘレンはすでにがっついている。
「いいじゃないですか」
「まあな……」
3人娘が料理を乗せた皿を持って戻ってくると、食べだす。
「おー、美味しいです!」
「珍しいのも多いし、ここは良い店だね」
「ホントよね。初めて知ったわ」
3人は嬉しそうに食べている。
「それは良かった。ここは知り合いの店でな。よく弟子達を連れてきているんだ」
へー……
当然、俺は初めて来た。
「ありがとうございます!」
「感謝感激だね」
「気を遣って頂いてすみません」
そう言う3人の手は止まっていない。
「ああ……なあ、ジークはどうだ?」
なんか嫌だなー……
「ジークさんは素晴らしい方だと思います」
「全然、嫌な人じゃないよね。ジーク君を悪く言う人間は見る目がないだけだね」
「まあ……そうですね」
眼科に行け。
「あのジークがなぁ……」
本部長がしみじみとつぶやく。
絶対に言わないけど、すごく老けて見えた。
「本部長さんってジークさんが子供の頃からの付き合いなんですよね? どんな子供だったんです?」
「聞きたいなー」
エーリカとレオノーラのテンションが上がると、アデーレがそっと肩に手を置いて、同情してくれた。
「こいつはこのまんまだ。自分が一番で後は無能と考える男だな。良かれと思ってわかりやすいようにゆっくり錬成を見せたら『遅っ……』って鼻で笑った奴だ。当時5歳」
そんなこともあったね。
「あはは。かわいくなーい」
「ジーク君、変わってないねー」
精神的にはもう大人だったんだよ。
「なあ、これが続くのか?」
アデーレに聞いてみる。
「それがメインであることは間違いないわね」
やっぱりかい。
だから嫌だったんだ……
その後は食事をしながらの嫌な過去話が続く。
しかし、エーリカとレオノーラが興味深そうに聞いているし、アデーレもなんだかんだ言って笑いながら聞いていた。
そして、ある程度、食も進むと、3人娘がデザートを取りにいってしまった。
「楽しそうな3人だな……」
「ですね」
それは間違いない。
「ジーク、ちょっとタバコに付き合え」
「一人で行けんのですか?」
「話がある」
ようやく本題か……
「行きますか」
俺達は立ち上がると、灰皿がある外に出た。
そして、本部長が咥えたタバコに火を点け、煙を吐いた。
「お前も吸うか?」
「1本下さい」
「ん」
本部長がタバコをくれ、火を点けてくれたので吸い、白煙を吐く。
「やっぱり美味いもんじゃないですね」
「まあ、そういうもんだ。お前、タバコ吸ってたのか?」
「40年振りくらいですかねー?」
めちゃくちゃ忙しい時期があり、吸っていた時期がある。
「そうか……お前、たまに変なことを言うな」
「変な人ですから」
前世の記憶があるのは普通じゃない。
「ジーク、さっきも言ったが、良い子達だな」
「さっきも言いましたが、ですね」
何度でも言ってやろう。
あいつらは俺が持っていないものを持っているのだ。
「才能はあるんだな?」
「1日やそこらでエンチャントができるようになったんですよ? それで才能がないなら誰があるんですか」
「そうだな……ハァ……」
本部長がため息をつく。
「本部長が今から言うことを当てましょうか?」
「おう、天才君、言ってみ?」
「ウチの支部が燃えた事件…………アウグストが黒幕でしょう?」
「…………笑えんな、お前」
本部長が唖然とする。
「いくらなんでも反逆罪認定も罪の確定も早すぎる。私にはトカゲの尻尾切りに見えました。そして、昨日、アウグストに会ったんですが、あいつ、『あんなしょぼい支部』って言ったんですよ。なんで支部がしょぼいことを知っているのか」
皆、名前しか知らない辺境の地だぞ。
しかも、『あんな』という言葉は見てきた人間の言葉だ。
「バカだな、あいつ」
「救えないくらいにね」
家が潰れるぞ。
「さて、どうするか……肝心の証拠がない」
「本部長の権限でレオノーラとアウグストの解答用紙を入手できません?」
「できるが?」
じゃあ、問題ないな。
「持ってきてください。それでアウグストの不正を暴きます。それができたらあいつの家の家宅捜索もできるでしょう? それで終わりです。あいつの家は大きいから家宅捜索なんて普通はされませんが、陛下の名のもとに制定された国家資格の不正は大罪ですからそれも可能です」
「家宅捜索されることを想定していないから例のリートの地方議員との繋がりの証拠も処分していないわけか」
「絶対的な権力を持つ者はそうです。それで自らが手を回して反逆罪と決めたのが仇になり、ブーメランのように自分に刺さります。陛下を騙した紛れもない反逆罪ですからね」
あいつの家がどれだけ大きかろうが、陛下に逆らったら終わりだ。
「一応、確認するが、お前はそれでいいのか?」
「アウグストなんてそもそも眼中になかったし、どうでもいいです。あいつが出世しようと興味ない。所詮は5級ですし、クリス、テレーゼ、ハイデマリー以下ですよ。でもね、リート支部を燃やしたのはいただけない。そして、よくもまあ、レオノーラをバカにし、貶めることができたもんだ。絶対に許さんわ」
リートなんていう遠い地にいる俺達なんか放っておけばいいものを……
「わかった……明日の朝、私の部屋に来い」
「私一人でいいですね?」
「ああ。クリスの奴を呼ぶが、お前の弟子3人は呼ばなくていい」
クリスを呼ぶのは貴族の権力を使わせないためだ。
「わかりました……戻りますか」
タバコを灰皿に捨てる。
「そうだな……」
本部長もタバコを灰皿に捨てたのでレストランに戻ることにした。
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