「次は軍の詰所ですね。こっちです」
エーリカがまたもや左に歩いていくのでついていく。
「一応、聞くんだが、毎回、直接納品か?」
「人がいませんしね。取りに来てもらうのも気が引けますし」
俺なら取りに来いって言うんだがなー……
いや、でも、お情けの依頼だし、エーリカが正解か。
俺達はそのまま歩いていくと、役所より小さい2階建ての建物の前までやってきた。
「ここか?」
「ええ。ここで手続きなんかをするんですよ」
エーリカが頷いて詰所に入っていったので俺達も続く。
詰所の中はそんなに広くなく、受付内に数人がいるだけで利用者はいない。
まあ、軍の詰所に用がある人はそんなにいないから仕方がないだろう。
でも、やっぱりウチより良い。
「ルッツくーん」
エーリカが受付に行き、受付内の茶髪の男になれなれしく声をかけた。
「ん? エーリカか」
声をかけられた男は立ち上がり、こちらにやってくる。
男は背も高く、顔立ちも整っていた。
もしかして、彼氏だろうか?
「おはよー」
「ああ、おはよう。そちらは?」
ルッツとやらがチラッと俺を見ながらエーリカに聞く。
「昨日、赴任してきた同僚のジークさん」
「そうか……私はこの町の兵士をしているルッツ・リントナーです。よろしくお願いします」
ルッツがそう言って手を差し出してきたので握った。
「ジークヴァルト・アレクサンダーです……リントナー?」
エーリカもリントナーじゃなかったか?
「ああ……従兄妹なんですよ」
なるほど……
従兄相手だったからあんなにくだけてたのか。
「ルッツ君、納品のポーションを持ってきたよ」
エーリカがカバンをカウンターに置く。
「ああ、早いな……じゃあ、確認するから出してくれ」
ルッツがそう言うと、エーリカがカバンからポーションを出していき、ルッツがそれを一個一個、確認していった。
「どれも質に問題はなさそうだし、良さそうだ。ちょっと待ってね。書類を取ってくるから」
ルッツはそう言うと、奥にある部屋に入っていく。
「良かったです……ポーションはちょっと自信がなかったんですよ」
エーリカが声を落とした。
「そうなのか? 俺も倉庫で確認していたが、何の問題もなかったぞ。もちろん、レンガもだ」
「ポーションなんかの薬作りはレオノーラさんが得意なんで、ずっとお任せしていたんですよ。私はそれこそレンガなんかのもの作りが得意です」
あー……昨日、勉強を見てやったが、確かに錬金反応とかの化学が苦手だったな。
「当然、全部できるのが望ましいが、仲間がいるならそういう風に仕事を分けるのは悪くないぞ」
「そうですね……その仲間が3人なのが問題なんですよね」
そうだね……
マジで早期にどうにかした方が良いんだが……
俺達が小声で話し合っていると、ルッツが部屋から出てきてこちらに歩いてくるのが見えた。
しかし、ルッツの他にも髭を生やした偉そうな雰囲気を出す男も一緒だ。
「……貴族だな」
「……エスマルヒ少佐です」
少佐か……
ちょっと偉いな。
「待たせたね、エーリカ。ここにサインをもらえるかい?」
ルッツが紙をカウンターに置いて指示をした。
すると、エーリカが紙にサインをする。
「はい」
「ありがとう。それで次の依頼の話なんだが……」
ルッツがチラッと少佐を見た。
「こほん……今回の依頼はご苦労だった。質の良いポーションらしく、こちらも満足している」
少佐が後ろ腕を組んだまま偉そうに言う。
「あ、ありがとうございます」
エーリカがお偉いさんの前ということでおずおずと頭を下げて礼を言った。
「それでだが、魔導石を100個ほど注文したい」
「魔導石ですか……期日は?」
「1週間だ」
はい?
「え? 1週間ですか? それはちょっと……」
「難しいのかね? 緊急依頼なんだが?」
「そ、その……今は人手が足りなくて」
「なら結構。無理なら民間に頼むし、緊急依頼も受けられないようなら今後の付き合いを考えさせてもらうことになる」
あー……これはエーリカでは無理だな。
「エーリカ、代わろう」
エーリカの肩に手を置く。
「え? お、お願いします」
エーリカがおずおずと下がったので代わりに前に出た。
「君は?」
「昨日からリート支部に配属になったジークヴァルト・アレクサンダーです。よろしくお願いします」
「ふむ……ようやく新人が入ったか」
新人じゃないけどな。
「ええ。それで依頼についてなんですが、いくつか確認したいことがあります。大丈夫でしょうか?」
「それはもちろんだ」
「まずは緊急依頼ということで期日が1週間と聞きました。これはさすがに緊急すぎます。そんなに急いで必要なんですか? 理由を伺いたい」
「理由は機密事項なので言えない」
まあ、そう返すわな。
「ですが、これだけはお聞きしたい。町の存続に関わることですか? いきなり魔導石100個は戦争でも起きるのかと思ってしまいます」
魔導石というのは魔法を使うためのブースターに使われ、よく魔術師が持っている杖なんかに利用されるのだ。
「いや、それはない。単純な演習だ。詳しくは言えないが、予定が詰まっているのだよ」
その予定をずらせばいいだけだ。
やはり嫌がらせだな、これ。
「なるほど。わかりました。それと緊急依頼でしかも、1週間となると料金が跳ね上がりますが、大丈夫ですか?」
「いくらくらいかね?」
「軽く倍はしますよ? 200万エルです」
そう答えると、少佐が眉をひそめた。
「高すぎんかね?」
「緊急依頼とはそういうものです。ましてや魔導石100個を1週間ですからね。高くもなります。嫌なら民間に頼んでください。さらに倍になりますけど」
倍で済めばいい。
民間は足元を見るからもっとぼったくってくるだろう。
「本当に用意できるのかね? 失敗は許されんぞ?」
失敗を望んでいるくせに。
「用意はできます。ただ、逆に魔石を用意できるんですか?」
魔導石の材料は魔石だ。
「こちらで用意せよと?」
「当たり前でしょう。ウチに魔石の在庫が100個もあるとお思いですか? 材料から用意しろというのならば、市場なんかから仕入れますからさらに料金を請求しますよ? もちろん、その料金は見積もりになりますし、緊急ですから割高になります」
少佐の眉間がさらに険しくなった。
「……わかった。用意しよう」
「では、今日中に届けてください」
「今日中? それは無理だ」
は?
「何故? 緊急依頼でしょ? 時間がないのですから人を集めてでも用意してください。それともその程度の緊急ですか? ならば期日を伸ばすことをお勧めします」
「……ルッツ、用意しなさい」
部下に投げたか。
「鑑定書付きで頼みますよ。こちらはそちらが用意した魔石で魔導石を作ります。それで質が悪いと言われても困ります」
後で質にいちゃもんをつけるのは貴族の嫌がらせでよくあることなのだ。
「ルッツ、暇な奴らを使いなさい」
少佐はそう言うと、そそくさと部屋に戻っていった。
「暇な人なんていないんですけど……」
ルッツがポツリとつぶやいた。
「上司に恵まれんな。まあ、そういうことだから頼むぞ。エーリカ、戻るぞ」
「は、はい」
俺達は嫌そうな顔をしているルッツをこの場に残し、詰所を出た。
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