朝起きると、準備をし、家を出る。
そして、やはり30秒で支部に到着した。
昨日も帰る時に30秒で帰れたし、残業の時はこれほど楽なものもない。
もっと言えば、近いからこそエーリカもサンドイッチを持ってきてくれたんだろうし。
良いところに住めたなーと思いながら支部に入り、2階に上がる。
すると、やはりエーリカが先に来ていた。
「あ、おはようございます」
エーリカがいつものように満面の笑みで挨拶をしてくる。
「ああ、おはよう。昨日はありがとうな。美味しかったよ」
「美味しかったですー」
2人で礼を言い、洗ったランチボックスを返した。
「いえいえ。このくらいしかできませんから。あ、ジークさんに手紙が来てますよ」
エーリカがそう言って俺のデスクを指差す。
「手紙?」
俺のデスクの上には淡いピンク色の封筒が置かれていた。
「アデーレさんという貴族の方からですね」
アデーレ……
「ジーク様、詫び状兼礼状の返事ですよ」
「早くないか? 出したのは一昨日だぞ」
速達じゃん。
「読んでみますか?」
「後で読もう。今日中には依頼を終わらせたいし」
手紙をしまい、今日も魔導石作成の作業を始めた。
エーリカもまた鉄鉱石を鉄に変える作業に入る。
そのまましばらく地味な作業を続けていると、ヘレンが寝だし、支部長が階段を上がってきた。
「おう、やってるな」
支部長がこちらにやってくる。
「お疲れ様です」
「どうかされましたー?」
「いや、ちょっと緊急依頼を受けたって聞いてな」
エーリカが報告したのかな?
俺はしてない。
「たいした依頼じゃないですよ。でも、納期がかなり短いのでふんだくります」
「ああ、そうしろ、そうしろ。その辺はお前に任せる」
つまり請求書も俺が作らないといけないわけか。
見積もりも出してないし、相談もなしに納期を縮めてきたからぼってやろう。
「支部長、こういう緊急依頼があったって町長か軍のお偉いさんに伝えてもらえません?」
「ん? 事前に手を回しておくのか?」
「まあ、そんな感じです。というか、これ、エスマルヒ少佐が勝手にやってることで上は知らないことだと思うんですよ。だって、魔導石の緊急依頼なんてありえないですし」
いくら貴族とはいえ、少佐程度が数百万も勝手に動かしていいわけがない。
「なるほど……進捗はどうだ?」
「現在、100個中62個終わっています。今日中には終わりますので明日には納品に行く予定です」
「……そんなに早く終わるもんなのか?」
「私は3級ですよ? 人間的にはあれですが、実力はあります」
エリート街道を突き進んでいた実力者なのだ。
「自分で言うか……」
「事実です。依頼に失敗したこともありません」
「いや、そっちじゃなくて……」
人間的にはあれの方か……
「……それも事実です」
「そうか……とにかく、わかった。今から役所や軍部に行ってくるわ」
「お願いします」
支部長が出かけたので作業を再開する。
そして、昼休憩の時間になり、昼食を食べると、午後からもひたすら作業を続けていった。
「エーリカ、2個目は早かったな」
エーリカは2個目の鉄鉱石を鉄に変え終わっていた。
時刻は2時になり、昨日よりも早い。
「はい!」
「3個目はもっと早いぞ」
「頑張ります!」
俺達はその後も作業を続けていくと、5時を回った。
チラッとエーリカを見ると、真剣な顔で錬金をしており、鉄鉱石も8割がた鉄に変わっていた。
「急ぎじゃないし、明日でもいいぞ」
「これだけは終わらせたいです」
気持ちはわかるな。
あと少しならやってしまいたい。
「残業代はつけろよ」
「何気に初めてですね……」
暇な職場なんだな……
「そうか……」
……さて、どうしようか?
実は俺、あと2個で終わる。
終わらせて先に帰ってもいいかな?
どうだろ?
チラッとヘレンを見る。
「ジーク様、昨夜からぶっ通しで作業をしておられます。少し休憩されては? お体に障ります」
休憩して、時間を合わせろってことか……
「そうするか……エーリカ、コーヒーでも飲むか?」
「あ、用意しますよ」
「大丈夫。気分転換に俺がやる」
少し腰を浮かしたエーリカを制すると、お茶のセットが置いてあるところに行き、コーヒーを用意する。
そして、2人分のコーヒーを用意すると、1つをエーリカのデスクに置き、席についた。
「ありがとうございます」
「ああ」
コーヒーを一口飲むと、時間稼ぎのためにアデーレの手紙を取り出し、封を開けた。
そして、手紙を読んでいく。
「何て書いてあります?」
ヘレンが聞いてきた。
「ひとまず謝罪は受け取ったし、もう気にしていないと書いてあるな」
「良かったですね」
これこそ社交辞令じゃないだろうか?
「ホテルの件も喜んでもらえたなら良かったと書いてあるな。あと例の社交辞令も是非と書いてある」
王都に戻ることがあったら食事しようってやつ。
「社交辞令じゃないですって」
王都に戻ることがないんだから社交辞令だよ。
「実際、食事なんか行かんしな。アデーレと2人で何を話すんだよ」
「いや、元同級生で同じ職場で働いていた友人なんですから学生時代のことでも仕事のことでも何でも話せるじゃないですか」
そこが地雷なんだなー、これが。
何しろ、覚えてなかったし。
「もし、その時があれば、お前が間に入ってくれ。可愛いお前なら皆が笑顔になる」
「悲しいですねー……他には何か書いてありましたか?」
他に……
「『そちらの生活はどうですか? 仕事は忙しいでしょうか?』って書いてるな……え? これ、返さないとダメ?」
というか、左遷された俺に聞く?
ケンカ売ってんの?
いや、アデーレはそんな子じゃないか……
「聞かれているなら答えないとダメでしょうね」
マジかよ……
謝罪と礼をして終わりだと思っていた。
「また手紙を書くのか……」
「御友人でしょう? 普通のことですよ」
普通……
「なあ、俺とアデーレって友人で合ってんの? ロクな会話をしてないぞ」
手紙の冒頭に『親愛なるジーク様へ』って書いてあるけど。
「これからするんですよ。そのための手紙でしょう」
めんどくさい、友人なんていらない、無視したい……
これが今の俺の思いなんだが……
「エーリカ、友達っているか?」
邪魔かと思ったが、聞いてみる。
「いますよー」
まあ、エーリカは人当たりも良いし、友達は多そうだ。
「めんどくさいと思ったことはない?」
「ありますよー」
え?
「意外な答えだ……」
「人間ですから機嫌や体調が悪い時もあります。それにケンカする時もあります。その時は良い気分ではないですけど、それ以上に一緒に遊んだり、過ごした楽しい思い出があります。そちらの方がずっと大きいんですよ」
なるほど……0か100で考えたらダメなんだな。
「手紙、書くか……」
「良いと思いますよ。それと横で聞いてて思ったんですけど、アデーレさんにも仕事はどうかって聞いた方が良いですよ」
ん?
「なんで?」
「逆にアデーレさんがそう聞いてほしいから仕事のことを聞いているんだと思います。女性はそんなものです」
「……そうなの?」
ヘレンを見る。
「愚痴を聞いてほしいんでしょうね」
「この手紙にその愚痴を書けばよくね?」
「奥ゆかしい方なんですよ」
まあ、貴族令嬢だしな……
「聞いたらダメなことを聞くけど、俺にメリットあるか?」
「聞いたらダメですねー。そんなものはまだわかりません。御二人はまだ何も始まっていませんし、どうなるのかは誰もわかりませんよ。でも、今までジーク様の人生はそういう人付き合いをデメリットと考え、切り捨ててきたんですよね? それで失敗したんですから今度は飛び込んでみましょう」
未知の世界に飛び込むのは怖いな。
俺、嫌われることに関しては自信があるし。
「エーリカもそう思う?」
「思います」
即答か……
「じゃあ、書いてみるわ……」
2人が言うならしゃーないと思い、書くことに決めたところで仕事に戻ることにした。
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