「こんなもんか」
地面に魔法陣を描き終えたので杖をしまった。
「魔法使いっぽいです」
マルティナが魔法陣を見ながら感心している。
「っぽいじゃなくて、魔法使いなんだよ。そして、お前も魔法使いだ」
「はい。それでどうすればいいんですか?」
「この魔法陣で使い魔を呼び出すんだ。そういうわけでこの魔法陣に血を垂らせ」
「え? 私の?」
当たり前だろ。
「俺が垂らしてどうするんだよ。俺にはもうヘレンという生涯のベストパートナーがいる」
「嬉しいですけど、そういうのは奥さんに……」
奥さん(笑)。
たとえ、結婚するようなことがあってもそいつは2番目だ。
ヘレンに代わる者などおらん。
「あ、あのー、血ってどれくらいです?」
マルティナが聞いてくる。
「ほんの一滴でいい。手を出せ」
そう言って、ナイフを取り出した。
「ひえ! 猟奇的なサイコパス!」
誰がだよ。
「自分でできんだろ。俺がやってやる」
「い、いいです! 自分でできます!」
「お前がやると時間がかかる。俺が一瞬で終わらせてやるよ」
そう言って、マルティナの手首を掴む。
「ぎゃー! せんぱーい、助けてー! 怖いですっ!」
うるせーなー……
「暴れるなっての。手元が狂うだろ」
こら、叩くな!
「ジークさん、やめた方が……」
「無理やりは良くないよー」
「とんでもない絵面になってるわよ……」
3人娘が止めてきたので手を離す。
すると、マルティナがエーリカの後ろに回り、背中に隠れた。
「めんどくせーなー……わかったから自分でやれ」
ナイフをエーリカに渡す。
「マルティナちゃん、ゆっくりでいいからね」
エーリカが優しく言いながらナイフをマルティナに渡した。
すると、マルティナがナイフを見て、固まる。
「時間がかかるってのに……」
「だからといって、ジーク君がやったらダメでしょ。犯罪臭がすごかったよ」
レオノーラが呆れながら苦言を呈してきた。
「ああいうのは他人がスパッとやった方が良いんだよ。時間をかければかけるほど怖くなるぞ」
「まあ、そうだけど、ナイフを持った大人が子供の手首を掴むのはやめようよ。これが表だったら兵士が飛んでくるよ」
人通りが多いところではさすがにせんわ。
「ハァ……勉強するか。完全に固まったわ」
マルティナはナイフを見たままピクリとも動いていない。
「気長に待ちましょう」
「これは時間がかかるね」
「私は見てらんないわ。こっちまで怖くなってきた」
俺達は机に行き、勉強を始めた。
「うーん……鑑定ってやっぱり難しいですね。これ、Cランクですか?」
エーリカが魔石を見せながら聞いてくる。
「Dランクだな」
「微妙なところがわかりませんねー……レオノーラさんはなんでわかるんです?」
「なんとなく。雰囲気。見た感じ」
適当だなー……
「参考になりませんね……」
なんないな。
「レオノーラは目が良いからな。一言で片づけるなら才能だ。でも、安心しろ。鑑定は時間がかかるかもしれんが、確実にできるようになる」
こんなもん慣れだし。
「ですかねー?」
「ゆっくりやりましょう……」
エーリカとアデーレが魔石をじーっと見だした。
「お前は?」
参考書を読んでいるレオノーラに聞く。
「8級落ちそう……」
「筆記?」
「うん……」
レオノーラもマルティナと同じで好き嫌いがはっきりしてるからなー……
「どこだ?」
「ここ」
俺はエーリカとアデーレの鑑定を見ながらレオノーラに勉強を教えていく。
その間、マルティナはナイフを指に当てたりしたものの、すぐに離して、息を吐いていた。
「ジークさん、そろそろ昼御飯の準備をしようと思うんですけど……どうしましょう?」
エーリカがマルティナを見ながら聞いてくる。
「終わりそうにないな……マルティナ、午後からにしろ。飯にしようぜ」
「ジ、ジークさん、すみませんが、やはり切ってもらえないでしょうか? 多分、夜になっても無理です」
マルティナが顔を上げ、涙を浮かべながら頼んできた。
「わかった」
立ち上がると、マルティナのもとに行き、ナイフを受け取る。
「あ、あの、せーのでお願いし――痛っ! ひどい!」
めんどくさいから秒で人差し指を切ってやった。
「せーのでの方が怖いだろうが。いいから血を垂らせ」
「この人、絶対にサイコパスだ……」
マルティナはぶつぶつ言いながらも魔法陣に血を垂らす。
「ほれ、このポーションで治せ」
「ありがとうございます……女を殴って慰め、言うことを聞かせる最低男みたいだ」
誰が、DV男だ。
「ほら、魔法陣が光り出したぞ」
魔法陣はまばゆいまでの光を放ち、次第に収まっていった。
「おー……おー? おお……お?」
アホ面を晒しているマルティナが首を傾げる。
「この偉大なるエルネスティーネ様を呼び出したのは誰じゃ?」
なんか偉そうなのが出てきた。
「わ、私です」
「ほう……こんな小娘が妾を呼び出したか……いい度胸じゃ」
「マ、マルティナと言います」
「ふむ……こっちじゃなくて、お前か?」
エルネスティーネが俺をちらりと見る。
「こちらは魔法陣を描いてくださっただけで呼び出したのは私です」
「ふーむ……まあ、よいか。なんか妾が嫌いな猫がおるし」
嫌いだろうねー……
だって、こいつ、ハムスターじゃん。
ハムスターがハムスターを召喚してるし……
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