仕事を終え、エーリカに夕食をご馳走になると、家に帰り、就寝した。
そして翌日、エーリカが朝から来てくれて荷解きの手伝いをしてくれる。
「ジークさん、これ何ですか?」
「空気清浄機。ウチのヘレンはデリケートなんだ」
埃とか毛を吸うことができる。
「へー……これは?」
「加湿器。ウチのヘレンは喉が弱いんだ」
乾燥するから。
「知らないものがいっぱいありますね。作ったんですか?」
「そうそう。ほとんどヘレンのための道具だな」
俺はあんまり空気とか湿度とか気にしない。
「お好きですねー。ヘレンちゃん、良かったね」
「にゃー」
テーブルの上に座っているヘレンが嬉しそうに一鳴きする。
「手伝ってもらって悪いな」
「いえいえ。それにあまり荷物もなさそうですし、午前中で終わりそうですよ」
まあ、ヘレンがいるとはいえ、基本は一人暮らしだからな。
「助かるわー」
俺達は手分けして荷解きをし、家具なんかを設置していく。
そして、あらかた片付いて、最後にキッチンで物を収納していると、チャイムが鳴った。
「んー? 誰か来ましたよ?」
「営業かな?」
知り合いと言えば、支部長くらいだが、来そうにない。
そうなると、新聞かなんかの営業だろう。
この場をエーリカに任せると、玄関に向かい、扉を開ける。
すると、大きな三角帽を被った金髪の少女が立っていた。
少女は背が高くなく、150センチもないだろう。
三角帽子のせいで魔女に見えなくもないが、身長的に子供みたいだ。
ただ、体つきは子供ではない。
「誰?」
マジで誰?
営業には見えんぞ。
「変なことを聞くけど、君こそ誰だい?」
人の家を訪ねてきて、そう聞くのは確かに変だ。
「あ、この声はレオノーラさんだ」
キッチンにいたエーリカが玄関にやってくる。
「やあ、エーリカ。ただいま」
「おかえりなさい。戻ってきたんですね」
どうやらこの少女、いや、女性が例のレオノーラらしい。
「うん。朝一の飛空艇で戻ってきたよ」
「終わったんですねー。あ、こちらは先日、赴任してきたジークヴァルト・アレクサンダーさんです」
エーリカが俺を紹介してくれる。
「ジークヴァルトだ。ジークでいいぞ」
「どうも。レオノーラ・フォン・レッチェルトだ。ようやく同僚が増えて、嬉しいよ」
「貴族か?」
「勘当されてるけどね」
え? なんで?
「あ、中に入るか? ちょうど片付いたところだし、お茶を…………」
ちらっ。
「あ、淹れまーす」
エーリカが淹れてくれるらしい。
「それはありがたいね。あ、エーリカ、これお土産。お茶請けにでもしてくれ」
レオノーラがエーリカに包装紙に包まれた箱を渡す。
「ありがとうございます」
エーリカがそう言ってキッチンに向かったのでレオノーラを招き入れ、テーブルにつかせた。
「いやー、疲れたよ……おや? 猫がいる」
「そいつは使い魔のヘレンだ」
「こんにちは」
ヘレンが顔を上げ、ぺこりと挨拶をした。
「ふむ……使い魔ということは魔術師かい?」
レオノーラがヘレンを撫でながら聞いてくる。
「そっちの資格あるだけで本業は錬金術師だ。3級になる」
「3級? それはすごいね……あー、君の師匠ってクラウディア・ツェッテルかい?」
師匠の名だ。
「知ってるのか?」
「まあ、本部長だしね。魔女クラウディアの秘蔵っ子って君のことだろ?」
秘蔵っ子かは知らんが、目をかけてもらったのは確かだ。
左遷されたけどな。
「そうかもな。レオノーラは貴族なんだろ? 勘当って何だ?」
「ジーク様、初対面で聞いてはダメです。もうちょっと仲良くなってからの方が……」
それもそうか……
「すまん。聞かなかったことにしてくれ」
「いや、別に隠してもないし、どうでもいいことだよ。単純に親の方針と合わなかったから家出しただけ。私は錬金術の道に進みたかったけど、親はどっかの良いところに嫁いでほしかった。でも、それを拒否して家出した。それで勘当されただけさ」
貴族令嬢だとそういうこともあるか。
「なるほどねー。ところで、なんで俺の部屋を訪ねてきたんだ?」
「このアパートは支部の寮だからね。空室のはずの部屋から人の気配がしたから気になったんだよ。最初はエーリカを訪ねたんだけど、いないし、もしかしたらこっちかなと……案の定いたね。彼氏かとも思ったけど……」
「荷解きを手伝ってもらっていただけだ。あいつ、良い奴だから」
仏のエーリカ。
「そうだねー。自慢の子だよ。でも、あげないよ? 彼女は私のメイドさんだから」
「メイドじゃないでーす」
エーリカがコーヒーとお土産のクッキーを持ってきて、レオノーラの隣に座った。
「悪いな。あ、レオノーラもありがとう。頂くわ」
2人に礼を言ってクッキーを摘まむ。
「いえいえー」
「構わないよ。仕事の方はどんな感じ? やることある? ないなら明日も休むけども」
まあ、帰ってきたばかりだしな。
暇なら休むか。
「今は役所からの依頼であるレンガ50個と鉄鉱石をインゴットに変える仕事ですね。あとは軍のヴェーデル大佐から魔剣作成の仕事も頂きましたが、こちらはジークさんです」
「魔剣? まあ、私達には無理だね。そうなるとレンガとインゴット……ポーションはないの?」
そういやレオノーラは薬作りが得意ってエーリカが言ってたな。
「10級ならレンガやインゴットくらい作れるだろ」
「乗り気になれないけど、人手がないか……でも、インゴットはやったことないよ?」
「誰でも最初は初めてだ。エーリカだって初めてだったが、鉄鉱石を鉄に変える工程まではできている」
それからインゴットに変えるのだ。
まあ、鉄をインゴットに変えるのは簡単。
その辺の資格なしでもできる。
「ふーん……エーリカ、明日から手伝うよ」
「お願いします」
2人でやれば期日以内は余裕だろうな。
「ふう……なんかクッキーを食べたら逆にお腹が空いてきたね。よし、ジーク君の歓迎会を兼ねて昼食に行こうか」
レオノーラがそう言って、コーヒーを飲み干す。
「この前やったが?」
「私はやってない。お姉さんが奢ってあげるから安心しなさい」
お姉さん?
このチビ、何言ってんだ?
「お前、いくつ?」
「22歳」
「そういや同い年って聞いたわ……」
見えねー。
俺達はその後、家を出て、3人で昼食を食べに行った。
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