今日は休みの日なのでエーリカの家に集まり、鑑定士の試験に向けた練習をしていた。
「Dですかね?」
「Eよ」
「Cだと思うよ」
うーん……
「答えはCだな。レオノーラが正解」
そう言うと、エーリカとアデーレが顔を見合わせる。
「無理じゃないですかね?」
「無理無理。試験は来週なのにこの段階でしょ? どう考えても1週間でわかるようにはならないわ」
そうだろうな。
というか、このひと月でほとんど伸びてない。
錬金術の方は順調なんだが、鑑定の方が本当に弱い2人だ。
「はっきり言うが、無理だな。でも、そんなことは最初からわかっていた」
「まあ、そうですよね」
「こればっかりはすぐに結果を出すんじゃなくて、時間をかけようってことだったものね」
うん。
無理だ。
マルティナが物理で100点を取るようなものであり、いつかはできるが、それはまだ先の話なのだ。
「焦ることはない。お前らはまだ20代前半で十分に若い。別に支部の仕事を考えれば鑑定は必須ではないし、ゆっくりやってくれ」
できない者に求めるのは愚か者のすることだ。
できるように教えてくことが大事なんだ。
「エーリカさん、一応、試験は受ける?」
「ええ。受けてはみましょう。試験がどういうものかを知りたいです」
「それもそうね。ジークさん、王都に行くとなると、最低でも1泊はするし、翌日は休みになるけどいいかしら?」
王都まで遠いし、移動は飛空艇になるが、リートから王都への便はそんなに多くない。
試験は休日にあるとはいえ、試験が終わった後では戻ってくる便がないのだ。
「いいぞ。仕事の方はそれを考慮して納期に余裕があるものばかりだし、1日とは言わず、数日は遊んでもいい」
ちゃんとそうなるように調整している。
まあ、そもそも4人しかいないからギリギリになるような工程は組まない。
誰か1人が風邪を引いたら崩れるような工程は工程と呼ばないのだ。
「どうする?」
「王都はこの前行きましたしねー」
「普通でいいんじゃない?」
まあ、普通でいいだろうな。
「一応、前日と翌日は休みにしとけ。ギリギリは良くない」
「じゃあ、そんな感じで申請しとくわ」
「そうしましょう」
「ジーク君は? 行くの?」
なんで?
「俺は試験を受けないから行かない」
やっぱり誰もいないのは良くないと思う。
「えー、一緒に行こうよー。アデーレが飛空艇でガタガタ震えだすよ」
「震えないわよ。目を閉じて実家の山々を思えばいいだけよ」
あー、この高所恐怖症女にはヘレンが必要か。
しかし、怖いものが多い女だわ。
「あのー、前の本部長さんの電話が気になりますけど……」
テーブルの上にいるヘレンが前足で俺の腕をつついてくる。
「電話? 本部長と電話なんかしたっけ?」
「ちょっと前です。ほら、ジーク様が電話を購入された時に電話したじゃないですか」
あー、したな。
迷惑だからアデーレやレオノーラに電話をするなっていうのを伝えたんだ。
そして……
「陛下がどうのこうのって言ってたな……」
ガチャ切りしたけど。
「陛下!?」
「陛下ってすごくない?」
「ええ。ジークさん、陛下って?」
アデーレが聞いてくる。
「いや、なんか陛下が会いたいとかなんとか言っていたような?」
「ん? なんでそんなに歯切れが悪いの?」
アデーレが首を傾げた。
「途中で電話を切ったから詳細を聞いてないんだ」
「んん? どういうこと?」
アデーレが怪訝な顔になり、さらに首を傾げたので長い髪が垂れている。
幽霊みたいだ。
「そのまんまだ。嫌な予感がしたからガチャ切りした」
「あの、陛下の用件ですよね?」
「ジーク君、さすがにマズくない?」
「貴族の私からしたら信じられないことをしているんだけど?」
うーん……
「でも、その後、本部長から電話がないし、別にたいしたことじゃなかったんだろ」
大事な用ならすぐに電話がかかってくるはずだ。
「いや、それでも……」
「陛下だよね? この国のトップだよ?」
「そうよ。今からでも電話したら?」
めんどい。
「別にいいだろ。それよりも来週、俺も王都に行くのか? お前らが試験を受けている間、俺は何をすればいいんだ?」
そう聞くと、3人娘が顔を見合わせる。
「休みですよね? お母さんに会ってきたらどうでしょう?」
「一門の人でもいいしね」
「何かあるでしょ」
ねーな。
あとお母さんって誰だよ。
「ヘレン、どう思う? こいつらの圧が強いぞ」
困った時はヘレンだ。
「一緒に行かれればいいんじゃないですか? 御三方も寂しいし、不安なんですよ」
「寂しい? たかが2、3日だぞ。それに不安なんかないだろ。100パーセント落ちるんだから」
エーリカとアデーレは受かんねーよ。
「ずき、ずき」
「そうなんだろうけど、直で言われるとショック」
「ジークくーん、もうちょっと言葉を弱めよう」
はいはい。
でも、絶対に落ちるし、逆にこのレベルで偶然で受かってもらっても困るわ。
「まあまあ。お弟子さんですし、一緒の職場で働く仲間じゃないですか。ジーク様は1人に慣れていますし、そっちの方が集中できると思ってらっしゃると思いますが、色んな人がいますよ。御三方は見てほしいし、ついてきてほしいと思う方々なのです」
「ウチの一門にそんな奴はおらんかったぞ」
皆、勝手にやっていた。
「いや、どうでしょう? 多分、本当はそうだったけど、本部長さんがあんな人なんで期待してないだけだと思います。この前のゾフィーさんも悩んでいたでしょう? 本当はああいう時に寄り添ってあげられるのが師です。本部長さんは本部長さんのやり方があると思いますが、ジーク様はジーク様のやり方でお弟子さん達を支えましょう」
うーん、本部長はなー……
俺が言うのもなんだけど、あの人、自分本位で突っ走ってきた人だからな。
「一緒に王都に行くのが俺のやり方か?」
「ファミリーです」
ファミリーねー……
「まあ、行ってもいいけど、支部長に相談だな。空けることになるわけだし」
緊急の用事に対応できないし。
「やった。ジークさんも来るんだ。私、あれから王都のことを調べたんですけど、西の方に大きな凱旋門があるんですよね? 見たいなー」
「私も調べたんだけど、王都ではこのチョコレートのケーキが流行ってるらしいんだよ。一緒に行こうよー」
「ジークさん、ちょっとこの楽器のお店に付き合ってくれない? 一人で行くのが怖くて」
3人娘が王都の雑誌を取り出して、広げだした。
「……これ、師弟か?」
「どう見ても師弟です。ファミリーですね」
ファミリー……家族旅行ですかね?
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