軍に納品を終えた俺達は支部に戻る。
すると、奥の共同アトリエに支部長の姿が見え、アデーレとレオノーラも立って何かを話しているのが見えた。
「何だ?」
「何かあったんですかね?」
玄関でエーリカと顔を見合わせる。
「とりあえず、行ってみましょう」
ヘレンに言われるがまま奥に向かう。
「ただいま戻りましたー」
共同アトリエに入り、エーリカが声をかけると、3人がこちらを振り向いた。
「おかえりー」
「おかえりなさい」
「良いところに帰ってきたな。ジーク、話がある」
んー? 俺に用か?
「何でしょう?」
「まずだが、本部長から電話があった。折り返しかけてくれと言っている」
えー……嫌な予感。
「すぐですか?」
「それはそうだろ」
まあ……
「それとちょっと来てくれるか?」
支部長はそう言うと、支部長室に入っていった。
「ん? ここじゃダメなのか?」
「じゃないですかね?」
「とりあえず、行ってきたら?」
「ええ、電話はその後ね」
3人娘が促してきたので支部長室に行き、さすがに必要ないだろうと思ったのでノックもせずに入った。
すると、支部長がデスクについていたのでデスクの前に行く。
「どうしました? 何か問題でもありましたか?」
「いや、そういうことではない。お前、今週末から数日、休むと言っていたな?」
「ええ。そう言いました」
というか、あんたが有休を使えって言ったんだよ。
「その休みはなしになりそうだ」
支部長がそう言って、一枚の書類を渡してきたので受け取る。
「あー、そういうことですか……」
その書類には俺を次の国家錬金術師試験の試験官に命じると書いてあった。
「先程、速達で届いた。本部長の電話はそれかもしれない」
っぽいな。
「普通、リート支部所属の俺に頼みますかね? 本部でいいじゃないですか」
「その辺りは知らん」
まあな。
「うーん……断れはするんだよな……」
当然だが、命令書だから基本的には断れない。
しかし、そんなものはどうとでもなる。
「どうする? 俺はよくわかってないが、来週、王都の本部に来るように書いてあるぞ」
確かに書いてある。
「試験官かー……」
まあ、俺はまだ2級を受けられないからな。
もし、2級を受ける資格があれば、この要請はなかったはずだ。
さすがに試験を受ける人間に試験官をやれとは言わないから。
「なあ、試験官って何をするんだ?」
支部長が聞いてくる。
まあ、この人は詳しくないだろう。
「色々です。試験を作る人間、実技を見る人間、筆記試験の答え合わせとかですね。その辺の話し合いが来週なんでしょう」
アウグストが買収したのは筆記試験の答え合わせをした人間だ。
「ちなみに、これはあいつらには言えることか?」
「言っていいことではないですね。私はどうでもいいですが」
別に不正しないし。
エーリカも言っていたが、能力がない者が試験に受かってもらっても困る。
8級なら8級、7級なら7級の知識と技能を持たなければならないのだ。
「これから聞くことは聞き流してもいい……さすがに試験を教えることはないだろうが、結果を改ざんとは言わないまでも甘く見ることは可能なのか?」
「可能ですよ。どっかのバカみたいに筆記試験を弄るのは超が付くほどの不正ですが、実技の方は曖昧ですから」
実技なんて点数が出るものじゃない。
スピード、品質、正確性などが求められるが、そんなものはその試験官の裁量次第に過ぎない。
「では、一番良いのはお前が実技の担当になることだな」
「はい。ですが、他の者もそう思うので3人娘の担当からは外れます」
当然だ。
ほとんどの師が弟子に期待しているからどうしても甘く見てしまうと思う。
もしくは、逆に弟子に厳しい師匠だったら厳しく見ることもある。
どちらにせよ、公正さに欠けるからまず外れるだろう。
「そういうものか……」
「まあ、ここだけの話、あいつらも一応は本部長の一門なので甘くなりますよ」
「そこはわからんでもないな」
本部長に恨まれたくないだろうからな。
正直、ゾフィーはそれで5級に受かったと思っている。
正確性や品質は素晴らしいが、あの錬成スピードじゃねぇ……
「多分、私は試験問題を作る方に回されると思いますよ。一門を避けるという意味では10級、9級、6級といったところでしょう」
俺の弟子では8級を受けるエーリカとレオノーラ、7級を受けるアデーレだ。
そして、兄弟姉妹弟子の連中のことも考えると、その3つの試験問題作成だと思う。
なお、当たり前だが、3級の俺が2級、1級試験に携わることはない。
「ふむ。では、この要請を受けるか?」
「出張扱いになりますよね?」
「もちろんだ。本部からの招集だし、自費なわけはない」
じゃあ、ちょうどいいわ。
「話を聞くだけでしょうし、試験を作れって言われてもすぐです」
「わかった。では、こちらから本部に返事を出しておこう」
「お願いします。それとちょっと家に戻って、本部長に電話します。用件がこれならそこで話すわけにはいきません」
電話は俺とエーリカの後ろの壁にあるのだ。
「わかった。そうしてくれ」
「では、失礼します」
一礼すると、支部長室を出た。
そして、3人娘がいるデスクの方に向かう。
「ちょっと大事な用っぽいから家で電話してくる。仕事をしていてくれ」
そう言うと、3人娘が頷いたので支部を出て、裏に回ると、アパートの自分の部屋に入った。
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