「あいつも魔導石製作チームに異動させたらどうです? 一回、精密機械製作チームから離した方が良いですよ」
ゾフィーは型に収まりすぎだ。
「あいつは今、飛空艇製作チームだ」
あー、俺とアウグストの後釜に入ったか。
「あいつでは厳しくないですか?」
「そんなことはない。それにやる気もあるし、あいつのためにもなるだろう」
ふーん……ゾフィーがねぇ……
「ならいいです」
「それで魔石の作成はいつから入る?」
「明日からですかね? なんかクリスに呼ばれているんで」
「明日、休みだぞ?」
確かに休日だな。
「明日は鑑定士の試験ですし、俺は王都でやることがないんですよ。それにこの1週間はほぼ休みのようなものです」
「弟子共とデート三昧か。明日は休みだから人も来ないだろうし、ここを使ってもいいが、翌日以降はどっかを探せよ」
それがあったな。
まあ、クリスかテレーゼのアトリエを奪えばいいか。
「わかりました」
「クリスが呼んでいるって何の用だ?」
気になったみたいだ。
「きっとハイデマリーじゃなくて、自分に付けっていう話だと思います」
「あいつ、本当に群れるな……」
群れるね。
だからカラスが使い魔なんだろう。
やはり孤高の猫よ。
「現状、もし本部長に何かがあり、次の本部長に誰がなるかと言われれば最有力はあいつでしょう? 足元を固めたいんだと思いますよ」
「ハァ……昔からそういう奴だったな。技術屋としても優秀だが、それ以上に政治家だ」
「貴族ですからね。貴族が嫌いでしたっけ?」
前にそう言っていた。
「さすがに自分の弟子は嫌いじゃないさ。クリスもクヌートも可愛い子だった。一部、可愛くない奴もいたがな」
俺とハイデマリーとゾフィーは可愛くなかったらしい。
「すみませんね」
「いい。お前達は結果を残しているし、さらに後継を育てている。立派さ。ちなみに、お前は誰が次の本部長に相応しいと思う?」
本部長が聞いてくるか……
「クリスですね。能力的に言えばテレーゼですけど」
「ハイデマリーは嫌か?」
「嫌ではないですけど、クリスの方が無難です。あとはゾフィーがどこまで伸びるかでしょうね。あと、あの内弁慶を治せるかどうかです」
あいつ、知らない人がいるとすーぐ気配を消すからな。
「まあ、そんなところか」
「もう次を考えているんですか?」
「別にただの雑談だ。あいつら、ひどいと思わんか? 私、まだ働き盛りの40代だぞ」
後継なんかを考える時ではないな。
「それほどまでに俺がリートに行ったのが嬉しいんでしょう。ハイデマリーなんか確認にまで来ましたよ」
「まあ、テレーゼのことがあったしな……今もハイデマリーに帰らせるように言ってある」
マルタが言っていた強制退場か。
本部長が指示したわけね。
さすがに本部長もテレーゼのことは心配みたいだ。
「後で様子を見てきます」
「そうしてくれ。さて、もう1つの話だ」
「試験ですね」
「ああ。理由は電話で言ったとおりだ。それでお前には試験作成と来月の試験官を頼みたい」
俺以下の奴が俺を評価するのはおかしいと常々思っていたが、ついに評価する側になったわけだ。
「担当の階級は?」
「好きなのを選んでいいぞ」
一番良いのは8級と7級だが……
「やいのやいの言われたくないから10級か9級でお願いします」
「そうか。両方やってくれるか。さすがはジークだな」
ウチの一門はどれかとどれかと言えばこう返ってくる。
「試験作成と試験官のどちらですか?」
「そうか。両方やってくれるか。さすがはジークだな」
録画映像かな?
「どうせ来月も来ることになるでしょうから構いませんが、よろしいんですね? 容赦なく落としますよ?」
「ちゃんと10級、9級に相応しいテスト作りと実技の試験官を頼むぞ。エンチャントの問題なんか入れるな」
さすがにそんなことはしない。
「化学を多めにしても良いですか?」
「その辺は好きにしろ。極端じゃなかったら構わん。でも、それでも落ちると思うし、逆に物理を多めにした方が良いと思うぞ。真にどっかのアホの成長を願うならな」
そうするか。
ぽっきり折れてくれ。
骨は折れても治る時にはさらに強くなるって聞いたことがある。
「わかりました」
「それとわかっていると思うが、問題の流出はダメだ。『試験を見せてあげるからリートにおいでよ、げへへ』って言うなよ。受付嬢を集めるなよ」
まるっきり変質者だな。
「それで受かるような無能はいりませんね。実技を見る際、ある程度は配慮すると思いますが、10級すら自分の力で受からない者はウチにも必要ありません」
マルティナで疲れたわ。
「おー、あのジークが配慮なんて言葉を覚えたか」
「ええ。どっかのアホのおかげです。私は平均というものを高くしすぎていたようです」
師である本部長はともかく、一門が優秀すぎたし、無能と思っていた本部の同僚連中も実は優秀だった。
何よりも『なんでこんな問題もわからないんだろう?』が脳内を埋め尽くしていた3人娘ですら才女なことに気付けたのだ。
俺が圧倒的に優秀すぎたゆえの弊害だな。
「下なんか見えんしな」
「ええ。最近は自分でも視野が広くなったなと思います。挨拶と感謝の言葉が大事なんですよ」
それだけで大きく変わる。
「そうか……最初に出会った時から挨拶なんかせず、暴言を吐きまくっていたクソガキのお前がなー……」
本部長がハンカチを取り出して目頭を押さえ始めた。
「年取ると涙腺が緩むのか? お前に涙があるとは思わなかったわ」
昔を懐かしんでもらおうと思ったのだが、なんか目が据わったのでヘレンを抱えて慌てて逃げた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
火曜と木曜に更新している本作ですが、土曜と月曜に変更します。(今週の土曜から)
よろしくお願いします。