昼食を食べ終えた俺達は本部に戻ると、クヌートのアトリエに戻った後、魔導石製作チームの共同アトリエに向かう。
「ハァ……魔導石製作チームかー……あそこって女しかいないんだよな……」
なんかクヌートがため息をつきだした。
「どうした? 女好きだろ?」
「嫌いじゃないけど、女ばかりってのもな。若干、気まずい」
ウチもアトリエにいるのは女ばかりだが、考えたこともない。
何故なら、男だろうが女だろうが俺は35点だし。
「今さらなことを言うんだな。錬金術師だろ」
ほぼ女しかおらん。
飛空艇制作チームは半々だったけど。
「まあな。魔術師なんかには絶対になりたくなかったし」
それは同意するな。
多分、魔術師の道に進んでいたら俺はもう死んでると思う。
「リーゼロッテがいるとはいえ、まだ、魔導石製作チームは良い方だろ。薬品生成チームなんか地獄だと思うぞ」
全員、ハイデマリーの息がかかっている。
「マリーの姉貴はそもそも拒否するだろうけどな。本部長が言ってもひと月ももたずに追い出される」
そんな気がする。
俺達はそのまま歩いていき、魔導石製作チームの共同アトリエの前までやってくる。
すると、クヌートがノックした。
「失礼します」
クヌートが扉を開け、中に入ったので俺も続く。
すると、テレーゼ、リーゼロッテ、コリンナ先輩の3人がいた。
「あ、クヌート君……とジーク君」
テレーゼが立ち上がり、こちらに来る。
「よう、テレーゼの姉さん。休みじゃないのか?」
あ、ホントだ。
休日なのにテレーゼが出勤している。
「明日、納品があってね。それの調整なんだ。私が担当したやつだから私がやるしかない。とはいえ、もうちょっとしたら帰るよ。リーゼちゃんと流行りのチョコレートケーキの店に行くんだ」
レオノーラが言ってたやつかな?
「ふーん、なら良いのか?」
休日出勤に変わりないと思うけどな。
「私よりも2人はどうしたの?」
誰よりもお前だよ。
「俺はちょっと挨拶だ。明日から世話になる」
「世話って?」
テレーゼは聞いてないらしい。
「あー、こっち、こっち」
コリンナ先輩が手招きしたのでクヌートがそちらに向かった。
そして、頭を下げて挨拶をする。
「ジーク君、どういうこと?」
「もしかして、援軍ですか?」
テレーゼとリーゼロッテが聞いてくる。
「明日からあいつはここに異動だって。このチームがヤバそうだから補充要員だ」
「おー! クヌート君かー! すごい戦力だよ!」
「助かりますね!」
クヌートのことが嫌いであろうリーゼロッテまで喜んでいる。
やっぱりマズいだろ、ここ。
「良かったな。お前、体調はどうだ?」
体調というか、精神面だけど。
「大丈夫、大丈夫。この前はちょっと疲れただけだよ。皆、心配性だなー」
テレーゼは笑顔でそう言うのでリーゼロッテを見ると、無言で首を横に振った。
「いや、マジで潰れるぞ。適度にやれよ」
このままだと、心が壊れてしまったテレーゼが療養地であるリートにリーゼロッテと一緒に来てしまう。
そして、連鎖的にマルタも来る。
多分、コリンナ先輩は専業主婦になる。
ウチは助かるが、さすがにダメだろう。
「わかってるよ。なんか終業時間になると、ハイデマリーさんに拉致されるんだよね」
マルタがそう言ってたな。
「それでいいわ。リーゼロッテ、ちゃんと見張っておけよ」
「はい。そうします」
リーゼロッテが力強くうんうんと頷いた。
「大丈夫なのに……ジーク君はそのことを言いに来たの? ありがとうね」
「気にするな。姉弟子に潰れてもらっては困る。それでな、ちょっと陛下から仕事をもらったんで1週間ほど滞在することになった」
「また? お弟子さん達の鑑定士の試験に付き合って来たんじゃないの?」
「それもあるが、本部長に頼まれてな」
試験問題のことは言わなくていいや。
「へー……ジーク君も忙しいんだね」
絶対に忙しくない。
お前の半分も働いてないと思う。
「たいしたことじゃない。それでな、アトリエを貸してくれ」
「なんとなくそうじゃないかと思ったよ……心配してくれて来たわけじゃなかった」
「気にはなってたぞ」
これは本当。
「ハァ……これでも変わってくれたんだ。昔なら勝手に死ねって言いそうだし」
「言わねーよ」
「そうだね。潰れるような無能は眼中に入れないもんね。思うのはただ『また一人ライバルが落ちていったな、ふっ……』だもんね」
うーん……否定できない。
「相変わらず、ネガティブな奴だな」
「否定してよ……あー、アトリエだっけ? アトリエかー……」
揺らいでいるっぽい。
「陛下の仕事だぞ。ちゃんと3人娘も連れてくるから」
「じゃあいっかなー……ヘレンちゃんも合わせて精神安定剤が4人もいればジーク君も私の研究を見てもバカにしてこないだろうし」
バカにしないし、そもそも興味ないから見ないんだけどな。
それこそ眼中に入らない。
「悪いな。それと俺はお前と違って精神は安定しているから大丈夫だぞ」
「私、ジーク君が5歳の時に『お前はこの程度で俺に何を教えに来たんだ?』って言われたことを忘れないから」
悪い方に安定していたんだよ……
「お前だって、リーゼロッテに教えている時に『なんでこんなものもわからないんだろう?』って思うだろ」
「思わないけど? いや、ホントに」
「ジークさん、あなたと一緒にしないでください。テレーゼ様は優しくて頼りになる私の大事な師匠です」
リーゼロッテがむっとする。
テレーゼは目を潤ませている。
ホント、バランスの取れた師弟だわ。
「俺も弟子からそう言われたことがあるぞ」
「そりゃジークさんのところは本当の意味で囲い、囲われているからじゃないですか……」
え? どういう意味?
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