テレーゼにアトリエを借りることを承知してもらったので本部長室に戻り、試験作りを再開した。
途中、窓の外をちょっと太ったカラスが必死に羽ばたいて飛んでいるのが見えたりしたが、初日としては順調に進んだと思う。
そして、定時になったので本部を出て、ホテルの部屋に戻った。
「さて、3人娘を誘って、飯に行くか」
部屋のベッドでちょっと休憩した後、起き上がる。
「レオノーラさんから最初に声をかけた方が良いですよ」
ヘレンがアドバイスをくれる。
「なんでだ?」
「多分ですけど、手応えがあるのはレオノーラさんだけだからです。最初に声をかけた方が良いでしょう」
なるほどな。
レオノーラも気にしていたし、そうするか。
部屋を出ると、隣のアデーレの部屋をスルーし、レオノーラの部屋をノックした。
『開いてるよー』
レオノーラの声が聞こえてきたので扉を開け、中に入る。
すると、レオノーラがベッド仰向けでだらけていた。
「お休み中か?」
「さすがにちょっと疲れたよ。ヘレンちゃん、おいでー」
レオノーラがそう言うと、ヘレンが俺から降り、ベッドに向かった。
そして、レオノーラのお腹の上に乗ると、レオノーラの呼吸に合わせて上下する。
「どうだった?」
「あー、それで先に私の部屋に来たのか……大丈夫だと思うよ。ジーク君に言われた通り、最初の直感を信じたさ」
レオノーラはそう言うと、起き上がり、ベッドに腰かけた状態で抱えているヘレンを撫でる。
なんか魔女っ子だから俺より似合ってそうだ。
「それは良かったな」
「そういうのは結果が出た後でいいよ。今日はお疲れ様会」
そうだな。
それが良いだろう。
「じゃあ、2人を呼んで飯に行くか。俺はアデーレの方に行くからお前はエーリカを頼む」
「はーい」
ヘレンを返してもらうと、部屋を出て、アデーレの部屋の扉をノックした。
すると、すぐに扉が開き、アデーレが出てくる。
「お疲れ」
「ジークさんもお仕事お疲れ様。夕食?」
「そうだな」
頷くと、レオノーラがエーリカを連れて、こちらにやってきた。
「ご飯行こうよー。お腹空いた」
「行きましょう、行きましょう」
「そうね」
俺達はホテルを出ると、アデーレの案内で夕方の王都を歩いていく。
そして、5分くらい歩くと、とある店に入った。
店は落ち着いた雰囲気の店であり、大人な店って感じがする。
「いらっしゃいませー。何名様ですか?」
店の内装を眺めていると、すぐに女性の店員がやってきた。
「4人で予約したアデーレです」
どうやらアデーレが予約してくれていたらしい。
「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」
店員に仕切りで区切られたボックス席に通されたので俺とエーリカが並んで座り、対面にレオノーラ、その横にアデーレが座る。
そして、ワインと料理を頼むと、店員がすぐにワインを持ってきてくれた。
「今日はお疲れさん。結果はどうであれよくやった。今日は奢りだし、好きに飲み食いしていいから楽しんでくれ。はい、乾杯」
「「「乾杯」」」
俺も乾杯の口上が上手くなったなと思いながらワインを飲んだ。
そして、料理がやってきたので摘まみながら食べていく。
「おー、美味しいですね」
「うん、美味しい。雰囲気も良いし、アデーレはこういうセンスが抜群だよね」
確かに料理は美味い。
「こういうのが好きなのよ」
なんとなくわかる気がする。
「雰囲気な」
「ええ。雰囲気」
言語化はできないが、さすがにそろそろ雰囲気という意味がわかってきた。
「一応、聞くが、アデーレ、エーリカ、試験はどうだった?」
正直、聞かなくてもわかっているが、聞かないといけない。
「落ちた」
「ちょっと無理ですね。明らかに実力不足でした。9級国家錬金術師試験の時のような感触はまったくないです」
やっぱりそうか。
「それでいい。でも、どんな試験なのかはわかっただろ?」
「ええ。あれはちゃんと見る力がないと受からないわね」
「ですね。これからはもうちょっと素材なんかも見るようにしたいと思います」
ハァ……優秀すぎて涙が出そうだ。
マルティナも連れて来れば良かった。
「お前達は錬金術の才能もあるし、鑑定の方も練習すれば絶対にできるようになるから気長にやろう」
「その言葉を信じるわ」
「頑張ります!」
よし、もう鑑定士の試験のことはいいわ。
「そうしてくれ。今日、テレーゼにアトリエを借りられるように頼んで、良い返事をもらった。だから明日からはこの前と同様にテレーゼのアトリエで作業だな」
「わかりましたー」
「あの人、大丈夫なの?」
「あ、そうね。テレーゼさんは?」
さすがに気になるらしい。
「周りがしっかりしているから多分、大丈夫だと思う。それにクヌートが魔導石製作チームに入った」
「あの人か……」
「クヌートさんは腕は確かって評判だから大丈夫ね。一安心だわ」
そう願いたい。
「それでお前らはどうする? 別に遊んでてもいいけど」
「もう次の試験までひと月ですしねー」
「勉強だね」
「そうね。私は実技をやる。このままでは確実に落ちる」
本当に優秀な弟子達だ。
俺って別に要らないんじゃないかと思うくらいに。
「まあ、ここにいる間は旅行みたいなものだから気楽にやってくれ。凱旋門とチョコレートケーキだったか?」
アデーレのやつは2人きりとヘレンから聞いたので後日。
「明後日くらいに行きましょうよー。楽しみです」
「そうしよー」
「良いと思うわ。私もチョコレートケーキは食べたいし」
俺も食べに行きたいと思う。
何故ならこの話題になると、ヘレンが尻尾をピンッと立てるから。
「じゃあ、そうするか」
俺達はその後もわいわいと話をしながら飲食を進めていき、いい時間になると、ホテルに戻った。
もちろん、アデーレはレオノーラを背負っていたし、俺もエーリカを背負っていた。
学習しろよと思わないでもないが、それを言うのは野暮だと思ったので胸に秘めておいた。
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