夕食後、風呂に入ると、夜景を眺めながら頼んだウィスキーをロックで飲む。
すると、ノックの音が部屋に響いたので扉まで行き、鍵を開けた。
「ん? エーリカ?」
扉を開けると、エーリカがいた。
「こんばんは。お酒、飲んでますか?」
「飲んでる。お前も飲むか? 薄いのを作ってやるぞ」
「お願いします」
エーリカが嬉しそうな顔で頷いたので部屋に招き、椅子に座らせる。
そして、薄い酒を作ってやると、エーリカに渡し、乾杯した。
「今日は飲みたくなったのか?」
「ええ。楽しかったですし、なんかそんな気分でした」
まあ、わからないでもない。
「ちょっと色々あったから心が休めて良かったと思うな」
「ちょっと色々あったんですか?」
あったなー……
特に昨日。
「昨日、アデーレの爺さんと会ったんだよ」
「あ、前に王都在住って聞きました。何の話ですか?」
「弟子にした経緯とか元気にしているかだな。あとは雑談」
レオノーラとクヌートの件は言わないでおく。
「へー……アデーレさんには内緒な感じです?」
「そんな感じ。お前、アデーレのヴァイオリンを聴いたか?」
「聴きましたよー! すごくお上手でしたし、立ち姿が美しかったです! でも、演奏が始まるまでに小一時間かかりましたね」
そこは俺と一緒らしい。
「めちゃくちゃ飲まされたか?」
「めちゃくちゃ勧められましたね。寝てもいいからって言われました。さすがに私は強くないから少量にしときましたけど」
寝てもいいからって何だろ?
聴けねーじゃん。
「なあ、エーリカ、今が楽しいか?」
「楽しいですね。レオノーラさんにアデーレさん、それにジークさんとヘレンちゃんがいてくれて毎日が楽しいです。ずっとこんな日々が続けば良いなって思います」
ふーん……
「そうなると良いな」
「はい!」
その後、酒を2杯ほど飲んだエーリカが自分の部屋に戻っていったので就寝した。
翌日、この日もバイキングでゆっくり朝食を食べると、準備をし、本部に出勤する。
そして、受付にいるサシャのもとに向かった。
「あ、皆様方、おはようございます」
「ああ」
「おはようございます」
「おはよー」
「おはよう」
それぞれが挨拶を返す。
「アデーレ先輩、先日は奢ってもらってありがとうございました」
「いいのよ。さすがに私達で出すわ」
後輩のサシャに奢ったわけだ。
まあ、他3人は先輩だしな。
「楽しかったですし、また帰ってきたら連れていってください」
「そうね」
これがコミュニケーションか……
「ジーク先輩、今日はお仕事だと思いますが、ちょっといいですか?」
ん?
「どうした?」
「実は今朝、本部長から電話がありまして、風邪を引いたから休むそうです」
風邪?
あの人が?
「珍しいな」
「そんな気がしますね。それでどうします?」
「あー、仕事か」
今日も試験作りかな?
「あ、いえ……えーっと……」
んー?
「どうした?」
何かあるのか?
「ジークさん、お見舞いに行きませんか?」
「お母さんでしょ」
「師匠なんでしょ」
お見舞い……
「風邪で?」
「風邪を舐めたらいけませんよ」
「そうだよ。しんどいんだよ」
「本部長は1人暮らしなんでしょ? 行った方が良いと思うわよ」
風邪を引いたことがないからよくわからないんだよな。
でも、確かに牡蠣に当たった時は辛かった。
「そうだな……仕事のこともあるし、ちょっと見舞いにでも行ってくるか……お前らも来る?」
「行きますよー」
「そうだよー」
「逆にあなたがいないのに私達だけでテレーゼさんのアトリエにいてもね……」
それもそうか。
「サシャ、本部長の様子を見てくるわ」
「お願いします」
俺達は本部を出ると、本部長の屋敷に向かう。
「懐かしいですね。何年ぶりでしょう?」
歩いていると、ヘレンが聞いてくる。
「魔法学校を卒業後は何度か行っただけだしな……わからん」
去年は……行ったかな?
「そういやジーク君ってずっと本部長さんの家に住んでたんだよね?」
今度はレオノーラが聞いてくる。
「そうだな。俺は孤児で5歳の時に本部長に拾われたんだ」
「では、私が説明いたしましょう。そこに教会がありますよね? あそこは昔、孤児院だったんです」
ヘレンが尻尾で建物を指した。
「そうなんだ……孤児院はなくなったの?」
「場所を移しただけでまだあるし、当時の院長先生は健在だ。毎年、寄付をしている」
それくらいはやる。
いくら俺でもあそこがなかったら野垂死んでいたし、恩くらいは返す。
「へー……」
「そして、この辺りが本部長さんとジーク様が初めて出会った場所になります。初っ端から暴言を吐き、薬草を寄こせとカツアゲじみたことをしていました。当時5歳」
「違う。錬金術の本の作者である本部長に本に書いていた薬草を見せてくれって頼んだだけだ」
全然違うわ。
「……暴言は合ってるみたいですよ」
「……5歳なのにね」
「……あんまり変わってないわね」
3人娘がひそひそする。
「いいから行くぞ。こっちだ」
俺達は通りを歩いていき、住宅が立ち並ぶ区画にやってきた。
そして、とある白い石壁に覆われた屋敷の前で立ち止まる。
「ここだ」
「へー……お屋敷ですね」
「立派だねー」
「ここが本部長の家なんだ。そして、ジークさんの実家」
本部長の家は平屋だが、洋風の雰囲気を感じる屋敷であり、金色の飾りが窓枠や扉に施されていてちょっと豪華だ。
「まあ、あの人も儲けているからな。行くぞ」
玄関まで行くと、鍵を使って扉を開けた。
「あ、鍵を持っているんですね」
「一門なら全員持ってるぞ。ここには共同アトリエがあり、好きに使えたんだ」
まあ、俺はそもそも住んでたからだな。
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