俺とヘレンはエーリカとレオノーラの準備を待っている。
「チッ……おっせーな……」
「ジーク様ぁ……まだ6分ですよぉ……」
ヘレンが悲しそうな声をあげた。
「わ、わかってるよ。待てばいいんだろ。女は準備に時間がかかることは承知してる」
かつての同僚もクラスメイトも女性が多かったし、同門には姉弟子や妹弟子もいるからわかっている。
「絶対にそんな態度を見せてはいけませんよ。おおらかです。エーリカさんのようにおおらかになりましょう」
それもそうだな……
以前の激務だった王都生活とは違い、余裕は十分にある。
「よし」
俺は心を入れ替え、ヘレンを撫でながら2人を待つことにした。
すると、すぐに2人が戻ってくる。
「すみません。お待たせしました」
「全然、使わないから探したよー」
2人は服装なんかは変わっていないが、装飾の付いた長い杖を持っていた。
「あー、杖か」
錬金術師も一応は魔法使いなので杖を持っているのだ。
とはいえ、2人が持っている杖は見るからに新品であり、絶対に使ったことがないと思われる。
「ないよりマシでしょ」
「剣や槍なんて触ったこともないですしねー」
まあ、デスクワークだから仕方がないが、非常に弱そうだ。
実際、弱いんだろうけど。
「お前ら、絶対に俺より前に出るなよ」
「はーい」
「頼もしい。王子様だね」
いやー……王子様も微妙なんだけどな。
「よし、行くか」
「「おー」」
俺達は1階に降り、支部を出た。
「森はどっちだ?」
「東門だからあっちですね」
エーリカが左方向を指差したので歩いていく。
そのまましばらく歩いていくと、高い壁と共に大きな門が見えてきた。
「あれか?」
「はい。あれが東門です。あそこを出て、少ししたら森ですね」
「行ったことは?」
「学生時代に実習で行きましたね。もちろん、護衛の方がいました」
だろうな。
兵士か雇った冒険者が付くだろう。
俺達はそのまま歩いていき、門に近づく。
「ちょっと待て」
門を抜けようと思ったら門番の兵士が止めてきた。
「何でしょう?」
「い、いや……」
兵士は俺を見た後にエーリカをじーっと見る。
そして、さらにはレオノーラを頭の三角帽子から身体を見て、足元を見た。
なんか嫌な気持ちになるな。
「2人が何か?」
あまり女性の身体をまじまじと見るものじゃないぞ。
「君達は錬金術師協会の人間かい?」
「そうですね。3人共、リート支部の錬金術師です」
「そうか……森に行くのか? そんな格好で?」
そう言われて、エーリカとレオノーラを見る。
2人共、いつもの格好だし、当然、防具なんてない。
というか、よく見たらレオノーラに至ってはサンダルだ。
それは門番も止めるわ……
「森の奥に行くわけではなく、浅いところで採取です。私は5級の魔術師資格を持っていますし、大丈夫です」
そう言って、国家魔術師資格であるフクロウの彫刻が施された銀色のネックレスを見せた。
「ほう……なら大丈夫、か……? あまり無茶はしないでくれよ。魔法使いは国の宝だ」
「わかってます。行くぞ」
「はーい」
「うん」
俺達は門を抜け、先に見える森を目指して歩いていく。
「何かマズかったですかね?」
エーリカが聞いてくる。
「森に行く格好ではなかったな」
「特に私だろうね」
門番はエーリカよりもレオノーラを見ていた。
まあ、レオノーラは背が低いうえにサンダルだからなー。
心配もする。
「仕方がないだろう。さっさと採取して帰るぞ」
そのまま歩いていくと、森の前まで来たので立ち止まる。
「一応聞くけど、魔力草の見分け方はわかるな?」
魔力草という名の草はない。
魔力を帯びている植物のことを魔力草と呼んでいるのだ。
だから魔力草の採取は魔法使いじゃないと見極めが難しい。
「授業で習ったから大丈夫です」
「さすがにその辺はわかるよ」
10級の資格があればわかるか。
「じゃあ、採取を頼む。俺は見張りをする」
「お願いします」
「さすがに死にたくないから頼むよ」
俺達は森の中に入ると、浅いところで採取を始めた。
エーリカとレオノーラは腰を下ろし、草を見分けながら魔力草を探している。
「これかな? えーっと、根を傷つけないようにっと……」
「難しいですね……」
慣れていないんだろうな。
まあ、俺も魔法学校の実習以来、やっていない。
「適当でいいぞ。依頼はEランク程度だし、俺が魔力を抽出するから多少、質が落ちても問題ない。それよりもスピードを重視してくれ。何度も来たくない」
「わかったよ」
「了解です」
2人はちょっと粗めに魔力草を採取していった。
「こうやって見張っていると、女子供に働かせて、自分だけサボる悪い男に見えないか?」
ヘレンに聞いてみる。
「すみません。めちゃくちゃ見えます」
やっぱり……
「その辺は気にしなくていいから見張りに集中してくれ。何度も言うが、私は50メートルを15秒だから魔物に遭遇したら逃げられないんだ」
「あ、私も12秒です」
ホント、おせーなー……
サンダルのレオノーラはさらに遅いんだろうな。
「わかってるよ」
「私も見張っていましょう」
俺はヘレンと共に周囲を見渡しながら見張りを続ける。
その間もエーリカとレオノーラはせっせと魔力草を採取し、カバンに入れていった。
「腰が痛いよぅ……」
「腕が痛いですねー」
2人が不満を漏らしだした。
「そういうこと言うな。立ってるだけの俺が罪悪感を覚えるだろ」
「ジーク様、言葉を選んでください」
「えーっと……頑張れ」
他に言いようがない……
「亭主関白な夫に嫁いじゃったねー」
「我慢ですよ」
なんか遊びだしたし……
「俺に嫁ぐとロクなことないぞ。きっとストレスで胃に穴が……ん?」
何かが引っかかり、森の奥の方を見る。
「どうしたんだい、旦那様?」
「どうかしました?」
そう聞いてきた2人を手で制した。
そして、魔力を探ってみる。
「何かいるな……」
「え?」
「ひえ!」
2人は慌てて立ち上がると、俺の背に回った。
「ジーク様、これはオークです」
オーク……巨大な二足歩行の豚だ。
「ジークさん、お願いします」
「君が負けたら全員死亡確定だから頼むよ」
責任重大だな……
そのまま2人を庇いながら待っていると、木々の間からゆうに2メートルは超える巨大なオークが現れ、10メートル先で立ち止まった。
オークは鼻をひくつかせながら俺達を見ており、完全にロックオンしている。
すると、後ろの2人が俺の服を掴んできた。
非常に邪魔となる行為だが、どうせロクに動けないので問題ない。
というか、動いたら避けられない2人が死ぬ。
「ジーク様、一撃で仕留めてください」
「わかっている」
ヘレンの言葉に頷くと同時にオークが俺達に向かって突っ込んできた。
「食らえ!」
空間魔法から魔導銃を取り出すと、オークの足を狙い、撃つ。
すると、銃口からレーザーのような白い光線が飛び出し、一瞬でオークの足を撃ち抜いた。
オークは体勢を崩したもののそれでもまだ突っ込んできている。
「エアリアルドライブ」
今度はスピードが落ちているオークを狙い、風魔法を使った。
すると、足元から竜巻が起き、オークを切り刻んでいく。
そして、その場には四肢がバラバラになったショッキングなオークが残された。
「こわっ!」
というか、気持ちわるっ!
「いや、ジーク様がやったんじゃないですか」
「人どころか魔物相手に使ったのも初めてだからな」
「そういえば、そうですね」
こんな威力があるんだな……
「え? ジークさん、5級じゃないんですか?」
エーリカが聞いてくる。
「5級だぞ。でも、実戦は今日が初めてだ」
そもそも町の外に出ることなんてないし。
「……え? 初めて?」
「そういうのは最初に言ってほしかったよ。予想以上にピンチだったわけだ。元軍人の支部長に付き添ってもらえば良かったね」
え?
「大丈夫だって。さっさと残りの魔力草も回収してくれ」
「わかりました」
「早くしようか」
エーリカとレオノーラが採取に戻ったので俺とヘレンも見張りに戻る。
「ふぅ……」
そうか、支部長を頼れば良かったのか。
誰かを頼るという発想がなかった……
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