本屋をあとにすると、ホテルに帰るために歩いていく。
「レオノーラ、明日だけど、ちょっと時間を作れるか?」
「仕事とは別かい?」
「そうだな」
「ふーん……クヌートさん?」
わかるらしい。
「そうだな……わかるか?」
「わかるよ。別に気にしなくてもいいんだけどなー……誰に聞いたの?」
「アデーレの爺さん。ほら、人に会うって言って夕食を食ってきただろ? あの時だ」
「あー、そっちかぁ……てっきり、お父様かと思った」
ここで親父さんの名前が出てくるか……
「それは別で昨日、会った。たまたまだけどな」
「アデーレと一緒?」
「ああ。楽器を見に行った帰りにな」
アデーレがいなかったら普通にすれ違っていたと思う。
「ふーん……ジーク君さー、私がクヌートさんと結婚するって言ったらどうする?」
「おめでとうって言う。あと、本部長に頼んでクヌートをリートに左遷させる」
万々歳。
「ダメだねー。0点」
「100点になるにはどうすればいい? 行かないでってすがればいいか?」
絶対にせんが。
「俺のそばにいろって言えばいいんだよ、旦那様」
「俺のそばにいろ」
「はい、100点」
簡単だな。
35点から上げようと頑張っているというのに。
「真面目な話、どう思っているんだ?」
「何も。そもそもクヌートさんのことを知らないし、ジーク君の兄弟子さんってだけ。私は家を出たんだよ。両親や家には迷惑をかけたと思うけど、私には私の人生があるのさ」
まあ、そうだろうな。
「親父さんはお前が幸せならそれでいいって言ってたぞ」
「どうも。ちょっとコミュニケーション不足だったのかもしれないね。でも、別にいいや。私には大事なものがリートにあるんだよ」
それが何かは聞かない。
なんとなくわかるからだ。
「クヌートも別に気にしている感じではなかったが、一度話がしたいと言っている」
「いいよ。ジーク君も来る?」
「行く。何も話さないがな」
というか、話すことがない。
「それでいいよ。すぐ済む話だしね」
「じゃあ、明日、杖作りが終わったら本部に行こう」
「了解」
俺達はホテルに戻ると、夕食を食べる。
そして、カードゲームを楽しんだりしていると、いい時間になったので就寝した。
翌日。
この日も本部長宅に行ったが、本部長はいなかったので勝手にお邪魔し、作業を続ける。
3人娘は杖の仕上げに入っているし、俺も10級試験の方を終え、9級の試験問題作りをしていた。
「ジークさん、明日はどうします?」
エーリカが聞いてくる。
「明日はテレーゼのアトリエに戻るかな……俺も明日で試験問題作成を終わらせられると思う」
もうほぼ終わっているし、今日中に終わらせて明日はチェックだろうな。
「私達は勉強でいいですか?」
「ああ。遊びに行きたいなら行ってきてもいいぞ」
明後日にはリートに帰るし。
「いや、せっかくですし、付き合いますよ」
せっかく?
せっかくと言うなら王都で遊べばいいのにって思うけどな。
まあ、好きにしたらいいか。
「そうか。じゃあ、そんな感じで」
俺達はその後も作業を続け、昼になったのでエーリカ……とアデーレが作ってくれた昼食を食べた。
そして、午後からも作業を続けていったのだが、2時をすぎたくらいで3人娘の手が止まる。
「終わりましたー」
「できたねー」
「こんなものかしらね?」
デスクには杖がある。
もちろん、魔石は入ってないし、装飾や調整なんかはしていないので未完成品だが、よくできていると思う。
Bランクは余裕である出来だ。
「お疲れさん。それは魔石と一緒に本部長に渡しておく」
「お願いします」
「ちょっと怖いね」
「ホントよね……ジークさん、これからどうするの?」
うーん、ここにいてもな……
「帰るか。俺はちょっと本部に寄っていくからお前らは先に帰っていいぞ。あ、レオノーラは付き合ってくれ」
「ほーい」
レオノーラが手を上げる。
「じゃあ、エーリカさん、私達はカフェでも行きましょうか」
「おー……都会っぽいカフェに行きたいです」
都会っぽいって何だろ?
「そうね。案内するわ。じゃあ、片付けましょう」
俺達は片付けをし、屋敷を出ると、戸締りをし、その場で別れた。
そして、レオノーラと共に本部に行くと、受付のサシャのもとに向かう。
「あれ? ジーク先輩? どうしたんですか?」
サシャが時計を見ながら聞いてきた。
「よう。本部長はおられるか?」
「ええ。5階にいますよ。今は来客もないですし、部屋で仕事をしていると思います」
2日休んだし、忙しそうだな。
「じゃあ、ちょっと話してくる。それと応接室を借りていいか?」
「応接室? 使ってませんからいいですけど……」
サシャが首を傾げた。
「ちょっとな。レオノーラ、あそこが応接室だからちょっと待っててくれるか? 本部長と話してくる」
階段の隣にある扉を指差す。
「わかったー」
レオノーラが応接室に向かい、中に入っていった。
「あのー……」
サシャは訳がわからない感じでちょっと困った顔をする。
「すまんな。ちょっと事情があるんだ。本部長室に行ってくる」
「わかりました。レオノーラさんにお茶でも持っていっておきます」
「悪いな。3つ頼む」
そう言って、受付を離れると、階段を昇る。
「ヘレン、これは大事なことか?」
俺、いまいちわかってないんだが……
「大事ですね」
「結果は変わらないような気がするんだが……」
どうなろうと、レオノーラはリートに残るし、クヌートとも結婚しない。
「けじめですよ。ジーク様はただただ見守って、レオノーラさんのそばにいればいいんです」
まあ、面倒なことにはならないだろうが、当事者っぽいのに何もわかっていないんだよな……
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