本年もよろしくお願いいたします。
5階までやってくると、本部長室の前に立ち、ノックをする。
「本部長、ジークヴァルトです」
『入ってこい』
部屋に入り、一礼する。
そして、デスクで書き物をしている本部長のもとに向かった。
「お体の方は?」
「問題ない。元気そのものだ。しかし、2日も休んでしまったせいで書類が溜まっている」
大変だな。
「あまり無理はしないでくださいね」
「わかっている。一人だったら飯も用意できなかったから回復までにもうちょっと時間がかかったかもしれん。お前の弟子に礼を言っておいてくれ」
俺も牡蠣に当たった時は1人が辛かったな。
誰か水を持ってきてくれって思ってた。
「わかりました。エーリカは料理が上手なんですよ」
「みたいだな。お前の飯嫌いも治ったし、良い嫁を見つけたもんだ」
「嫁じゃないですけどね。それに飯が嫌いなわけでもないです。ただ時間の無駄って思っていただけですよ」
パンとサプリメントで5分もかからないし、場合によっては食べながら仕事や勉強ができる。
そう思っていた。
「今は思ってないか?」
「リートは食材も豊富ですし、言ったようにエーリカは料理が上手でしてね。この歳になってようやく料理の良さがわかりました」
「料理が下手で悪かったなー」
子供の頃からずっと俺の食事を用意してくれたのは本部長だ。
「別に下手ではありませんでしたよ。私が悪かっただけです。本部長が言っていたように生き急いでたのかもしれませんね」
「絶対に生き急いでいたぞ……まあいい。私も引退したらゆっくりバカンスでも行こうかね」
リートですかね?
なんか嫌なんだよなー……
「そうですか。本部長、下にレオノーラを待たせていますので仕事の話です」
「はいはい」
「まず、こちらが魔石になります」
そう言って、デスクに魔石を置くと、本部長が手に取り、じーっと見始めた。
「さすがはジークと言ったところだな。無駄がまったくない」
「当然です」
「褒め甲斐のない奴だ。確かに魔石はもらった。杖は?」
本部長が呆れながら魔石を置く。
「こちらになります」
3人娘合作の杖を渡した。
「ほう……」
本部長は杖を掲げながら質を確認する。
「私は何も教えていませんし、アトリエにあった本を見ながら作っていました」
「ふむ……なるほどな。9級と8級だったな?」
「はい。エーリカ、レオノーラが9級でアデーレが8級です」
「来月には?」
うーん……
「エーリカの8級は固いですね。レオノーラはよほど運が悪ければ落ちますが、大丈夫でしょう。アデーレは半々といったところです、実技に不安がありますので」
3人共、あとひと月でどれだけ確実性を高めるかだ。
「筆記は?」
「3人共、頭が良いし、努力家ですので問題ないでしょう。そっちの面は7級まではすんなりいくと思います」
実技はこれから。
「そうか……筆記はそのレベルで実技ではエンチャントもできるわけだ。本部に欲しいくらいだな」
「リート支部が潰れますので拒否します」
「わかっている。しかし、お前は良い弟子を見つけたな」
そう思う。
「本部長もそう思いますか?」
「ああ。この杖も見事なものだ。もちろん、王太子殿下に献上する杖としては合格点を出せないが、20代前半の9級、8級と思えば100点を出していい。想像以上だ」
本部長が絶賛している。
「それを本人達に言ってやれば喜ぶんじゃないですかね?」
「言うのはお前だ。師匠だろ」
それもそうか。
でも、褒めていいものだろうか?
褒めたらそこで止まらんか?
うーん……
「師匠って難しいですね。本部長の苦労がよくわかります」
優秀な弟子達だから恵まれている方だと思う。
それでもどう接するのかを悩んでしまう時がある。
自分でやる方が遥かに楽なのだ。
「わかれ、わかれ。問題児ばっかりだったわ」
「すみませんねぇ……」
左遷されるレベルでした。
「いい。お前達は成長し、ちゃんと一廉の錬金術師になってくれた。私はな、とても優秀だし、天才だ。しかし、欠点が1つだけある」
え? 1つ?
「人間性ですか?」
「違う…………人を見る目がないんだ」
んー?
「そうですか?」
そうは思わないが……
「私はお前を買っていた。きっと今後の錬金術師協会を背負って立つ男だろうとな。一方でクリス、テレーゼは5級止まりだと思っていたし、弟子達は皆、私の予想通りにはならなかった」
テレーゼが5級で止まるか?
あいつ、資質だけなら1級も十分に目指せるぞ。
「それはなんというか……」
「見る目がないだろ? お前やハイデマリーが弟子を取るとは夢にも思わなかったわ」
それはまあ、俺も思っていなかった。
俺もハイデマリーも錬金術に関しては自己中だし。
「まあ、私達は子供の頃に本部長に弟子入りしたこともあるんじゃないですかね?」
子供はどう成長するかわかりにくいし。
「かもな。どちらにせよ、お前達は私の予想を超えてくれた。お前に関しては斜め下だったが、それでも弟子を取ってくれ、後世に技術や知識を託してくれている。これは喜び以外の何ものでもない」
「ハァ?」
斜め下なのに喜びなの?
「ジーク、お前達はもう私の手から離れて久しい。教えることは何もないし、むしろ、教える立場になった。せいぜい頑張ってくれ」
「頑張ります」
「よろしい。行っていいぞ。試験ができたらまた持ってこい」
本部長がしっしっと手を振った。
左遷された時にもされたが、今は意味合いが違う。
「わかりました。あ、前に聞かれたことですけど、多分、年末には帰ると思います」
「そうかい。料理でも作ってやろうか?」
「お願いします。多分、今食べたら美味しいと思えますよ」
多分、な。
「あっそ。まあ、その前に来月だな。頼むぞ」
実技の試験官ね。
「わかりました。では、これで失礼します」
一礼すると、本部長室を出て、階段を降りていった。
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