俺達はエーリカと共に街並みを眺めながら歩いていた。
王都ほどじゃないが、人も多く、賑わっているように見える。
「エーリカさんは錬金術師なのですか?」
「はい。昨年、10級に合格しました」
ほう……若そうに見えるのに超難関の国家資格に合格するとは素晴らしいな。
「エーリカさんは優秀なんですね」
「いえ、そんなことは……あ、あの、敬語じゃなくても良いですし、呼び捨てで構いませんよ?」
ん?
「ヘレン、この場合はどうすれば?」
ヘレンに確認してみる。
「え? 普通にそうすればいいんじゃないですか?」
それもそうか……
「ヘレンちゃんって言うんですか?」
エーリカが肩にいるヘレンを見ながら聞いてくる。
「ああ。俺の使い魔のヘレンだ」
なお、名前はヘレン・ケラーから取った。
「へー、可愛いですね!」
ほう……さすがは超難関の国家資格に合格しただけのことはあるな。
見る目がある。
「はい」
肩にいるヘレンを掴むと、エーリカに渡した。
すると、エーリカが両腕で抱く。
「ヘレンって言います。よろしくです」
ヘレンが自己紹介すると、エーリカがさらに笑顔になった。
「はーい。よろしくねー。黒猫の使い魔と一緒にいるのがジークヴァルトさんって聞いたんですよ」
なるほど。
だから紙と俺を見比べていたんだ。
「ジークヴァルトは長いだろう? ジークでいい」
皆、そう呼ぶ。
「わかりました。しかし、ジークさんは錬金術師なのに魔術師でもあるんですね」
使い魔がいるのは魔術師だけだ。
錬金術師は道具をひっくり返しそうな使い魔を持たない。
ウチの子はそんなことをしたことはないがな。
「師が両方できたんで両方習ったんだ」
もちろん、本部長のことだ。
彼女も鷲の使い魔がいるが、ウチの子がビビりまくるので表には出てこない。
「素晴らしいですね。優秀な錬金術師とお聞きしていますが、そこからさらに国家魔術師の資格も取られるなんて尊敬します」
エーリカはヘレンを返しながら笑顔で褒めてくる。
その笑顔には一つの嫌味もない。
この子、すごく良い子だな。
「いやいや、エーリカも国家錬金術師なんだろう? その若さですごいことだ。いくつなんだ?」
「ありがとうございます。今年で20歳です」
やはり若い……
優秀なんだろうな。
「王都に行く気はないのか? それだけ優秀なら出世できると思うぞ」
……俺と違って人間性もばっちりだし。
「いえ、私はここの生まれですし、この町に貢献したいんです。王都に憧れがないわけではないですが、それでも故郷をより良いものにしたいと思っています」
ふーん……
「なあ、ヘレン……俺とこいつは同じ人間か?」
明らかに違わない?
故郷をより良くなんて生前を含めても考えたことない。
「ジーク様、エーリカさんが良い手本です。これぞ善。魂を浄化されてください」
結局、浄化されるんかい……
「あ、そうだ。エーリカ、サイドホテルって知ってるか?」
「ええ、町の西にあるホテルですね。今日はそこにお泊まりですか?」
「ああ、知人……いや、友人に優待券をもらったんだよ」
アデーレは友人と言っていたし、友人だろう。
人生で初めての友人だよ……
ひどいことしたけど……
「へー、良いご友人ですね」
ホントにね……
「まあな」
その後も歩いていきながらエーリカが町のことを説明してくれる。
この町は辺境とはいえ、海や森も近いため、食も資源も豊からしい。
人も穏やかな人が多いらしく、住むにはとても良いところだそうだ。
そういう説明を受けていると、エーリカがとあるビルの前で立ち止まる。
ビルの看板には【錬金術師協会 リート支部】と書かれている。
「ここが支部になります」
支部となっているビルは3階建てであり、王都の本部と比べると、縦にも横にも小さい。
まあ、それは仕方がないことだとは思う。
しかし、なんかさびれているような……
「案内してくれてありがとう。支部長はおられるか?」
「はい。支部長室におられます」
「挨拶がしたい」
「わかりました。どうぞ中へ」
エーリカにそう言われたので中に入ると、1階は本部と同じでエントランスとなっており、受付や待つためのソファーなんかが置かれている。
だが、人っ子一人いなかった。
もしかしたら今日は休日なのか?
王都では休日でも受付に誰かがいたはずだが、まあ、田舎だしな……
「支部長室は?」
「あ、そこです」
エーリカが受付内にある扉を指差した。
「1階なのか?」
本部では最上階の5階だった。
「はい。2階がアトリエで3階が素材なんかの倉庫になります」
「ふーん」
まあ、その支部ごとの考えや方針があるか。
「じゃあ、こっちに来てください」
エーリカがそう言って、受付に歩いていったので俺達も続く。
そして、受付内に入り、扉の前に来ると、エーリカがノックをした。
「支部長、ジークヴァルトさんが挨拶に見えました」
『あー、入ってくれ』
部屋の中から男の声が聞こえると、エーリカが扉を開け、中に入る。
俺達もそれに続いて中に入ると、部屋の中にはデスクにつく体の大きい40代くらいの男がいた。
男は白髪交じりの黒髪であり、さらには髭も生えている。
正直、デスクワーカーよりも軍人に見えた。
「支部長、ジークヴァルト・アレクサンダーさんです」
俺が支部長にものすごい違和感を覚えていると、エーリカが俺を紹介してくれた。
「初めまして。ジークヴァルト・アレクサンダーです。明日からここで働かせていただきます」
挨拶をし、一礼する。
「おう! 俺はヴェルナー。一応、姓まで名乗っておくと、ヴェルナー・フォン・ラングハイムだ」
貴族か……
錬金術師っぽくないと思ったが、多分、天下りだな。
前世も今世もよくあることだが、俺は別にそれを否定しない。
上が考えることだし、俺の邪魔さえしなければいいのだ。
まあ、たまにすげー邪魔する奴もいるんだけどさ。
「支部長、ジークさんは魔術師でもあるそうですよ」
エーリカが変わらない笑顔で支部長に言う。
「知ってるわ。こちらにもちゃんと書類が届いているからな。それにしてもまあ、ガチのエリートだな」
支部長が何かの書類を見る。
いやまあ、俺の経歴書だろうけど。
「そうなんです?」
「史上最年少で国家錬金術師の資格を得て、これまた最年少、しかも、最速で3級になってる。さらには国家魔術師の資格も5級だ」
「おー……もはや、同じ人間とは思えませんね」
俺も思わないよ。
もちろん、光と闇という意味でね。
俺が闇……
「ただ、左遷か……人間的によろしくないらしい」
「え? そうなんですか? 優しい方に見えますけど」
ありがとうよ、エーリカ……
涙が出そうだよ。
というか、支部長は本人の前で言うか?
「いや、そう書いてある。殴ってでもいいから性根を叩き直してほしい、だってさ」
絶対に本部長だ……
「ぼ、暴力はダメですよ!」
「わかっとるわ。しかし、本部長ともあろう者がすごいことを書くな……」
支部長が呆れている。
「本部長は私の師なのですよ。それに後見人でもあります。私は孤児なので」
「なーるほど。それならわかるわ。これは師匠兼親からだな」
支部長が見ていた紙をゴミ箱にポイッと捨てる。
「本部では色々と失敗したのです」
「そうか……まあ、そういうこともあるだろう。とにかく、明日から頼む」
「わかりました」
改めて、一礼した。
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