アデーレと世間話をしながら歩いていると、支部に到着した。
「ここがリート支部だ」
「前にチラッとだけ見たことがありますが、そこそこ立派ですね」
「そうか? さびれてるだろ」
「ジーク様、良いところを言いましょう」
ヘレンが苦言を呈してくる。
「良いところ……」
この建物の良いところって何だ?
「趣があって良いですね、とかですよ」
なるほど。
物は言いようか。
「趣があっていいだろ?」
「そうですね。悪いところではなく、良いところを見つけるのはとても良いことだと思います」
そういうのはエーリカが得意なんだよなー。
「まあいい。この裏が寮のアパートになる。こっちだ」
俺達は支部の横の細い道を通り、30秒で支部の裏に来ると、立ち止まる。
「ここが寮だ」
「本当に近くて良いですね」
「そうだな。あそこがアデーレの部屋になる。2階で良かったか?」
空いている部屋を指差す。
俺の部屋の上であり、レオノーラの対面だ。
「ええ。2階の方が良いです」
やっぱりか。
俺もそうじゃないかと思っていた。
レオノーラも2階だし、貴族は上の方が好きなんだろう。
「対面がレオノーラの部屋で斜め下が後で紹介する同僚のエーリカの部屋だ。困ったことがあれば2人を頼れ」
「あら? ジークさんが助けてくださらないんですか?」
「女性の部屋に入るのはどうかと思っただけだ。虫が出て、困ったら言え。ウチには虫取り名人がいる」
「にゃー」
ヘレンを撫でると、一鳴きした。
「ふふっ、その時は頼るかもしれませんね。では、ちょっと荷物を置いてきます」
「わかった。ゆっくりでいいぞ。どうせやることないからな」
「わかりました」
アデーレは階段を昇り、鍵を開けると、部屋の中に入っていった。
「手伝いを申し出た方が良かったのでは? 重い荷物もあるでしょうし」
アデーレはとても力があるようには思えない。
「それは俺もちょっと思った。でも、さっきも言ったが、女性の部屋だからな……しかも、貴族令嬢だ。言いにくい」
見られたくない荷物もあるだろうし、そもそも部屋に入るのは失礼だろう。
あの2人が例外なんだ。
「私がそれとなく言いましょうか?」
「頼む。それでいらないと言うならそれでいいだろう」
俺達はそのまま待っていると、10分くらいでアデーレが部屋から出てきて、降りてきた。
「お待たせしました」
「いや……早かったな」
「荷物を置いただけですからね」
それでも10分……
やはりかなりの荷物があるな。
「ジーク様、荷解きなんかをお手伝いした方が良いのではないでしょうか? 重いものもあるでしょうし」
ヘレンが早速、打ち合わせ通りのことを言う、
「そうだな……アデーレ、大きな荷物があるなら手伝うぞ。俺もそこまで力がある方ではないが、お前らよりかはある」
さすがにね。
「そうですね……すみませんが、お手伝いをお願いしても良いでしょうか。ベッドやソファーなどがあって、一人では厳しいのです。レオノーラはまったく戦力になりませんし」
あいつは非力なうえに50メートル15秒の運動音痴だからな。
「エーリカも似たようなもんだ。さすがに支部長は頼みづらいだろうし、手伝おう」
「ありがとうございます。ジークさんは本当に変わられましたね」
エーリカと違って、打算の善意だがな。
「人はそう簡単には変わらん。徐々に変わろうとしているだけだ」
「そう思えるだけで十分に変わっていますよ」
そうなんだろうか?
「まあいいわ。支部長に挨拶に行こう」
「ええ。お願いします」
俺達は支部の表に戻ると、中に入った。
「聞いてはいましたが、本当に人がいませんね」
「あそこに座るか?」
受付を指差す。
「嫌ですね」
「まあ、席については後で案内する。先に支部長室だな。そこの部屋だ」
今度は受付内にある扉を指差した。
「あそこですか。参りましょう」
「ああ」
俺達は受付の中に入ると、支部長室の前に立つ。
「支部長、おられますか?」
扉越しにそう聞きながらノックをした。
『いるぞ』
「アデーレが赴任の挨拶に来ました」
『おー、入ってくれ』
許可を得たので扉を開け、アデーレと共に入る。
すると、支部長が読んでいた新聞をデスクに置いた。
「支部長、王都の魔法学校でクラスメイトだったアデーレです」
紹介をすると、アデーレが一歩前に出る。
「明日からこちらに赴任します9級国家錬金術師のアデーレ・フォン・ヨードルです。よろしくお願いいたします」
アデーレが姿勢よく頭を下げた。
「おー。俺がこの支部の支部長であるヴェルナー・フォン・ラングハイムだ。お前達には悪いと思うが、俺は錬金術のことをほとんど知らん。だから基本的にはお前達に任せることになる」
「お任せください」
アデーレは9級だし、安心できるな。
「うむ。ジーク、よろしく頼むぞ」
「かしこまりました」
「ジーク、ちなみに聞くが、アデーレの歓迎会とかは考えているか」
「………………」
そんなもんもあったな……
「ハァ……だと思ったわ。アデーレ、今夜は空いているか? まだ赴任していないし、明日の方が良いのだが、俺は明日から出張でいないんだ」
「もちろん空いています」
「では、今夜、歓迎会をしよう。ジーク、いいな?」
支部長が聞いてくる。
「アデーレは酒を飲むか?」
「お酒ですか? 嗜む程度ですね」
嗜む……微妙な言い方だ。
「うーん、まあ、アデーレはパワハラや一発芸の強要なんかせんか」
「あなたは何を言っているんですか?」
アデーレが呆れた顔になる。
「いや、何でもない。支部長、上の2人は?」
「問題ないそうだ」
「わかりました。では、本日、アデーレの歓迎会を致しましょう」
この前みたいに飲み食いするだけだろうし、一次会で帰れるだろ。
「ああ。寮は案内したか?」
「先程。これからアトリエに案内し、エーリカとレオノーラに紹介します」
もっとも、レオノーラは知っているが。
「わかった。では、終業後にな」
「はい。これで失礼します」
「失礼します」
俺達は支部長室を出た。
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