顔に何かの衝撃が走った。
だが、痛みはない。
柔らかい何かが俺の顔を叩いている。
「――さまぁ! ジーク様っ!」
「んー?」
ヘレンの声が聞こえたので目を開ける。
真っ暗で何も見えないので枕元の電灯をつけると、ヘレンが俺に猫パンチをしていた。
「起きてください!」
「起きたぞー……暗いけど、もう朝かー……っておい、4時じゃねーか」
ギリ朝と言えなくもないが、さすがに早すぎる。
「チャイムが鳴っています。それに変な魔力を感じます」
「ん?」
確かに魔力を感じるなと思っていると、玄関の呼び出し音が聞こえてきた。
「何だ?」
「先程から連続で鳴っております。何かあったのでは?」
よくわからないが、起き上がると、寝室を出た。
すると、扉をドンドンと叩く音が聞こえてきたので玄関まで行き、扉を開ける。
そこには寝間着姿のエーリカが立っていた。
「何だよ? 今何時だと……は?」
「ジークさん! 火事です!」
エーリカが言うようにアパートの前の建物が燃えていた。
というか、支部だ。
「え? 何あれ?」
「わかりません! なんか明るいなと思って目が覚めたんですけど、カーテンを開けたら火が見えたんです!」
配置的に俺の部屋からは支部が見えないが、エーリカの部屋からは見えるのだ。
「チッ! レオノーラとアデーレは!?」
「まだです!」
「起こして避難させろ! 俺は火を消す!」
「わかりました!」
エーリカが慌てて、階段を昇っていったので支部の前まで行く。
「燃え上がっていますね……」
「こんなに燃えるものなんかないぞ」
納品用の火曜石が3階に置いてあるが、まだ数個しか作っていない。
これは明らかに事故じゃない。
そうなると……いや、今はそれどころじゃない!
「ウォーターボール!」
手をかかげ、魔法を使うと、支部の上空に水の球体が現れ、落下する。
だが、水により火の勢いは落ちたが、まだ完全には消えていなかった。
「チッ!」
今度はさらに大気中の水蒸気を集め、先程よりも巨大な水の球体を作る。
「ウォーターボール!」
先程よりも魔力を込めた水魔法を使うと、水の球体が落ちる。
まだ煙が立ち込めているものの、火は消えた。
だが、支部は見る影もなく、黒くなっていた。
「え!? 何、何!?」
「はい!? 何があったの!?」
声がしたので振り向くと、エーリカと共に寝間着姿のレオノーラとアデーレがいた。
どうやら起こしたようだ。
「火事だ。すぐに軍が……ユリアーナか」
ユリアーナが支部の脇の道を通り、こちらに走ってきていた。
「皆さん、ご無事でしたか!?」
「寝てたからな」
「一体何が!?」
こっちのセリフだわ。
「ちょっと待て……お前ら、着替えてこい」
3人娘は完全に寝起きなため、寝巻き姿であり、髪も跳ねている。
人前に出る格好じゃない。
「あ、はい」
「急いで着替えてくる!」
「私も!」
3人はそれぞれの部屋に戻っていく。
「軍は?」
「表で消火活動を始めようかと思っていたところです。そうしていると、上空に水魔法が現れたのでジークさんだと思ったんです」
軍も来たばかりだったのか……
「責任者は?」
「大佐です。表におられます」
そういえば、出張中だったけど、一時的に呼び戻すって言ってたな。
「行こう」
「ジークさんは着替えなくてもよろしいのですか?」
当然、俺も寝巻き姿だ。
「どうでもいいわ。行くぞ」
「は、はい」
俺達は脇道を通り、表に出た。
すると、表の通りには数多くの兵士がおり、その中に大佐を見つけたので近づいていく。
「大佐! 支部の方達は無事です!」
「そうか……無事で何よりだ。他の者は?」
大佐が聞いてくる。
「こんな時間ですので寝間着姿です。着替えさせに行きました。支部長は出張で王都に行っておりますので現在は私が責任者になります」
「うむ。支部長は王都でも会った。本日戻る予定だったな……して、何があったのだ?」
「わかりません。私達もさすがに寝ていましたので……」
4時はさすがに起きていない。
「出火に気付いたのは?」
「エーリカです。私達は支部の裏のアパートに住んでいるのですが、部屋の配置的にエーリカの寝室からは火が見えたようです。それで私が起こされたので早急に火を消したわけです」
「うむ……」
大佐が考え込む。
「大佐、調査をお願いします。昨日は休みでしたので誰も支部には入っておりませんし、支部の中で燃えそうなのは火曜石ぐらいですが、それも数個です。とてもこのような火が出る状況ではないです」
「わかった……おい!」
「「「はっ!」」」
大佐が指示をすると、兵士達が燃えた支部の調査を始める。
「大佐、これは……」
ユリアーナが大佐を見る。
「まだわからんし、何とも言えん。だが……」
ん?
「大佐、心当たりでも?」
「うむ……これは独り言だが、例の商会のバックにいる議員はどこかの少佐が懇意にしていたなと思ってな」
チッ!
そっちか。
「申し訳ありませんが、今回のことは本部に報告しますし、本部の調査員も来ます」
「それは仕方がないだろうな……」
さらに泥沼化するな。
「ジークさん!」
着替え終えた3人娘がやってきた。
「大佐、ウチの錬金術師です」
「うむ。3人共、怪我はないか?」
大佐が3人に聞く。
「はい」
「怪我はないけど……」
「これ、どうなるのかしら?」
3人は燃えた支部を見て、呆然とした。
「現在、調査中だ。不幸中の幸いで君達に被害がなくて良かった」
「それは良かったですけど……」
「私達、どうなるのかな?」
「働く場所が見事になくなったわね……」
ホントだわ。
「当分は在宅だろうな。その辺りは今日、戻ってくる支部長と相談しよう」
「わ、わかりました」
ハァ……
「しかし、なんでウチが狙われたのかねー?」
レオノーラが首を傾げる。
「どっかの議員がどっかの少佐と仲が良かったんだと」
「あー、そういうこと……逆恨みにも程があるでしょ。こっちは普通に仕事をしただけだっていうのにさ」
「面倒なことになったわねー……目撃者なんていないだろうし」
こんな時間だしなー……
「ご安心を!」
ん?
上から声が聞こえたので全員が見上げる。
すると、向かいの家の屋根にとまるカラスがいた。
「え? あのカラスがしゃべりました?」
「カラスはしゃべらないでしょ」
「そうよ……あれ? あのカラス……」
んー?
「ジーク様、クリスさんのところのドロテーじゃないですか?」
あ、ホントだ。
「ドロテーかー?」
「そうでーす。世界一の美人ガラスのドロテー様でーす」
ドロテーはそう言って、こちらに飛んでくる。
そして、レオノーラの肩にとまった。
魔女っ子コスプレのレオノーラと非常に相性が良い見栄えだ。
「何してんだ? クリスはどうした?」
「ちょっと仕事がありましてね。具体的にはジークさん周りの身辺調査です」
ハァ?
「俺の? 俺は何もしてないぞ」
「こんなところに左遷されておいて何もしてないことはないでしょうが……まあ、それはいいです。そういうわけで私はずっとそこの屋根で見ていましたので犯人も見ましたよ」
え?
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