ルッツが帰ると、アデーレとレオノーラがテーブルに戻ってきた。
「ひとまずは安心?」
「じゃない? 私が怖かったのはこの件が長期化して、こちらに火の粉が飛んでくることだったし」
貴族2人が顔を見合わせる。
「支部長パワーを使わなくて良かったな」
「あ、その支部長にもルッツ君から聞いたことを報告しましょうよ」
エーリカが提案してきた。
「それもそうだな。それと今後のことを相談しよう…………あれ? 支部長の家ってどこだ?」
支部長も在宅勤務をしている。
今回の件の報告書なんかを書いているはずだ。
「あ、案内しますよ。皆で行きましょう」
エーリカがそう言って立ち上がったので俺達も立ち上がる。
「ドロテーはどうするんだ? ついてくるか? それとも空の散歩にでも行ってくるか?」
「せっかくなんでついていきます。仕事もあるんで」
仕事?
「仕事なんかあるのか? 前に言ってた俺の身辺調査か?」
「まあ、そんな感じです」
「なんでクリスがそんなことをするんだ?」
あいつ、俺のことをそんなに興味ないだろ。
「気にしておられるのはクリス様の上ですよ」
上? 本部長か?
「何がしたいんだか……」
「知りませんよ。ほら、行きましょう」
俺達は支部長の家を訪ねることにし、エーリカの家を出た。
「ハァ……見るたびにへこみますね」
エーリカが焼けた支部を見て、ため息をつく。
「世の中、本当にこういうことをするクズがいるからな。俺達がせっかく物を作ってもくだらない理由で壊しやがる」
「ひどいですね」
「そういう奴は報いを受けるもんだ。俺達は俺達の仕事をしよう」
「はい」
俺達は焼けた支部の横道を通り、表に出ると、看板を裏にした。
「エーリカ、支部長の家はどっちだ?」
「こっちです」
エーリカが北の方を指差し、歩いていったので俺達も続く。
しばらく歩くと住宅街にやってきた。
「支部長の家って豪華そうだな」
貴族だし、金を持っているだろう。
「いえ……ここですね」
エーリカが立ち止まり、2階建てのアパートを指差した。
「ここ?」
「はい。ここの1階です」
外観的には古くないが、俺達の寮となっているアパートと大きさは変わらない。
つまりそんなに家賃が高そうには見えなかった。
「ふーん……」
意外と金を持っていないのかね?
そうなると、いつも奢ってもらうのも気が引けてくるな。
「あの部屋ですね」
エーリカが前に出て、端の部屋のチャイムを押す。
すると、すぐに扉が開かれ、本当に支部長が顔を出した。
「ん? なんだお前達か……4人揃ってどうした?」
「このドロテー様もいますよ!」
自己主張の強いカラスだな……
「使い魔は頭数に入ってないに決まってるじゃないですか。本当に鳥頭ですね……」
ヘレンがやれやれといった感じでバカにする。
「うるさい、空も飛べないくせに!」
全員、飛べないし、なんならお前の主も飛べんわ。
「ケンカするなっての。支部長、ちょっとよろしいですか? 先程、軍のルッツが来まして、色々と話を聞いたもので報告があるんです」
「ああ、そういうことか。俺も話がある。近くに喫茶店があるからそこに場所を変えよう」
「わかりました」
俺達はこの場をあとにし、支部長についていく。
「支部長ってアパートに住んでるんですね」
「ん? ああ……単身赴任だしな。1人だから屋敷を買うまでもないだろ」
王都に家があるってことはそっちが本宅なわけか。
「家族を呼ばないんですか?」
「一番下の子が来年、お前やアデーレの母校の魔法学校を受験するんだよ。だからその子が卒業して独り立ちするまでは単身赴任だな。卒業したらまた考える」
なるほどな。
家族の事情か。
「一応、聞きますけど、支部長ってずっとここにおられるんです?」
「多分な。俺の代わりにこの支部の支部長をやりたがる奴はいないし、俺も妻もこの地で余生を過ごすのも悪くないと思っている」
「へー……」
支部長は異動しないわけか。
それは俺としても良い。
支部長は錬金術に詳しくないから干渉もしてこないし、こちらに任せてくれるから非常にやりやすいのだ。
しかも、後ろ盾にもなってくれる。
実に良い上司だと思う。
そのまま歩いていくと、喫茶店に入る。
そして、席につき、各々が飲み物を頼んだ。
「お前らはそれぞれの部屋で仕事をしているのか?」
飲み物が届き、コーヒーを一口飲むと、支部長が聞いてくる。
「エーリカの部屋に集まってます。それに仕事と言っても主に今度の試験の勉強ですね。材料が燃えちゃったんで仕事のしようがないです」
火曜石は魔石があれば作れるんだが、ちょっと時間を置こうと思っている。
俺は気にしないが、火曜石で支部が燃えたことを考えると、3人娘のメンタルのためにはそうした方が良いと判断した。
少なくとも、試験が終わるまでは火曜石を作らない方が良いだろう。
「そうか……まあ、致し方ないな」
「ルッツから依頼の回復軟膏の期限を延ばす旨を聞きました。もう一つの火曜石は役所の担当のルーベルトさんと連絡がつかないのでまだ納期の延長の話はしていません」
役所に行って話をしようと思ったのだが、留守だったのだ。
「役所は忙しいだろうからな。何しろ、議員が逮捕されたんだから」
支部長も議員が逮捕されたことは知っているか。
「でしょうね。まあ、以前にもそんなに急いではいないと聞いていましたので大丈夫だと思います」
「わかった。仕事は問題なさそうだな」
問題ないって言っていいかはわからんがな。
「とりあえずは……ですけどね」
「まあな……その件で話があるが、その前に報告とやらを聞こう」
「はい。まずですけど、アドルフの後ろ盾だった議員が逮捕されたことは御存じですね?」
「ああ。今朝の新聞に載っていたし、何なら事前に大佐から聞いていた」
新聞取ってないから知らんかったな。
「もう新聞に載ってたんですか?」
昨日逮捕されたっていうのに早くないか?
「ああ、新聞社は事前にそういう情報を掴んでいたらしい」
あっ……そういえば、取材の時に俺が怪しいって教えたんだった。
そりゃ早いわけだわ。
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