俺はマルタと雑談をしながらも雷鉱石を選定していった。
「ジーク君、これはどうかな?」
テレーゼが鉄鉱石を見せてくる。
質的にはかなり良さそうに見えた。
「うーん、それ以上はないか?」
「ここにあるのではこれが一番良いやつ。これ以上となるとそれこそ飛空艇製作チームじゃないかな?」
あそこか……
さすがにこの状況で良質な鉄鉱石を寄こせとは言いにくいな。
「それは無理そうだ。それでいいから同じような鉄鉱石をあと2つ、3つくれ」
「わかった」
テレーゼがまたもやごそごそと木箱を漁っていく。
その間にも雷鉱石を選定していくが、あまり良質とは言えなかった。
「ロクなのないな……」
「雷鉱石は需要があまりないから質も微妙なのよ」
マルタが苦笑いを浮かべた。
「電気のすごさを知らないのか……」
地球では革命だというのに……
「すごさって?」
「いや、何でもない。ちょっと量をもらってもいいか? こうなったらエレメントを圧縮して品質を高める」
面倒だが、それしかないな。
「私、ここで働いて3年になるけど、ジーク君が何を言ってるのかわからないんだけど……」
「6年の私もわからないので大丈夫」
「8年の私もわからない。ジークヴァルト君、圧縮って何?」
先輩さんが聞いてきた。
「そのまんま。抽出したエレメントを圧縮して質を上げる技術です」
「何それ? 聞いたことないんだけど」
「誰かに言ったことないからそうでしょうね」
そもそも魔導石製作チームじゃない俺はあまり使わない技術だ。
「ジーク君、そういうのを学会で発表したら?」
テレーゼが提案してくる。
「学会も発表も嫌いだ。バカのくせに頭を良く見せようとすることに必死な奴らの揚げ足取り合戦に付き合うほど暇じゃないんだ」
素直に教えを乞うてきたら教えるが、プライドが高く、自分の研究成果に絶対の自信を持っている研究者は絶対にそんなことしない。
結果、新しい考えを否定するだけの老害へと変わる。
「ああ……ジーク君って感じがするよ」
「しますね……」
「頭が良すぎるのも考え物だね」
結果、他人をバカにするだけの悲しきモンスターが俺なのだ。
「否定することにしか頭を働かせない奴らが嫌いなだけだ」
世界中の人々がエーリカだったら世界はもっと優しいはずなのだ。
もっとも、残念ながらその楽園のような世界に俺はいないがな。
「ジーク君、その圧縮っていうのを教えてくれない?」
テレーゼが聞いてくる。
「別に構わんぞ。たいした技術でもないし、どうせそれをしないといけないからな」
選定した2つの雷鉱石を持って、空いている近くのデスクに行く。
すると、3人がやってきて、雷鉱石を見る。
「Bランクの雷鉱石が2つだね」
テレーゼが言うようにデスクの上には俺が選んだBランクの雷鉱石が2つある。
これ以上の品質のものはなかったのだ。
「まずこれからエレメントを抽出する…………抽出機はないか?」
ここはリート支部じゃないから便利な機械があるわ。
それにいつもの癖で実演みたいになったが、エレメントの抽出は専門のこいつらに教えるようなことじゃない。
「あ、こっち、こっち。この前、機械製作チームから提供された最新鋭の抽出機がある」
テレーゼが指差した方向には確かに見たことない電子レンジみたいな機械が置いてあった。
「すごいな……」
さすがは本部だ。
最新鋭のものが簡単に支給される。
「なんか今まで使っていたやつはどこかの支部に渡すらしいよ」
あ、ウチだ。
そういうことね。
「頼むわ」
テレーゼに2つの雷鉱石を渡す。
「すごいんだよ。あっという間にエレメントが抽出される」
テレーゼはそう言って、抽出機に1つの雷鉱石を入れ、スイッチを押した。
そして、数分経ち、取り出すと、宝石のような黄色の石が出てくる。
「できたよー」
テレーゼがエレメントをデスクに置いた。
「早いなー……」
「でしょ? もう1つもやってしまうね」
テレーゼが残りの1つを抽出機にセットする。
「便利なのは良いけど、こうやって技術が進むと、私達のやることがどんどんとなくなっていきますよね」
「いつかは職を失うかもね」
抽出機の便利さにマルタと先輩さんが苦笑いを浮かべた。
「大丈夫だろ。こういうのを扱うにも錬金術の知識がいるし、ここから先はどうしても手作業になる。効率化はどんどん進むだろうが、職がなくなることはない」
そもそもその時は俺達が退職した後くらいだろう。
現状の俺達には関係ない。
「そっか……」
「今は仕事が楽になることを喜びましょうか……」
仕事がなくなるのは嫌だが、今の激務も良しとは思っていない感じだ。
当たり前だが、複雑そうだな。
「できたよー」
テレーゼがもう1つの雷鉱石から抽出したエレメントを持ってきてくれた。
「本当に早いな。ウチにくれよ」
「ダメ。これがないと私達が死んじゃう」
冗談に聞こえないのが悲しいわ。
「1日は24時間あるぞ」
「今、笑えない。私、辛い」
そっか……
「えーっと、圧縮というのは2つのエレメントを1つにして、質を上げる技術だ」
「意味わかんないね」
テレーゼが首を傾げる。
マルタも先輩さんもさっぱりといった感じだ。
「イメージとしては2つの液体を混ぜ、こす感じだな」
「固体じゃん」
「想像力が貧困な奴だな。イメージって言ってるだろ。果汁50パーセントのオレンジジュース2つを混ぜて、いらない水分を除き、果汁100パーセントのオレンジジュースにするんだよ」
「ほうほう?」
わかってるのかな、こいつ……
「まあ、見とけ」
デスクに置いた2つの石に手をかざすと、すぐに光り出した。
そして、2つの石がゆっくりと磁石がくっつくように近づき、1つになっていく。
すると、2つだった石は1つのエレメントになった。
「1つ消えた!?」
「いや、だから圧縮したの。見ろ、Aランクの雷鉱石のエレメントだ」
「ホントだ! ジーク君、すごい! 天才だ!」
はいはい。
生まれる前から知ってる。
「こんなの初めて見たわね……」
「ホントですね……さすがは平均50点の男」
何それ?
「何ですか、それ?」
ヘレンが妙なことをつぶやいたマルタに聞く。
「へ!? いや、ジーク君は天才ってこと! 尊敬するわ!」
50点で?
「実力100点、人間性0点って意味じゃないですかね? 私もそう思います」
ドロテーがしみじみと頷いた。
「失礼な! 人間性だって30点はありますよ! ジーク様は変わられたんです!」
ヘレン……俺の自己評価は40点だったよ……
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