昼食を食べ終えた俺達は店を出る。
なお、テレーゼが全部出してくれた。
俺が出すと言ったのだが、その分を3人娘に使ってやれと言われたので渋々納得した。
そして、来た道を引き返し、支部に戻る。
「あ、ジークヴァルトさん、本部長がお呼びでしたよ」
受付の前を通ると、受付嬢が声をかけてきた。
「相変わらず、せっかちな奴だな……」
「師匠にそんな言い方はないんじゃない? 同意だけど」
「そうですよ。ウチのトップですよ? 同意ですけど」
皆、そう思ってんじゃん。
「とにかく、わかった。魔導石製作チームのアトリエに寄ったら行く」
「お願いします」
俺達は3階に上がり、魔導石製作チームの共同アトリエに戻ってきた。
すると、デスクの上にはインゴットが4つ置いてあったので1つ1つを手に取って見てみる。
「すんごいプレッシャー……」
コリンナ先輩が嫌そうな顔をする。
「いえ、見事なものだなと思っただけです」
正確な厚板形で4つとも寸分の狂いもない。
やはり経験がある専門職は違うな。
ウチの3人娘とは違うわ。
「そ、そう?」
「ええ」
この人が何級かは知らないが、本部のエリートは違うわ。
「コリンナ先輩は私の師匠なのよ」
マルタの師匠か……
じゃあ、勧誘してもウチには来ないな。
アデーレが無理って言ってたけど。
「なあ、マルタ、仕事とは関係ないことを聞いてもいいか?」
「何?」
「アデーレってモテるのか?」
「はい? 急にどうしたの?」
あー……どうしよ?
言っていいもんかね?
「いや、A君とW君がアデーレのことを気にしていたみたいだからどうかなーって」
「あー、アウグストとヴォルフね」
知っているんだ……
「わかるもんか?」
「年の近いのはそいつらだからね。あと、アデーレから聞いたことある。何? 絡まれたの?」
「多分? なんか関係を聞かれた」
仕事しろよな。
「あー、噂になってるもんね。アデーレが彼氏を追ってリートに行ったって」
「俺もそれは聞いた。普通、そんなこと思うか?」
「いやー、本部から辺境のリートでしょ? 普通は自分から手を上げないじゃん。何か理由があるんだろうなって思うでしょ。それで考えたら同級生のジーク君が頭に浮かぶのは変なことじゃないよ」
うーん……わからん。
他人にそこまでの興味がないし、誰かが異動したところで『あっそ』だからなー。
「別にそんなことはないんだが……」
「私は本人から聞いたから知ってる。でも、男連中は聞いてないし、そう思うんじゃない? アデーレって美人だし、受付にいたから当然、皆、知ってるしね」
俺以外な……
クリスですら知っていたし、何度か話もしたことがあるというのに……
「あいつ、色々と苦労してそうだな」
職場での恋愛関係は上手くいけば良いことなんだろうが、そうじゃない場合はトラブルしか起きないだろう。
「そうかもね。色々と溜まっていたみたいだし、だからジーク君に誘われて、乗ったんでしょ。優しくしなさいよね」
まあ、そんな感じのことを言ってたしな。
「ちなみにだけど、リートに来ないか? 良いところだぞ」
「嫌。実家を離れたくないし、コリンナ先輩が師匠だもん」
いつかは実家を出るだろうに。
「コリンナ先輩は……旦那さんがいるんでしたね」
「うん。しかも、新婚だから単身赴任は絶対に嫌」
こりゃ本当に本部での勧誘は無理そうだな。
アウグストを誘ったらどんな反応をするんだろ?
絶対に誘わんが。
「4人で頑張るしかないか……じゃあ、俺は本部長のところに行く。手伝ってもらってありがとうございました」
「本部長の仕事だし、全然いいよ」
「アデーレによろしく」
「頑張ってねー」
たった一言、感謝の言葉を言えば良かったんだよなー……
それだけで人間関係が劇的に変わる。
「ジークさん、私も行ってもいいですか? 暇なんです」
ドロテーが飛んでくる。
「良いけど、レオノーラはホテルで勉強しているからおらんぞ」
「さすがに試験の邪魔はしませんし、夜は家に帰りますよ。忙しいのはわかるんですが、テレーゼさんといると陰気が移りそうなんです」
多分、テレーゼもお前に対して同じことを思っていると思うぞ。
テレーゼの邪魔になるだろうし、回収するか。
「ほら、来い」
そう言うと、ドロテーがヘレンがいる逆の肩にとまった。
「黒猫とカラスで良い感じですね。近寄りがたさがぐーんと上がりました」
どっちも不幸の象徴か……
ヘレンは可愛いんだが。
「行くか……」
俺達は部屋を出て、階段を昇ると5階までやってきた。
そして、本部長の部屋の前で立ち止まり、扉をノックする。
「本部長、ジークヴァルドです」
『はいはい。勝手に入れー』
いい加減な返事がしたので扉を開け、中に入る。
すると、本部長がデスクにつき、何かの書き物をしていた。
「仕事ですか?」
「まあな。これでも忙しいんだ」
本部長も忙しいんだな。
支部長は暇そうなのに。
「受付で呼んでいると聞きましたが?」
「ああ、陛下と連絡を取ったが、金に糸目はつけないそうだ。だから雷の魔剣を作ってくれ」
無駄金を使う王様だわ。
「わかりました。魔導石製作チームから雷鉱石と鉄鉱石を分けてもらいましたのですぐにでも作業に入ります」
「どれくらいでできる?」
うーん……
「1週間程度いただけると……」
「そんなにかかるのか?」
「王都で観光したいという者がおりましてちょっと時間をかけます。試験のついでの手伝いという名の偽出張で来ているもんで」
「そうか……まあ、好きにしろ。お前にはそういうのも大事だろう」
心に余裕がいるらしいな。
「それとですが、私は刀身しか作れません。柄や鞘はお願いしますね」
「わかった。そちらの方はこちらで用意する。お前、作業はどこでする?」
あー…どうしよ?
「ここは?」
「人がめちゃくちゃ来るぞ」
本部の人間が報告に来るし、来客もいるか。
鉢合わせたくないし、邪魔だろうな。
「テレーゼのアトリエはちょっと気が引けますね」
「魔導石製作チームはな……今が山場だ」
「それなのにリートに派遣したんですか?」
「お前が指名したんだ。物静かでわかりの良い奴だからな」
それはわかるが、ちょっと可哀想だ。
差し入れでも持っていくかね?
「ホテルはマズいでしょうし、どこかないです? 私のアトリエだった場所は?」
「そこは別の者が入っているな。うーん……」
こうなったら応接室でも借りようかね?
「ジークさん、クリス様のアトリエを使ったらどうです? いませんし……」
自分で言って、暗くなるなよ、陰気カラス。
「勝手に入っていいのか?」
「私もいますし、同門のジークさんなら問題ないでしょう。漁らないでしょうし」
漁るわけないだろ。
興味ねーわ。
「じゃあ、借りるわ。何日かは3人娘も来る」
「わーい、レオノーラさんだ」
ホントに金髪が好きなカラスだな。
「本部長、そういうわけでクリスのアトリエを借ります」
「わかった。夜にでもクリスに電話しておく」
「お願いします。では、私は作業に入ります」
「頼む」
俺は一礼をすると、ヘレンとドロテーを連れて、部屋を出る。
そして、階段を降り、3階のクリスのアトリエに向かった。
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