ホテルに戻ると、3階まで上がり、自室である304号室に入った。
そして、ヘレンがベッドでゴロゴロし始めたのでテーブルにつき、読書をする。
しばらくすると、ノックの音が聞こえてきた。
「どうぞ」
そう答えると、扉がちょっと開き、エーリカが顔を出した。
「お疲れ様です」
「ああ……1人か? レオノーラとアデーレは?」
「一緒に勉強してたんですけど、キリのいいところまでやるそうです。すぐに来ると思いますよ」
「そうか……まあ、入れよ」
そう言うと、エーリカが部屋に入ってくる。
そして、奥のベッドに腰かけると、べたーっと伸びているヘレンを撫で始めた。
「久しぶりの本部はどうでした?」
エーリカが笑顔で聞いてくる。
「挨拶が大事なんだなって改めて思った」
「それはそうですよー」
エーリカが苦笑いを浮かべると、またもやノックの音が響いた。
「開いてるぞー」
そう答えると、レオノーラとアデーレが部屋に入ってくる。
「――やふー!」
「お疲れ様」
なんかレオノーラのテンションが高い。
「元気そうだけど、どうした?」
「やっと勉強が終わったからね。それよりも何の話をしてたの?」
レオノーラが隣に座りながら聞いてくる。
なお、アデーレはその対面に座り、エーリカはベッドでヘレンを抱えて遊んでいる。
「挨拶は大事って話」
「大事だねー」
「ホントにね」
ちくり。
「勉強はどんな感じだ? 試験はいけそうか?」
「やるだけのことはやったし、後は明日にそれを出すだけだね」
「そうね。ここまで来たら明日に備えて早めに休むだけよ」
「頑張ります」
自信はありそうだな。
「まあ、落ちてもたいしたことではないし、気楽にやってくれ」
しばらくすると、ホテルマンが食事を持ってきてくれたので皆で食べだした。
「食事も一級品なんですね……」
庶民代表のエーリカはちょっと気が引けているみたいだ。
「美味しいけど、エーリカが作ってくれる料理の方が美味しいよ。ね?」
え?
「そうだな。でも、今はこの食事を楽しもうじゃないか。あまり来る機会もないし、滅多に食べられないんだぞ。この豚肉のソテーなんか非常に美味い」
「それ、鴨肉よ」
あ、はい……
「ジークさんは明日も魔剣作りですか?」
エーリカが聞いてくる。
「そうだな。一応、期限は1週間ということになったからそれまでは遊んでいいぞ」
「お店に行きたいです」
何のだよ……
「エーリカさん、リートを案内してくれたお礼に連れていくわ」
「わー! ありがとうございます!」
うん、女は女同士で行ってくれ。
そもそも俺は錬金術関係の店以外はスーパーとパン屋くらいしか知らん。
「ジーク君、魔剣はどんな感じなんだい? 良いのが作れそう?」
今度はレオノーラが聞いてくる。
「雷の魔剣を作ることになったわ」
「なんかかっこよさそうだね」
「実際、かっこいいと思うぞ。実用性は微妙だけど」
まあ、小学生が好きなのは火より雷だろ。
「自慢用の魔剣だしねー。一応、手伝いをするって名目だけど、手伝うことはある?」
ねーな。
「クリスのアトリエを借りて作業をしているんだが、暇な時でいいからドロテーの相手をしてやってくれ。クリスがまだ帰ってきてないようで陰気カラスになってる」
「まだ帰ってないんだ……ドロテーちゃん、可哀想にね」
「あいつはお前の髪が好きだから頼む。今日なんて仕事をしながらずっとしりとりをしていたわ」
なお、全勝した。
俺に勝てると思っているんだろうか?
「しりとりって……」
「ドロテーが好きらしいぞ」
何度も再戦を申し込んできたし。
「ふーん……あ、報酬はどうなったの?」
「そうそう。抽出機と分解機の他に魔力草もくれるってさ。いっぱいあるから好きなだけ持っていけって」
太っ腹本部長。
口に出したら殴られそうだ。
「おー! それは良かった! これで腰を痛めずに済む!」
「私も良かったわ。外は怖いし」
「ジークさんがぱっと見、何もしない感じも外聞が悪いですしね」
ホント、ホント。
こちらの気遣いができるのはさすが聖女エーリカだ。
「これで帰ってからの仕事の目途も立った。試験が終わったら気兼ねなく遊んでいいからな」
「ジーク君、デートしようよー」
レオノーラはデートが好きだなー。
「どこに?」
「皆で観光しようよ」
それデートか?
いや、俺は学習した。
雰囲気が大事なのだ。
当人がデートと言えばデートだろう。
「いいけど、王都に観光するところってあるか?」
長年王都にいたアデーレに聞いてみる。
「お城とか中央の噴水とか大聖堂なんかもあるわよ」
城、噴水、大聖堂……
「それ、楽しいのか?」
まったく惹かれないんだが……
「初王都のエーリカさんに付き合ってあげなさいよ」
「ジーク君、どこに行くかじゃなくて誰と行くかだよ」
そうだったな……
「まあ、1週間あるしな。ドロテーも誘って、気を紛らわせてやるか」
「良いと思うよ。鳥は外に出てなんぼでしょ」
出かけるか……
よく考えたら王都出身だけど、ほぼ観光地なんて行ったことないし、案外、行ってみたら楽しいかもしれない。
「ジークさん、他にも本部で何かなかった?」
今度はアデーレだ。
そして、若干、心配そうな表情をしている。
「特には……あ、同期のことを教えてくれてありがとうな。助かったわ」
「会ったの?」
「魔剣の材料をもらいに魔導石製作チームの共同アトリエに行ったらマルタがいた。アデーレに聞いてなかったら完全に気付かなかったな」
あぶねー、あぶねー。
「それは良かったわ。マルタはあなたのことを結構言ってたから」
「平均50点か?」
「それ」
今は人間性が35点あるから67.5点ある。
「危なかったわ。まあ、そんなもんだな。後はテレーゼの目が死んでたくらいだ」
「それはそれで……でも、確かにマルタも電話で死ぬほど忙しいって言ってたわね」
きつそうだったしな。
「ジーク様、アウグストさんの件があるでしょ」
すでに食事を食べ終え、丸まっていたヘレンが顔を上げた。
「あー、あったな……」
忘れてた。
「アウグストさん? 会ったの?」
「階段ですれ違った。髪切ってたからわからなかったわ」
「あー、確か、ジークさんが異動になってすぐに切ったわね」
なんか嫌だな、それ……
「それで最初はわからなかったんだけど、向こうから絡んできやがった」
「本当に仲が悪いのね……」
いや、むしろ……
言っていいものかわからないのでチラッとヘレンを見る。
「おっしゃって良いと思いますよ。アデーレさんも知っておいた方がもしものためになりますし」
「いや、両思いかもしれんだろ」
「ないと思いますが、その時はキューピッドです。別にいいじゃないですか」
なるほど……
「言わなくていいわよ。全部わかったから」
アデーレが嫌そうな顔をする。
「嫌いなのか?」
「そりゃね……」
そうなのか……
関わり合いや関係性を知らんからわからんわ。
「ジーク君、友人であり、師匠である人間を貶めた人間を好きになれっていう方が無理だよ。私だって会ったことも見たこともない人だけど、嫌いだもん。しいて良いところを上げると言うなら間接的にでも君をリートに連れてきたことだね」
レオノーラが教えてくれる。
「なるほどな……」
身内の敵は敵か……
クリスも言ってたわ。
俺達はその後も話をしながら夕食を食べ、この日は翌日に備えて早めに解散した。
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