「それにしても、バウンス国立魔術学園の生徒の皆さんはとてもすばらしくて驚きました! やはり人から聞いた噂なんて当てにならないものですね。僕も魔術競技会に参加させていただくことになっているので、今からとても楽しみです!」
「……そうですか。ユリアス様にそう言っていただけて、当学園の生徒たちも嬉しいでしょう」
ユリアスは興奮した様子で目をキラキラと輝かせている。
噂とはバウンス国立魔術学園のあまり良くない噂のことだろう。まあ、ここ数年魔術競技会でダントツの最下位なのは噂ではなく事実なんだけれどな。
とはいえ、今日の様子を見てその認識は改めてもらえたようだ。ユリアスの目から見てもうちの学園の生徒たちの魔術の腕はかなりのものなのだろう。確かに学園に入学してしばらくは学級崩壊状態だったが、ここ数か月で生徒たちもだいぶ成長したはずだからな。
魔術競技会の勝敗という意味ではこちらを侮ってくれていた方が良かったかもしれないが、せっかくなら本気で切磋琢磨し合う方が生徒たちのためになるはずだ。
「ひとつだけ伺いたいのですが、ギーク先生が臨時教師というのは本当なのでしょうか?」
「ええ、本当ですよ。とはいえ、私が希望して正規の教師ではなく臨時教師として勤めさせていただいているだけですが」
「やはりそうですよね!」
俺が臨時教師ではあるが、自身で臨んだことと知ってなぜか興奮した様子のユリアス。
ふむ、俺が平民で臨時教師だから下に見ていたということではないのか?
「先ほどからの指導、実に見事なものでした。的確かつ、他の教師にはない実に合理的な教え方でした! ギーク先生はさぞ名のある教師なのでしょう!」
「え、ええ。まあ、そうといえばそうなのかもしれないな……」
いきなりグイグイと距離を詰めてきた。この目はなにか企んでいるというわけではなく、純粋に魔術への好奇心が強いタイプに違いない。
さっきはエリーザの方を見ていたのではなく、俺の指導を見ていたのか……。
「ユリアス様、こんなところでお会いするとは奇遇ですね」
「これはエリーザ王女様。ご機嫌麗しゅうございます」
ユリアスと話していると、後ろからエリーザがやってきた。ユリアスは俺から離れ、エリーザと互いに優雅に礼をしている。どうやら2人は知り合いのようだ。
俺とノクスの教師2人が席を外していたので、他学園の生徒と何を話しているのか気になったのかもしれない。
「最後にお会いしたのは王城でしたか。確かエテルシア魔術学園に進まれたとお聞きしておりましたが」
「はい、その通りです。実は長期休み中、父上がこちらの施設を紹介してくれました。私と同じ年代の者がこちらに来たと思っておりましたら、まさかエリーザ王女様でしたとは」
……なんともレベルの高い会話だ。
侯爵家の令息ということで、王城へ行く機会があったのかもしれない。そこで第三王女であるエリーザと話したことがあるといったところだろうか。
そしてたまたま今日この施設に来ていたというわけではなく、長期休み中はずっとここにいたらしい。この辺りで魔術競技会のための鍛錬ができる施設は限られているため、ある意味ではユリアスと出会うことは必然だったのかもしれない。
この施設の利用料はかなり高額なのだが、侯爵家ということならばそれも納得だ。やはり魔術を最高の環境で学ぶとなるとお金がかかるものなのである。
「こちらの施設に来ているということはユリアス様は魔術競技会へ参加されるのでしょうか?」
「はい。僭越ながら戦闘の競技の選手のひとりに選ばれております。エリーザ様も参加されるということですよね?」
「いえ、私たちの学園では選手の決定は長期休み明けとなります」
「そうでしたか。もしも対戦相手となった場合にはお手柔らかにお願いいたします」
エテルシア魔術学園ではすでに選手が決定しているらしい。
「さて、こちらの施設の利用時間は限られていることですし、そろそろよろしいでしょうか?」
ノクスと一緒に席を外しているため、他の生徒たちもこちらを気にして施設の出入り口まで集まってしまった。
ユリアスはこの施設に長時間いられるのかもしれないが、こちらの時間は限られている。もちろんエリーザとまだ話があるというのなら止めはしないが。
「はい、大変失礼しました。ですが、魔術競技会に参加する皆さんの魔術だけを私が見てしまったのは申し訳ない気がしてきました。もしよろしければ、私が普段使用する魔術をお見せしたいのですが」