ふむ、ユリアスはフェアプレーの精神を持ち合わせているらしい。
「いえ、気にする必要はございませんよ。私たちも多少は他学園の情報を集めると思いますので」
「そうですね。それほど多くの情報を渡したというわけではございませんから」
ノクスが前に出て丁重にお断りをいれ、俺もそれに賛成する。こちらもノクスに頼んで、他学園の生徒の情報は多少集めてもらっているからお互い様だ。
それに彼が戦闘の競技に出るということだけでもよい情報のひとつである。
「ユリアス様、もしよろしければ私と模擬戦をいたしませんか?」
「ソフィア=クレダと申します。姫様の護衛をしております。もしよろしければ、私もお相手をさせていただきたいと思います」
エリーザが前に出て模擬戦の提案をする。そしてそれにソフィアが続く。
模擬戦をして彼の実力を確かめたいといったところか。
「残念だが、それは教師の立場から認められない。さすがに他学園の生徒と学園外で勝手に模擬戦を行うのは問題になるからな」
怪我をしないとはいえ、さすがにそれはまずいだろう。なによりユリアスは魔術競技会に出るらしいから、事前に模擬戦をするのはエテルシア魔術学園的にも問題になりそうだ。
「……承知しました、残念です」
エリーザも事前に模擬戦をするのはまずいと思ったのか、すぐに引き下がってくれたようだ。
「そういうわけですので、本当に気になさらずとも大丈夫です」
「……わかりました。確かに学園に確認もしていないのでまずいかもしれませんね。ご配慮ありがとうございます」
どうやらユリアスの方も引き下がってくれたようだ。侯爵家の子息のようだが、権力を盾に面倒ごとを言ってくるような者ではなくてたすかったな。
「それでしたら、ギーク先生と個人的に模擬戦をさせていただくというのはいかがでしょうか?」
「……私と?」
「ルールは魔術競技会と同じです。決着はここの演習場のブザーが鳴ったらでいいですね?」
「はい。よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
なぜかユリアスは教師である俺のことを指名してきた。少し考えたがその申し出を受けることにした。
うちの生徒たちの魔術を見られたのは事実であるので、生徒たちが直接ユリアスの魔術を見られる機会はあったほうがいいという判断だ。それにユリアスは神童と呼ばれているらしいし、彼の魔術を見せてもらうことで、生徒たちも向上心が刺激されるだろう。
なにより俺も神童と呼ばれているユリアスの魔術がどんなものなのか少し気になる。俺もこういった魔術の探究心は教師になっても抑えられないものだ。
「それじゃあ、お互いほどほどにね。試合開始!」
ノクスの合図で模擬戦が開始される。合宿に参加している生徒たちも自由に見学をしていいと伝えたところ、全員が集まってきた。他校の学園の生徒の実力が気になるのかもしれない。
大半の生徒たちはユリアスが神童と呼ばれていることは知らないと思うが、この合宿所を使用しているだけで只者ではないと察しているだろう。
「いきます!」
まずはユリアスが右手を前に突き出し、無詠唱の魔術を構成する。ユリアスの目の前に水球が現れ、それが段々と大きくなってユリアスの全身を包み込んだ。
無詠唱の魔術だが構成速度はかなり早い。ユリアスを包み込んだ水球はさらに大きくなり、目の前に小さな水球を吐き出した。そしてその水球が俺に向かって撃ち出される。
パチンッ。
「は、速い!?」
身体能力強化魔術を使用し、ユリアスの放った水弾をすべて回避する。
「ふむ、こいつはどうだ?」
パチンッ。
こちらもお返しに雷魔術であるライトニングバレットを構成して放つ。
「くっ!?」
俺のライトニングバレットを見て、ユリアスは自分を覆っていた水球の層を瞬時に分厚くする。
複数のライトニングバレットはユリアスの周りを覆っている水の層に衝突するが、少しの間だけ電流を帯びてそのまま消滅する。水の層はユリアスの全身を覆っているように見えるが、周りを囲っているだけだろう。そのため電流はユリアスには届いていない。
「これならどうです!」
続けてユリアスはまたしても無詠唱で水魔術を発動させる。ユリアスを覆っている水球がさらに大きくなり、そこから2本の水の触手のようなものが生え、ムチのようにしなって俺を襲ってきた。
強化された身体能力でそれをかわすが、ユリアスの水のムチはそのまま俺を追尾してくる。
「ふむ、見事なものだな」
単に魔術を放つだけでなく、攻防一体の水魔術を長時間維持している。今の水のムチのように形状を変え続けるのも高度な技術が必要だ。なるほど、神童と呼ばれるだけのことはある。
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