パチンッ。
風の魔術を使い、俺を追ってくる水のムチを斬り裂きつつ、ユリアス本体へ攻撃を加える。
この風魔術はユリアスが纏っている水の層をも斬り裂いたが、俺の想像以上に強度があったらしく、ユリアス自体には届かなかった。今度はもう少し威力を上げてもよさそうだな。
「……これも届かないですか。それならこれはどうです、『フロストフォグ!』」
「ほう、広範囲かつ大規模な水魔術か」
ユリアスが放った詠唱破棄した水魔術であるフロストフォグは低温の白い霧を発生させる魔術である。相手の視界を奪いつつ、低温により相手の動きを阻害する魔術だ。しかも演習場全体を覆いつつ、濃度もかなり濃い。
しかもそれに合わせて先ほどの水のムチを今度は4本も同時に制御している。確かに第一学年でこれほどの魔術を使える者はそういないだろう。神童と呼ばれるだけの実力はあるようだ。
パチンッ。
「ぐっ!」
風魔術を構成し、ユリアスのフロストフォグと水のムチすべてを吹き飛ばす。
「……まさかこれも防がれるなんて、本当に驚きました。それにすごい威力の風魔術です」
俺が放った風魔術であるウインドブラストはウインドバーストの上位の魔術で、巨大な風の塊を放つ魔術だ。しかし、視界を奪った後に先ほどまでいた場所からちゃんと移動していたため、直撃を免れたらしい。
動かないままであればユリアスの水の防壁を打ち破り、戦闘が終わるくらいの威力に調整したのだが、状況判断もしっかりしているな。
「こちらこそ驚いた。その歳でそこまで水魔術を扱える者はそういないだろう」
「ありがとうございます。でも実は僕は水魔術以外が全然駄目でほとんど使えないんです。だけど魔術を学ぶのはすごく好きなので、他の魔術の代わりに水魔術だけを鍛錬し続けました」
「……ふむ、その努力の結晶というわけか。実に見事な水魔術だな」
魔術には様々な種類があり、魔術を使える才能があっても魔術の適性は個人によって大幅に違いがある。俺の場合は逆に水魔術の適性がそれほど高くないので、普段はそれほど使わなかったりもする。
それでもほとんど使えないというほどではない。ユリアスは水魔術以外の適性が極端に低いのかもしれない。その分これまでひたすらに水魔術だけを磨いてきたからこそ、これだけの水魔術の使い手になったというわけか。
彼の魔術はもう十分に見せてもらった。これ以上は魔術競技会の方にも差し支えてしまうだろうから、模擬戦はここまでにしておいた方がいいだろう。
「さて、模擬戦の方はここまでで十分だろう。君の実力を十分にうちの生徒たちに見せてもらえた。それでおあいこということでどうだろう?」
「ええっ!?」
ユリアスが驚いたように声を上げる。
「そ、そんな、まだ僕は戦えます! うちの学園でも僕の魔術をあんな風に一瞬で吹き飛ばせる風魔術を使える先生は全然いなかったです! お願いします、せめてあと一回だけ僕の本気の魔術を受けてみてください!」
「き、君がそこまでいうのなら構わないが……」
いきなり興奮した様子でこちらの方へ詰め寄ってくるユリアス。
本人がそこまで言うのなら俺の方は構わないが、本当に良いのだろうか……?
「ありがとうございます! それではいきますね!」
一度仕切り直して、演習場の開始位置につき直す。
そしてユリアスはスタートの合図と同時にこれまで以上に真剣な表情で前を向く。
「蒼き深淵よ、今こそ我が声に応え顕現せよ――」
完全詠唱による魔術。
もちろん基本的な模擬戦であれば相手の完全詠唱を妨害をするのが普通だが、今回は本気の魔術を受けるという話だったので、詠唱の完成を見送った。
「水の精霊、龍の魂、天地を貫く破滅の力となれ、『リヴァイアサンロア』」
『ギャアアアア!』
「……ふむ、これはすばらしい」
最上級水魔術であるカタストロフ・リヴァイアサン。ユリアスの目の前に現れた水の塊がどんどん大きくなり、巨龍を形造っていく。
先ほどまであった防御用の水球も解除しており、正真正銘ユリアスの全力の魔術だ。
「いきます!」
ユリアスの合図とともに巨大な水龍の口元に魔力が収束する。
俺のオリジナル魔術である紫電狼並みの魔力だ。これがユリアスの真の実力というわけか。
『ブロオオオオ!』
巨大な咆哮と共に水龍の口から超高圧の水撃砲が放たれた。この演習場でなければ、人ひとりくらい簡単に消し飛ばせるほどの圧倒的な威力だ。
パチンッ。
前方へ三重かつ普段以上に強固な防御魔術を展開する。
「むっ、想像以上の威力か……」
かなりの威力の水撃砲で、早くも一枚目の防御魔術が砕け散った。このままではすぐに2枚目と3枚目の防御魔術も砕かれるだろう。
ユリアスも防御魔術で防がれるとは思っていなかったのかとても驚いているが、それはこっちも同じである。使った魔術もそうだがその威力にも驚かされた。それならば、こちらも相応の魔術を見せなければな。