「ちっ、くだらん。おい先公、そんなことをしている暇があるのなら魔術の訓練をさせろ!」
そんな空気に水を差したのはゲイルだった。この反応だとゲイルは気になる女生徒がいないのか。
俺が言うのもあれだが、思春期らしく年相応に女生徒と触れ合える機会に喜べばいいものを……。
「いいから強制参加だ。それほど時間はかからないし、俺の顔を立てて付き合ってくれ。魔術の訓練なら学園に戻ったらまた付き合ってやるから」
とはいえ、ここを譲る気はないぞ。恋する生徒たちのためにも俺が頑張らなければ!
「……ちぇっ、強制じゃあ仕方がないですね、ゲイル様」
「し、仕方がないから今回だけは付き合ってやりますか」
「むっ、ハゼンとクネルがそう言うのならしょうがないか……」
ここで思わぬところから援護が入った。
この反応はもしかすると、2人には気になる女生徒がいるのかもしれない。もちろんそんな野暮なことは言わないが。
「さて、準備ができたな。それでは音楽を鳴らすぞ。この音楽は一定間隔で合図が鳴るから、そうしたら一列ずつズレていくように」
「あれ、先生たちは参加しないんですか?」
火を囲みながら男女が並んだところでベルンから質問が入る。
「いや、さすがに教師が入っても仕方がないだろう」
教師と手を繋いでも楽しいことはないだろう。むしろ女生徒と手を繋ぐことによってセクハラと言われかねない。
「……せっかくなら先生たちも参加しませんか? 僕たちの思い出作りに協力してください」
「わ、私も参加してほしいです!」
「ええ、ぜひ先生たちも参加してほしいですわ」
ベルンがそう言うと、メリアやノエルダたちも賛成する。
「ふむ、みんながそう言うのなら構わないか」
教師陣はノクス、イリス先生、アノンとそこまで嫌がられるような者はいないはずだ。それに俺はともかく、ノクスやイリス先生と手を繋ぎたいという生徒もいるかもしれない。
ベルンも他のみんなのことを考えての提案かもな。
「うん、僕たちもぜひ参加させてもらうよ!」
「あ、ありがとうございます!」
「うむ、妾も参加したいのじゃ!」
教師陣も意外と乗り気なようだ。生徒たちとこうやって交流することはいいことか。
それでは教師陣も混ざって始めるとしよう。
チャラチャラチャ~。
音楽が鳴り響き、火を囲みながら先ほど例を見せたように両手を繋ぎクルクルと回る。俺の最初の相手はメリアだ。
メリアは小柄なこともあって手も小さい。
「メリア、合宿お疲れさま。だいぶ頑張っていたようだな」
「はい! 特にベルトルト魔術学園には絶対に負けたくないです!」
いつもは内気だったはずのメリアがこの合宿ではだいぶ自発的に頑張っていた。やはりイリス先生がベルトルト魔術学園の教師から馬鹿にされていたことが許せないようだ。
「ふむ、怒りも原動力にはなるが、実際に魔術を構成する時にはノイズになりかねない。競技会では常に冷静にいることを心掛けた方がいいだろう」
「わ、わかりました!」
「それでいい。それにイリス先生のことはこちらでもいろいろと動いているからみんなが心配する必要はないからな」
「えっ!?」
生徒たちが教師のことを思ってくれるのは嬉しいが、相手が他学園の教師となれば動くべきは俺たち大人の仕事である。
すでにノクスには動いてもらっているが、さすがに魔術競技会前に派手に動くと割を食うのはベルトルト魔術学園の生徒たちだからな。少なくとも魔術競技会が無事に終わるまでは俺たちも大人しくしているつもりだ。
「メリアたちは魔術競技会で全力を出すことだけ考えればいい。せっかく他校の生徒と競うことができる滅多にない機会だ。結果は気にせず楽しんでくるといい」
「はい! ……ギーク先生、前に私を助けてくれて本当にありがとうございました! こんな立派な場所でみんなと一緒に来られましたし、海も初めて見ることができました。私は今が一番楽しいです!」
「……それはよかった。そう言ってもらえると俺も嬉しい限りだ」
メリアは手を繋ぎながらにっこりと笑う。
以前ガリエルたちにいじめられていたメリアがこんな風に笑えるようになったことは実にすばらしい。俺も教師として尽力してきた甲斐があったというものだ。
音楽が流れてある程度距離が離れているため、隣のペアの声は聞こえない。夜中の浜辺で火を囲みながらいつもとは異なるシチュエーションに普段ならあまり面と向かって言えないことも言えてしまう。これもキャンプファイヤーのいいところである。