フォークダンスの順番が巡って、次はシリルの番だ。
「シリル、お疲れさま。この合宿中はボードの競技に絞って訓練をしていたようだな。良い判断だったと思うぞ」
「……そうですか。ユリアス様ばかりに気をかまけていたわけではないんですね」
両手を繋ぎながらも口を膨らませながら、ぷいっと顔を背けるシリル。
俺がユリアスへ個別で教えるようになってから、ずっとこの調子だ。まあシリルでなくとも、学園の教師が他学園の生徒を指導するのを見るのはあまりいい気がしないだろう。
「ユリアスにはこの合宿でしか教えることができないからな。とはいえ、魔術競技会で有利になるようなことは伝えていない。長期的に改善した方がいいところやみんなにも教えた無詠唱魔術で何らかの動作をキーにした方が効率が良くなることくらいだ。シリルも魔術や魔道具で自分よりも詳しい者がいたら、いろいろと教えてもらいたいという気持ちはわかるだろう?」
「確かにその気持ちはわかりますが……」
「それに第一優先はシリルたちだからな。当たり前だが自分の受け持つ生徒たちが一番可愛いに決まっている」
「か、可愛っ……!? いえ、そんな言葉では誤魔化されませんよ!」
なぜか焦ってブンブンと首を振るシリル。
それに可愛いとはそういう意味で言ったわけではないのだが。
「いや、可愛いといっても生徒として可愛いという意味だぞ……。まあシリルが可愛いということは事実だが」
「も、もう! わかりましたから、可愛い可愛い言わないでください!」
今度は首だけでなく繋いでいた両手までブンブンと振るシリル。
シリルは普段冷静なくせに意外と誉め言葉とかに弱いよな。
「……それじゃあギーク先生、もしも魔術競技会でうちの学園が優勝したら、その可愛い生徒たちになにかご褒美があってもいいんじゃないですか?」
「ふむ、そうだな……。確かにみんな頑張っているようだし、ちょっとくらい褒美があってもいいか」
「本当ですね! 約束しましたよ!」
「あ、ああ……。わかった、約束しよう」
食い気味にこちらへ詰め寄ってくるシリル。なにか俺にしてもらいたいことでもあるのだろうか?
「それにしても随分と自信があるものだな。てっきりユリアスの魔術を見て自信を喪失しているのかとも思ったのだが」
「……残念ですが、私より魔力の総量が多い人は大勢いるので慣れています。でも、勝負は魔力の総量で決まるわけではないですよね。魔術の使い方や戦略によって、いくらでも勝機があります。そして今回は学園同士の団体戦で、私には頼りになる仲間がたくさんいますから」
「ああ、シリルの言う通りだ。よくわかっているじゃないか」
「それに――」
シリルは一旦そこで言葉を止め、その青い瞳で俺を真っすぐと見つめてくる。
「私たちにはとても頼りになる先生がついてくれていますからね。だからこそ、絶対に負けられません!」
そう言いながら、にっこりと微笑むシリル。その笑顔はキャンプファイヤーの揺らめく炎によって照らされ、いつもの彼女とは違って眩く煌めいて見えた。
「合宿おつかれさま。随分と頑張っているようじゃないか、エリーザ?」
「……いえ、そのようなことはございません。私は他の方よりも魔術を学べる時間がないので、これでも少ないくらいです」
順番が巡り、次はエリーザの番だ。
しかし手は繋いでいるが、顔はうつむいて表情は暗いままである。どうやらまだ魔術のことを考えているようだ。エリーザと手を繋げることを楽しみにしていた男子生徒も多かっただろうに……。
「さっきはソフィアもエリーザのことを心配していた。エリーザは十分過ぎるほど頑張っているし、鍛錬は時間が長ければいいというものでもない。不安になる必要なんてこれっぽっちもないぞ」
王族であるエリーザは習い事や貴族間の交流などといったやらなければならないことが多い。魔術の訓練をする時間は他の者より短いのは仕方ないが、その範囲内で可能な限りの努力を続けてきた。
鍛錬と成果は時間に比例するわけではない。いかに効率的に己を磨けるかが重要なのである。
「確かにユリアスは強かったが、そこまで不安になる必要はない。それに魔術競技会で負けても、命までとられるわけじゃない。たとえ負けたとしても、相手から多く学ぶことが――」
「それでは駄目なのです!」
「……エリーザ?」
俺の手を握る力が一層強くなり、うつむいていた顔を上げ、俺の瞳を真っすぐと見てくる。