「ふう~今日から新学期が始まったのじゃ。無事に魔術競技会の参加メンバーも決まったし、第二学年と第三学年の新任教師も間に合った。長期休み中は生徒たちに大きな怪我や事故もなかったようだし、一安心じゃのう」
「そうだね。いろいろと頑張った甲斐があったよ」
新学期が始まり、生徒たちが元気そうに学園へ登校してきたことを確認してほっとしたものだ。現在は学園長室でアノンとノクスと一緒に今後の会議をしている。
長期休み中は後期の準備をすることに奔走したが、その甲斐もあってだいぶ生徒たちが学園で学びやすくなったはずだ。代わりの生徒もアノンとノクスが頑張ってくれたおかげでまともな教師を雇うことができた。
アノンもいろいろと頑張っていたが、この長期休み中に一番頑張ったのはノクスかもしれない。俺と一緒に問題のある教師を辞めさせたり、新任教師の身辺調査をしたり、魔術競技会の他学園の情報収集など走り回っていたからな。あとでしっかりと労ってあげよう。
「生徒たちに大きな怪我や事故がなかったのは実にいいことだな。あとは早速来週から行われる魔術競技会か」
「放課後の勉強会に参加している生徒は全員メンバーに登録されたみたいだね。実力的に見ても間違いないと思うよ」
第一学年のメンバーも決まり、すでに選抜されたメンバーは掲示板に張り出されている。的当て、ボード、模擬戦に5人ずつの合計15名が選ばれ、放課後の勉強会に参加している5人も全員がそのメンバーの中に選ばれた。
メンバーは第一学年の教師全員で話し合って公平に決められた。まあ他の学園と比べると生徒数が少ないから倍率は低かったのだが。
「ノクスも他学園の情報集までしてもらって助かったのじゃ。第一学年の生徒たちには特に期待しておる。一番の手強そうなのはエテルシア魔術学園か。ハルバード侯爵家の神童と呼ばれているユリアスもそうじゃが、他の生徒もかなりレベルが高そうじゃな……」
「エテルシア魔術学園は数年前に今の学園長が就任してから一気に学園全体のレベルが上がったみたいだね。多少スパルタみたいだけれど、生徒たちもそれに応えてすごく頑張っているみたいだったよ」
「なるほど」
机の上にはノクスが集めてくれた資料がある。やはり現状では第二学年と第三学年は厳しそうな印象だ。俺やノクスが来てからもう少し時間があれば良かったんだがな。
そして第一学年には期待できるようだが、そこに立ちはだかるのはあのユリアスも在籍しているエテルシア魔術学園らしい。
「ん? このエテルシア魔術学園の学園長ってもしかすると……?」
「そうだよ、この国から賢者の称号を賜った魔術師イグニス=ルークレイ。バウンス国立魔術学園の元教師で時期から考えてギルも知っている教師だね」
「……ああ、俺の恩師でもあるイグニス先生だ。そうか、優秀な先生だと思っていたけれど、まさか賢者となって他の学園で学園長になっていたとはな」
まさかそこでイグニス先生の名前を聞くとは思わなかったぞ。数年前にこの魔術学園で行われた改革によって、俺が学園に在籍していたころにいた教師は全員いなくなっていたが、他の学園に転職していたようだ。
俺が魔術の研究に没頭している間に随分と時が流れていたらしい。
「ほう、ギルを教えていた教師か。何度か魔術競技会の打ち合わせで会ったのう。厳格じゃが生徒の指導に熱心な御仁であったのじゃ」
「今年の第一学年の協議会はエテルシア魔術学園で行われるから、もしかすると俺も会うことができそうだ。アノンはここで第二学年の引率か」
魔術競技会は学年によってそれぞれ別の会場によって行われる。バウンス国立魔術学園では第二学年の競技会の準備が進められている。
今年の第一学年の競技はエテルシア魔術学園で行われるから、俺はイグニス先生に会いに行くことができそうだ。いや、今はイグニス学園長か。
「うむ。第一学年の引率は皆に任せるのじゃ」
「うん、了解だよ」
「ああ、こっちは任せておけ」
アノンは学園長としてこの会場で行われる第二学年の競技会を取り仕切らなければならない。第一学年の引率は俺たちで行う。
いよいよ魔術競技会が始まる。