「いえ、とんでもございません。私の方からもギーク教諭にお聞きしたいことがありました」
「そうか。まずはクロード伯爵家のことについてはすでに学園長から聞いているな?」
すでにエリーザとソフィアにはアノンのやつから話を伝えている。
昼にあった校内放送での呼び出しがそれだ。
「はい。学園内に協力者がいたとは思っていましたが、まさか無害そうなマナティ先生があんなことを……」
「くっ、あのクソ教師! 今すぐに叩き斬ってやりたいところだ!」
「慎重に立ち回っていたようだし、悪知恵だけは働く男だったからな。ソフィアも気持ちは分かるが、すでにやつは捕まっていて相応の処罰を受けるだろうから落ち着いてくれ」
「す、すまない!」
ソフィアの気持ちもわからなくはないが、教え子が手を汚すのを黙っている気はない。そういうのは大人の仕事である。
「学園長は私とソフィアにそのことを正直に話して、頭を下げて謝罪してくれました」
「……そうだな、あの教師を雇っていたのは完全に学園側の責任だ。俺からも謝罪する」
「いえ、ギーク教諭は関係ありません! むしろとても感謝しております!」
「私も感謝しています!」
「そもそもマナティ先生を雇ったのは今の学園長ではありませんし、魔術封じの輪の件につきましても、前任の学園長が始めたプロジェクトでした。今は学園外で研究をしていて現学園長は関わりがなかったようですからね」
エリーザはそう言ってくれるが、現学園長はアノンだ。たとえ知らなかったとはいえ、この件については責任を負う必要がある。
「それに攫われた私とソフィアを探すために精一杯尽力してくれたと聞いております。そしてなにより、ギーク教諭をこの学園へ迎い入れ、今回の件でギーク教諭に助けを要請してくれた学園長にはむしろ感謝しかありません!」
「そ、そうなのか……」
どうやらそこまでアノンのやつを責めるつもりはなさそうでほっとした。
……というか、そこまで俺を高く買ってくれないでもよいのだが。
「はい。今回の件で学園に責任を取ってもらうつもりはありませんので、ご安心ください。どうやらギーク教諭は学園長と旧知の仲のようですからね」
「配慮をしてくれてすまないな」
多少の責任は取らなければならないだろうが、もしもアノンを学園長から下ろすと言うのなら、エリーザに頼んでそれだけは止めてもらうつもりだった。
そもそもアノンのやつがこの学園の学園長でなければ、俺がこの学園にいる理由がなくなってしまう。
「……ちなみにギーク教諭は学園長とはどういったご関係なのかうかがってもよろしいでしょうか?」
「ああ、学園長には昔ちょっと世話になったんだ。そのこともあって、この学園へ臨時教師として雇われたわけだな」
「なるほど、そういうことでしたか。学園長はエルフですし、ああ見えてそれなりの歳を重ねているようですからね。もしかすると、学園長もギル大賢者様をご存知なんてことも……」
エリーザは考え込むように腕を組む。
まあ、目の前にいるんだけどな。それについてはあえてこちらから名乗る気はないし、ギルかと聞かれたら否定するつもりだ。まあ、俺がこの学園を去る1年後に教えてもいいかもしれないがな。
「そういえば俺に聞きたいことがあると言っていたな?」
俺の方の用件はアノンのやつをクビにするのだけは勘弁してほしいということを伝えたかったのだが、どうやらそこまではしないようで安心した。
先ほどはエリーザの方からも何か俺に聞きたいことがあると言っていた。
「はい。実は父上から私とソフィアを助けてくれた者を探しだして、ぜひ礼をしたいと言われまして……。ローブで姿を隠した人が私たちを助けてくれて、誰だかわからなかったと報告をしていましたが、やはりギーク教諭は父上に会ってはいただけないでしょうか?」
エリーザの父親ってことは国王様だよな?
いやいや、さすがにそれはまずい! なにせ国王様は俺がギル大賢者ということを知っているし、王印の入った書類も発行してくれたから、俺がこの学園で臨時教師として雇われていることも知っているはずだ。
「さすがにそれは遠慮しておこう。そのローブで姿を隠したという人物は礼など不要だと言っていたことにしておいてくれ」
「……わかりました。ギーク教諭は本当に欲がないですね!」
「はい。無欲で本当に素晴らしいと思います!」
「………………」
なにやら2人はそう解釈してしまったらしい。
研究者なんて欲の塊なんだぞ。俺だってあんな研究素材が欲しいとか、閲覧が禁止されている書庫とか見たいとかいろいろとあるんだがな。
とりあえずアノンのやつがクビにならないようでホッとした。さて、いなくなった教師の件も含めて、アノンと話をしに行くか。