「ギーク先生……お父さんとお母さん、村のみんなをお願いします!」
「ああ、任せておけ。メリア、魔物や人と戦うことが怖い気持ちは俺にもよくわかる。だが、ここにはメリアと同じ魔術の道を共に志す仲間がいることを忘れるな。魔物と戦う恐怖なんかよりも、自分が躊躇したせいで仲間が傷付くことの方がよっぽど怖い」
「は、はい!」
メリアは平民特待生ということだけあって、その能力は非常に高い。あとは人や魔物と戦うことを恐れずに本来の能力を発揮できればそこらの魔物が束になっても敵わないだろう。
「さて、これをお前たちに渡しておこう」
「なっ!?」
「ギ、ギーク先生。それは魔術ですか……?」
空間魔術によってできた黒い渦に手を突っ込んだことにより、生徒たちが驚きの声を上げる。
「これは空間魔術という特別な魔術だ。使い方にもよるが、別の空間に物を入れておける魔術となる。詳しいことはあとで説明するが、他の者には内緒にしておいてくれ」
エリーザとソフィアにはすでに見せてしまったが、他の生徒には初めて見せる魔術だ。
そして空間魔術から様々な魔道具を取り出す。
「まずは全員この指輪を付けてくれ。そしてポーションとマナポーションを渡しておく。小さな怪我であっても、戦闘に支障が出る場合は迷わず使ってくれ。俺が戻るまでにすべて使い切ってくれてもかまわない」
「……このポーション、市販の物とは魔力の純度がまったく異なりますね」
「ああ、特別製のやつだ。さすがだな、シリル」
ポーションは傷にかけたり飲んだりすれば身体の傷を癒し、マナポーションは枯渇した魔力を回復してくれる魔道具となる。
シリルは気付いたようだが、この2つは俺が作った特別製の物で、効果は市販のそれとは段違いだ。回復の魔術もあるが、戦闘中に回復の魔術を唱えられるような状況ではなくなったり、そもそもパーティに魔術師がいない場合もあり、需要はそれなりにある。
「そしてあとはこいつだな」
「「「………………」」」
俺が空間魔術から2メートルほどの大きなある物を取り出すと、生徒たちは驚いて言葉を失った。
「これは俺が作った魔導ゴーレムという魔道具だ。俺の意識とリンクして状況を把握することも可能なようにできている。とはいえ、言葉を伝えることができないから、このクラスの指揮は先ほども言ったようにシリルに任せるからな」
魔導ゴーレム――元の世界の知識を持っている俺にとってはずっと作ってみたかった男のロマンである。本当はもっと巨大な乗り込めるくらいのゴーレムを作りたかったのだが、残念ながらそれは難しかった。
とはいえ、このゴーレムも頑丈で動きはそれなりに速い。こちらの世界のかなり硬い金属を使用しており、並大抵の攻撃で傷付くことはないし、そもそもゴーレムであるがゆえにすぐに修復も可能である。俺の意識をリンクして操縦することが可能なため、村へ駆けつつも生徒たちの安全も見て取れる保険だ。
理想を言えば、この魔導ゴーレムの方をサーレン村へ送りたかったが、それよりも俺が村まで急いで、魔物の群れを殲滅してから戻ってきた方が早い。
「……貴様は本当に何者なんだ?」
「それについては後ほど説明する。シリルの指示にちゃんと従ってくれよ」
さすがに空間魔術と魔導ゴーレムまでは見せるつもりがなかったんだがな。この件が片付いたら、多少は俺のことを生徒たちに伝えるつもりである。今回の件に関しても俺が生徒たちを巻き込んでしまった可能性があるわけだからな。
魔導具の他にもいろいろと保険は掛けてある。本来ならばこのあたりの魔物であれば生徒たちの力で十分対処でき、魔導ゴーレムが付いていれば生徒たちが怪我をする確率はないに等しい。
ただし、この魔物の大量発生が人為的な物であるとしたら、セラフィーナ伯爵家の仕業の可能性が高い。保険をいくつもかけたとはいえ、絶対なんてことはないわけだからな。
「すまないが頼むぞ」
風魔法で宙に足場を作り、空を駆けて一直線にサーレン村へと進む。今はできるだけ早く周囲の魔物を殲滅して生徒のもとへ戻ることに専念しよう。