「……空を駆けていったぞ。あの先公はなんでもありだな」
「本当にあの臨時教師は何者なのですかね……」
ギークが空を駆けて行ったあと、ゲイルとクネルがぼそりと呟く。
「……はっ、こうしてはいられないわ! 皆さん、まずは場所を移動しましょう。この障害物の多い森の中で多くの魔物を相手をするのは厳しいです。街の方へ向かいながら開けた場所を探していきましょう。それでよろしいですか、ギーク先生……?」
生徒たちがギークの置いていった魔道具やゴーレムを見て呆けている中、シリルは思考を取り戻してこのクラスの指揮を執り、今後の指針をギークが残したゴーレムに尋ねると、金属製のゴーレムは首を縦に振った。
ギークが言い残したように、このゴーレムはギークと繋がっている。
「シリルさん、確かあっちの方へ行けば、少し開けた場所があったはずだよ」
「助かります、ユリエルさん。ゲイルさん、クネルさん、ハゼンさん、先頭をお願いできますか?」
「……いいだろう。さっさとついてこい」
「ありがとうございます」
男子生徒のユリエルが森付近の道を把握していたようで、魔術を存分に放てる開けた場所へ移動する。クラスメイトへ指示を出していくシリルに従い、3人が先頭を歩く。
「ゲイル様、いいんですか?」
「むしろゲイル様が指揮を執った方が良いんじゃないですかね?」
「ふん、構わん。全体の指揮など執っていたら、まともに戦闘ができないだろう。今俺は早く戦闘の経験を積んで、まずは1年でトップのエリーザ第三王女を追い越して、そのあとあの先公の顔面に一撃をいれてやる!」
「なるほど、さすがゲイル様です!」
「第三王女様は課外授業には出ていないそうですからね。ここで一気に追い抜いちゃいましょう! よし、俺もゲイル様についていきます!」
理由はともかく、3人はやる気になっている。
「……ここなら魔物が迫って来ても、完全詠唱の魔術で遠距離から応戦ができそうですね。それに片側が崖になっているので、こちらから魔物が来ることはなく、意識を一方に向ければ良さそうです。ただ、こちらが退却できる方向も制限されてしまうので、撤退は早めに判断しなければならなそうですが」
森の中を10分ほど歩くと、開けた場所へ出た。
シリルの言う通り、これだけの距離があれば森から生徒たちがいる場所に魔物が到達する前に魔術師の欠点である完全詠唱する時間は十分にある。そしてその反対側は崖になっているため、空を飛べる魔物以外はそちらから魔物が来る心配はないだろう。
「ここから街の方まで魔物がいなければ、そのまま街の方向へ行けるのですが……」
「近くしか見ることはできないですが、僕に任せてください。命の波動を辿り、その姿を我の前に示せ、サーチ! ……駄目だ。街の方向にはすでに結構な数の魔物がいますね」
「ありがとうございます。そうなると、ここでギーク先生を待つのが良さそうですね。街の人が森の異常に気付いて援軍が来るかもしれません。時折サーチの魔術を使用して、街の方角にいる魔物が少ない時を見計らってそちらへ移動していきましょう。皆さん、ギーク先生、そちらでよろしいでしょうか?」
「ああ、了解だ」
「さすがシリルさんね!」
他のクラスメイトがシリルの案に賛成し、ゴーレムも頷く。援軍が来るまで耐えつつ、街への脱出を目指す作戦に決まった。
「それでは魔物との戦闘の作戦を立てていきましょう」
「……前方にゴブリンが3匹、後ろからコボルトも2匹来ていますね」
魔物は人の痕跡や匂いに敏感である。森の中を大勢で歩いていたため、その跡を追って魔物がこの開けた場所まで集まってきた。
「ゲギャギャ!」
「ギャギャ!」
「第一陣の皆さん、お願いします!」
「轟く雷鳴よ、鋭き槍となりて我が敵を貫け! ライトニングランス!」
「紅蓮の炎よ、我が敵を燃やせ! ファイヤーボール!」
「風の奔流よ、一陣の刃となりて我が敵を斬り裂け! ウインドカッター!」
「ゲギャアアア!」
完全詠唱によって構成された生徒たちの魔術がゴブリンを襲う。完全詠唱された魔術は十分な威力があり、3体のゴブリンは地に伏した。
「続いて第二陣の皆さん、お願いします!」
続けて第一陣の生徒の後ろにいた生徒たちが前に出て魔術を放つ。
「しまった!」
「ギャギャ!」
「ノエルダさん、お願いします」
「はい! 紅蓮の炎よ、鋭き槍となりて我が敵を貫け! ファイヤーランス!」
「ギャアアア!」
そのうちの一人は狙いを外してしまったが、すぐにシリルの指示に従い別の生徒が魔術を構成し、近付いてくる魔物を倒した。
「やったあ! さすがシリルさんね!」
「俺たちだけでもいけるぜ!」
「うまくいきましたね。皆さんのおかげです」
魔術師の欠点である完全詠唱による詠唱時間を順番に魔術を構成していくことによって間の隙間をなくす作戦である。全員が一斉に魔術を放ってしまっては次の魔術を構成するまでに時間がかかり、敵を倒す必要以上の魔術を使ってしまい魔力が無駄になってしまう。
それを防ぐため、シリルはクラスメイトを2つのグループに分けて順番に魔術を放っていく作戦を立てた。
また、全員で同じ魔物を狙ってしまわないよう、横に広がって各々が位置する方向の目前にいる魔物を狙い、先ほどのように取りこぼした魔物がいる際はシリルが指示を出すという作戦が功を奏している。