「……ふう、きりがないですね」
「倒しても倒してもこちらに向かってきますね」
「あれだけの魔物が倒れていれば、普通は襲ってこないはずなのに……」
生徒たちの眼前には多くの魔物の死体が積み重なっている。
先ほどから何度も魔物が襲ってきたが、今のところ生徒たちは大きな怪我をすることなく、魔物を撃退してきた。
「ギーク先生は魔物が集まっているだけではなく、凶暴化していると言っていました。きっとその影響かと思います」
魔物の死体は結構な数になり、本来の魔物であれば同族がやられているのを見て戸惑うはずなのだが、襲ってくる魔物はそれを見ても怯えることなく襲ってきていた。
ギークの言う通り、周囲に集まっている魔物は何らかの外的要因によって凶暴化している可能性が高い。
「ふん、倒しても恐れずに襲ってくるのならちょうどいい。ゴブリンやコボルトだけでなく、多少大きな魔物も集まってきたようだし、いい的になるな」
「さすがゲイル様です!」
これまでに倒した魔物の数は他の者よりもゲイル、クネル、ハゼンの倒した方が多い。
「……とても頼りになりますね、ゲイルさん。皆さんのおかげでここまではかなり順調です。とはいえ様々な魔物が集まってきましたし、油断は禁物です」
「そういったご機嫌取りは不要だ、シリル。言われなくとも油断などするつもりはない。貴様は貴様の役割を果たし、これまで通り指示を出せばいい」
「わ、わかりました!」
荒い口調だが、ゲイルなりにこれまでの作戦を立てて指示を出しているシリルのことは多少なりとも認めているらしい。
「メリアもすごかったわね。でも無理はしていない?」
「大丈夫だよ! ギーク先生がお父さんとお母さんを助けにいってくれているし、みんながこんなに頑張ってくれているのに私だけ休んでいられないよ!」
「そう、でも無理はしちゃ駄目よ」
「「「………………」」」
そんな中メリアはこれまでの彼女からは考えられないほどの活躍を見せた。他の者よりも優れた高出力の魔術をほとんど休むことなく構成し続けている。
そもそも彼女は今は落ち目とはいえバウンス国立魔術学園という数少ない国立魔術学園に選ばれた特待生である。魔術を使える者がほとんどいない村で育ったにもかかわらず、特待生として招かれた彼女の魔術の素質は他の者よりも優れていた。
それが日々のギークの指導により、更に磨かれたことは彼女のそばで共に学んでいたシリルは誰よりも知っていたが、クラスメイトが彼女の才覚をまともに目にするのは初めてである。
もちろん普段の模擬戦や課外授業での森の中のように人や魔物と対峙せずに遠距離からひたすら魔術を放てる今の状況で、頼りになるクラスメイトに囲まれている状況だからこそ今のパフォーマンスが発揮できているわけでもあるが。
「おい、そこの平民。次の放課後の実戦演習では俺と戦え」
「ふええ!? えっ、えっと、えっと……」
「……ちっ、なんでこんなやつがあれほどの大規模な魔術を使えるんだ?」
ゲイルがギークのおこなっている放課後の防衛魔術の模擬戦にてメリアと戦いたい意思を伝えると、メリアはいつもの気弱な状態に戻ってしまった。どうやら伯爵家かつ高圧的な態度である彼が少し苦手らしい。
「ゲイル様、また魔物が来ました! 今度は大きなイノシシです!」
「少し大きな魔物も出始めてきましたね……。第一陣の皆さん、お願いします!」
「ふん、上等だ!」
「しまった!?」
「危ない!」
襲い掛かってくる魔物に対してひたすら完全詠唱による魔術で応戦している最中、第一陣の魔術が外れてしまい、それに焦ってしまった生徒による第二陣の生徒による魔術も外れてしまうという事態が起きる。
相手はオオカミ型の魔物で動きがかなりすばしっこいため、狙いがそれた。
「ガルゥオォン!」
「ちっ! ライトニング――」
ザンッ
オオカミ型の魔物が生徒に迫りくる中、ゲイルが詠唱破棄した魔術で対応しようとしたが、それよりも早く、これまでずっと静止していた魔導ゴーレムが高速で動き、オオカミ型の魔物を真っ二つにした。
「うわあ……」
「すごい、速すぎて動きが全然見えなかった……」
魔導ゴーレムの左腕の部分は鋭いブレードとなっており、これまでの緩慢な動きからは考えられないほどのスピードで動いた。左腕がブレードなのは当然ながらギークの趣味である。
もちろんこの魔導ゴーレムには他にも様々なギミックが仕掛けられている。