「ありがとうございます、ギーク先生」
シリルがゴーレムに礼を伝えると、ゴーレムは一度頷き、また動かなくなった。
「ご、ごめんなさい! 身体が動かなくなっちゃって……」
生徒の中にはこの課外授業の際に剣を持ちこんでいる生徒がいたため、今回のように万一魔物が目前にまで迫った際にはその生徒が対応するように作戦を立てていた。
しかし敵意を持って迫りくるオオカミを前にして身体が動かなくなってしまったようだ。
魔術学園に通いながら騎士を目指しているベルンのように実戦経験を積んでいる生徒でもないかぎり、それも当然のことなのかもしれない。
「ちっ……詠唱破棄ではまだ遅いのか……」
オオカミ型の魔物が迫った際に詠唱破棄の魔術を構成しようとしていたゲイルが自分の拳を見つめ、悔しそうに握りしめる。
生徒たちの中では一番早く反応できていたが、ゴーレムが動かなければ詠唱破棄による雷魔術の構成が間に合うかはギリギリのタイミングだった。
「ゲイルさん、危ないところをありがとうございました」
「そういうご機嫌取りは不要だとさっき言ったはずだぞ、シリル」
「ええ。ですからご機嫌取りではありません。とっさのことで私の指示が遅れてしまいましたが、ゲイルさんは即座に対応してくれました。本当にありがとうございます」
「……ふん、いいからさっさと指揮を続けろ。次の魔物がやってきたぞ」
「はい!」
「多少は落ち着きましたか」
「本当にいつ終わるんだ……?」
すでに数十の魔物を倒した生徒たちだが、精神的に多少の疲労が見えてくる。徐々に身体が大きい魔物やすばしっこい魔物が現れるようになってきた。
「まだ街の方へ向かうにしても魔物は多いですか……。そろそろ街の方から援軍が来るか、ギーク先生が戻ってきてくれればいいのですが……」
「ふん、俺たちだけで問題ない」
ギークがここを離れてからすでにかなりの時間が経過している。
「それにしてもこの魔導ゴーレムという存在はどのような仕組みで動いているのでしょうね……?」
「動きがすごく速いし、それにギーク先生と繋がっているなんて本当にすごいよね!」
「………………」
今は完全に沈黙しているこのゴーレムは魔物が急接近してきたり、魔物が危険な遠距離攻撃を放ってきたりした時にのみ動き、危険を排除した。
「……材質はかなり硬い金属のようだな。関節部なども精巧にできているし、この刃の部分はかなりの斬れ味だな」
「ゲ、ゲイル様、そんなに近付くと危ないですよ!?」
ゴーレムに堂々と近付き検分しているゲイルにクネルが少し怯えながら近付く。
魔物の返り血を浴びて赤く染まっているゴーレムに躊躇なく近付けるゲイルはさすがというべきか。
「それにこのポーションとマナポーションの効果は本当にすごいね!」
「ああ、市販の物とは効果が比較にならないほどだよ。ギーク先生が戻ってきたら、どこのお店で売っているか聞きたいなあ」
「確かに気になるわね。マナポーションを少し飲んだだけで魔力が一気に回復したし、こっちのポーションは傷口にかけたら一瞬で怪我が治ったものね……」
ギークが残していった黄色のマナポーションと青色のポーションの効果はすさまじいものであった。生徒たちがひたすら魔術を使うことができたのも、このマナポーションのおかげである。
そして襲ってくる魔物たちは凶暴化しているが何も考えていないというわけではなく、石などの投擲による攻撃を仕掛けてくる個体もいた。生徒たちは防御魔術で防いでいたが、何発か被弾してしまった生徒もいる。
市販の高級なポーションを使えば回復に十秒ほどかかるほどの傷であっても、ギークが渡したポーションをかけることによって、その傷は瞬時に回復した。
「ふん、確かに俺様の家でも使いたいくらいの品質だ」
「うちでも使いたいくらいです。まったく、臨時教師がよくこんな高級な魔道具を売っている店を知っていましたね」
魔術師のためのポーションやマナポーションは非常時の為に常備してある家も多い。ただし効力は少しずつ落ちていくため、定期的に買い替える必要はあるが。
「……っ!? シリルさん、僕の探索魔術でもわかるくらい巨大な魔物がこっちに近付いてきます!」
「皆さん、すぐに戦闘態勢を!」