今週の授業が始まった。まずはAクラスの魔術薬学の授業だ。
「というわけで、アスラフはこの学園の教師の権限を使い不正を働いていたため、本日付で懲戒解雇となった。短期間に何度も教師が入れ替わってしまい、生徒諸君には本当に申し訳なく思う。そしてこちらがアスラフの代わりに魔術薬学の授業を教えることになったノクス先生だ」
ノクスの集めてくれた資料のおかげでアスラフは懲戒処分になり、朝のうちに学園の掲示板に告知がされた。
マナティに関しては諸事情により退職されたことになっていたが、アスラフは様々な不正行為が原因で懲戒処分になったことをAクラスの生徒たちに伝える。俺も含めて短期間に教師がこれほど入れ替わることに対しては非常に申し訳なく思うが、間違いなく生徒たちのためになっているはずだ。
とはいえ、これも学園側の失態ということで、ノクスと一緒に生徒たちへ頭を下げる。他の者に変わって謝罪することも教師として、そして大人としての義務でもある。
「初めまして、ノクスと申します。教師として授業をするは初めてなので、ご迷惑を掛けることが多々あるかもしれませんが、由緒あるこの学園に入学してきた優秀な皆さんと一緒に魔術薬を学んでいけるのが楽しみでもあります。どうぞよろしくお願いします」
「ねえ、平民だけれどちょっと格好良くない?」
「本当ね。それに礼儀正しくてちょっと素敵かも!」
「………………」
俺の時とはAクラスの生徒の態度がえらく違うぞ、まったく。まあ、相変わらずノクスはイケメンであるだけでなく、外面はいいからな。
本当は生徒に対するああいった態度は正しくもあって、俺も見習いたいところだ。とはいえ、俺がこの学園に来た時は本当に荒れていたし、俺が臨時教師だったということもあって、こんな態度をしていたら完全になめられていたと思うが。
「ノクス先生は俺の知り合いでもある。魔術薬の腕の方は問題ないが、教師として教えることは初めてなので、数回だけ俺も同席させてもらう予定だ」
「ギーク先生、よろしいでしょうか?」
「ああ、どうぞ」
エリーザが手を挙げる。
ちゃんと質問がある時は手を挙げて行う習慣が身に付いているのは実に結構。
「ギーク先生の知り合いということですが、どのような関係かお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ふむ、プライベートな質問だが、まあいいだろう。ノクスとは昔からの友人でもあり、俺個人の研究に必要な素材などを集めてもらいつつ、俺からは必要な魔道具などを提供していた仲だな」
俺個人の研究と強調した理由はノクスがギルのほうと関係がないことを強調するためでもある。さすがにそっちの面倒ごとをノクスに押し付けるわけにはいかない。
Bクラスの生徒と勉強会に参加しているメンバーには俺がギル大賢者の弟子であると話しており、Aクラスの生徒たちはそのことを知らないはずだが、念のためだ。人の口に戸は立てられないからな。もしかするとBクラスの生徒以外にもすでに漏れているかもしれない。
「ギーク先生とは大親友ですよ。ほら、この通り仲はとても良好です!」
「おい、あまりくっつくな!」
「「きゃあああ~」」
ノクスが俺の方に近付いてくる。
女生徒の一部がなぜか声を上げるが、俺にそういった趣味はない。
「……なるほど、わかりました。質問に答えていただき、ありがとうございます」
そう言うとエリーザは着席した。
……大丈夫だよな? 彼女がノクスがギルと関係ないことを分かってくれただけで、決して俺とノクスを変に誤解していないと信じたい。
「他に質問がないのなら授業を始めてもらうぞ」
授業の方はノクスに任せ、俺は教室の端の方へ移動する。
昨日の休日でノクスにはどのような流れで授業を行うのか説明しておいたが、実際に授業を行うのはこれが初めてになる。
何か困ったことがあったら、すぐにヘルプに入るとしよう。
「今日の授業はここまでになります。なにか質問があればいつでも聞いてください。それでは今後ともよろしくお願いしますね」
授業は終わったが、最後まで俺がヘルプに入ることはなかった。相変わらず優秀な男で助かる。
今日は特に生徒から質問はなかったので、そのままノクスと一緒に移動する。この学園には職員室のようなものはなく、俺の研究室のように一人一部屋ずつ部屋が与えられているので、俺の研究室へと向かう。
「僕の授業はどんな感じだった?」
「分かりやすく丁寧に教えていたし、間違いもなかった。生徒たちの様子を確認しながら適度なスピードで全員を見ていたし、あれでよかったと思うぞ。あとは実習の際も一度くらい見ておくくらいだな」
座学についてはまったく問題がなさそうだ。実際に魔術薬を作る授業もこの調子なら問題ないと思うが、最初くらいは念のため同行するとしよう。
さて、次は俺の授業の方だ。ノクスが見学しているからといって特に授業内容が変わるわけではないが、問題が起こらなければいいが。