「授業で機会があればまた見せるから安心するといい」
「本当ですか! ありがとうございます、ギーク教諭」
俺がそう言うと、満面の笑みを見せるエリーザ。魔術に前向きなことで実に結構。
「あれを見ていると、私もいろいろと作ってみたくなりました。そういえばあのゴーレムはまだ魔術特許を取られていないのですね。あるいはギーク先生の名前で登録するのですか?」
「ああ、あの魔導ゴーレムについては……ギル大賢者と相談中だが販売はされないだろう。実際に見て分かったと思うが、あの魔導ゴーレムの性能だと、悪用された場合にいろいろと面倒だからな」
以前この研究室に設置してあった監視カメラや誘拐犯たちが使用していた魔術封じの枷もそうだが、優れた魔道具というものは使い方次第でいくらでも悪用ができてしまう。
遠隔操作で操作することができ、あれだけの戦闘性能があれば真っ先に戦争などで使われるだろう。操作に慣れは必要だが、戦闘技術がなくとも本人は怪我をすることなくかなりの戦果が可能だろうからな。
魔導ゴーレムのように使い方によって悪用できてしまうものは劣化版を商会に提供するつもりだ。魔導ゴーレムは鉱石の発掘など、人が行うには危険な作業をさせることもできる。前世の科学と同じで、魔術や魔道具も使う人次第だ。
「……確かにあの性能の魔導具を個人で持つのは少し危険かもしれませんわね」
「ええ。さすがにあれほど優れたゴーレムを量産するのは難しいでしょうけれど、もしもそれが可能となったら脅威ですね」
「ああ、その通りだ」
さすが魔道具に詳しいシリルだ。魔導ゴーレムを細かく観察していたから、あれがかなりの素材と労力をかけて完成されたことが分かるらしい。
確かにあの魔導ゴーレムは趣味で作ったので、高価な素材をふんだんに使用しているから量産はできないだろう。
「そういえば魔道具の授業はどんな感じなんだ? そこまで悪い評判は聞かないが」
ふと気になったことを聞いてみた。これに関しては魔道具に詳しいシリルに聞くのが一番だ。
「そうですね、可もなく不可もなくといったところでしょうか。前と比べて騒ぐ生徒が少なくなってきて、落ち着いて授業を受けられるようになってきたのはありがたいですね。ギーク先生ほど魔導具に詳しいわけではありませんが、さすがにギル大賢者様の弟子であるギーク先生と比べるのは酷ですから」
「私のクラスでは騒ぐ生徒はおりませんでした。授業でもしっかりとギル大賢者様の開発した魔道具を称賛しておりましたし、私も悪い印象はないですね。昔の魔導具の歴史なども詳しく説明してくれていました」
「ふむ、なるほど」
ノクスからの報告でも、魔道具の授業の担当教師はコネを使ったわけでもなく、不正を働いていたわけでもない。シリルとエリーザがその評価ならこのままで問題なさそうだな。
当たり前だがマナティやアスラフのようにロクでもない教師だけでなく、真面目に働いている教師もいるようだ。
これまで暴れていた生徒たちが大人しくなってきたのは他の授業にも影響を与えているらしい。Sクラスだけは初めから多少は大人しく授業を聞いてくれていたからな。
もしかするとエリーザが不満を持ちながらも真面目に授業に取り組んでいたかもしれない。仮にエリーザが授業中に騒いでいたら、他の生徒たちも同調していただろう。そう考えると、教師たちはエリーザに感謝すべきかもな。
「他になにか気になった授業はあったりするか? 教師の悪口などを集めているわけではなく、今後の授業や学園のために改善点を探していきたいんだ」
あんまり生徒たちから他の教師の評判を聞くのは良くないが、この学園には思った以上に問題のある教師がいるようだからな。一応ゲイルから聞いていた基本魔術と魔術薬学の教師は結果的に排除できた。
ノクスからの報告によると一学年ではあとひとりだけ問題のありそうな教師はいるが、他は不正行為などはしていなさそうだ。……まあ3人も問題のある教師がいる時点で終わっているがな。
「不満というわけじゃないですけれど、魔術史の授業のイリス先生の声が少し聞き取りづらいかもしれないです」
「ああ、それは私も思っていた。授業自体に不満があるわけではないが、もう少しはっきりと話してくれると助かる」
「……魔術史か」
魔術史とは簡単に言ってしまえば魔術の歴史を学ぶ授業だ。この異世界で魔術というものが発見されてから長い年月が過ぎている。過去にどういった魔術が研究されどのように使われてきたか、どのような偉大な魔術師が名を残してきたかを学んでいく。
前世のようにまだ他の国との交流がそれほど多くはないため、この国の魔術の歴史ということになる。前世でいうと世界史というよりは日本史といった感じだ。
……さすがにまだだとは思うが、もしかすると俺もいずれは教科書に載ったりするのだろうか?