「……やはりセクハラは事実だったか。それどころか、家の名を使って脅迫までして女生徒に手を出そうとする最低の犯罪者だったな」
「なにっ、本当か!」
「ああ。2人の男爵家の女生徒に伯爵家の名を使って関係を迫ろうとしていたようだ」
寝ているグリフォードの頭に手を当て、直近の記憶を読み取った。
この男は日常的に女生徒の身体に触れたり、卑猥な言葉を投げかけていた。しかもそれが表に出ないよう、自分よりも爵位が低く、他の者に相談ができなそうな気の弱い女生徒ばかりを狙っていたようだ。
そればかりか、家の財政が苦しい女生徒に伯爵家の名を使って身体を差し出すように脅迫をしていたクズだった。
「こやつめ……ぶち殺してやるのじゃ!」
「ストップ、ストップ! ここでアノンが殺してしまったら別の問題が起こるだろうが!」
アノンが魔術を構成しようとしたところを羽交い絞めにして止める。
俺もこういう性犯罪者は即座に死刑でもいいと思うが、今ここでアノンが直接手を出すのはさすがにまずい。
「不幸中の幸いと言うべきか、まだ手を出してはいなかったようだ」
ギリギリ未遂のところだった。本当に危ないところだった。
「それはよかったよ。その被害のあった女生徒もわかったんだよね? それなら、その2人の生徒に直接証言をしてもらえば十分な証拠になりそうかな」
「いや、被害に遭った女生徒は今回の件できっと深く傷付いていると思う。それをまた何度も他人に証言することはかなりの苦痛になるかもしれない。それにそういった被害に家の事情なんかも周囲には知られたくないはずだ」
前世ではそういった性犯罪の被害に遭った生徒と出会ったことはなかったが、学校側でそういった場合の対応を話し合う機会はあった。それに今はネットなどで情報を集めることができるので、被害に遭った生徒への対応方法を調べることもできる。
たとえ直接手を出されていなくとも、被害を受けた者は心に傷を負い、パニック障害や男性恐怖症などの病を引き起こすこともあるらしい。その可能性を少しでも下げるためにも、その生徒たちにこいつの悪行を証言してもらうことはさせたくない。
「セクハラの方の証拠は難しいが、こいつの家には別の悪事の証拠があるからそいつを回収すれば十分逮捕され、学園をクビにするには十分だろう。そちらの方向から攻めてみよう」
「……うむ。その生徒には十分な配慮をするのじゃ」
「ああ。その子たちには俺やノクスよりも女性の方が話しやすいだろうな」
人の懐に入るのが得意なノクスであっても男は男だ。ここは同性である女性に任せた方がいい。
「でも、それだと少し罪が軽くなっちゃうんじゃないかな?」
「そうだな。学園を解雇することはできると思うが、何年も牢に入るというわけじゃないだろう」
グリフォードというよりもこいつの家で行っていた領地で徴税していた税の横領くらいではそこまで大きな罪にはならない。国へ納めるための税まで横領していたらかなり問題だが、それ以上に領地の民から税を徴収して懐に入れる行為はこの異世界でそれなりに行われている。
貴族制度のあるこの異世界ではそういった貴族に対する汚職の罪はそれほど重いものではないらしい。本当につくづく貴族制度なんてものは廃止した方が良いと思うがな。
「だが、生徒に道を示すはずの教師が生徒に手を出そうとするなんて許されるべきではない。こういった輩は同じようなことを繰り返さないようにするためにも、マナティのようにやられた側の痛みというものを心に刻み付ければな」
「確か以前生徒を誘拐しようとした教師だっけ? うん、僕もそれくらいやったほうがいいと思うよ。こういうやつは痛い目を見ないと何度も同じことを繰り返すからね」
「うむ、同じことを繰り返させないことが第一じゃ!」
ノクスもアノンも俺の意見に賛成のようだ。
私刑にはなってしまうが、それよりも同じような被害にあう者を増やさないことの方が大事である。
「僕も協力するよ。こうなることもあろうかと、いろいろと持ってきてよかったよ」
そう言いながらノクスが大きなバックから次々とドス黒い色をした液体の入った試験管のような瓶を取り出した。
「……ノクス、念のために聞いておくが、そのヤバい色をした液体はなんだ?」
「拷問用の魔術薬だよ。こっちの方は飲めばしばらくの間、身体の内側から燃えるような痛みがする薬だね。この灰色の液体は飲めば解除用の薬を飲まない限り、アレが役に立たなくなる薬だよ。特に性犯罪者には抜群の効果があるんだ」
「「………………」」
笑顔でそんなことを言うノクス。
直接的な戦闘の腕はなくとも、魔術薬をある程度極めた者を怒らすと本気で怖いのである。
ノクスレベルが作った物なら数年、下手をすれば数十年は解除することができないかもしれない。まあ同情の余地はまったくないがな。