A Notorious Villainess Enjoying a Life of [Talentless and Incompetence] in Her Third Life – Chapter 118

『放っておけ』

「まあまあ？」

冷たく言い捨てるラグちゃんの言葉に私も賛同したいのはやまやまだけれど……。

今感知したのはこの森で新たに出現した５人の人らしき魔力。

ちなみにその内３人の魔力はよく知った魔力ね。

３人と２人に分かれて動いているみたいなのだけれど、どういう事かしら？

ここに侵入する理由がよくわからない上に、よりによって明らかに実力不足な２人が一緒に動いているわ。

それから気になるのは元からいた上級生達。

１人はテントから動いていないのだけれど、他の３人の動きが……何だか魔獣避けの杭の辺りに散らばっているの。

魔獣避けの周りをうろつく蟲達と、新たに出現した２つのグループに近寄って行きつつある蟲達の動きは予想の範囲内ね。

２人グループの方はこのままだと死んじゃうんじゃ……あらあら？

何だかこの辺りの空気の質が変わった？

今までとは僅かだけれど、周りの雰囲気が変わってきたわね。

蟲がざわつき始めたのをダイレクトに感じると言えばいいかしら。

唐突に魔獣避けの力が弱まった？

『馬鹿がいるな。

殺すか』

途端に上からの殺意が僅かに増してしまったわ。

「ふふふ、手を下すまでもないからそれこそ放っておけばいいわ。

どうなるかは、元々ここに住んでたラグちゃんが１番良くわかっているでしょう。

そちらの方がラグちゃん好みの終わり方をするのではないかしら？」

『それもそうか』

そう会話している間も、あちら側のテントの方向からじわじわと嫌な雰囲気が漂い始めたわ。

何かが迫ってこようとしている感覚ね。

もちろんこれは勘のようなものよ。

第六感てやつね。

でも魔力の高い人間の勘てよく当たるから、馬鹿にできないの。

ラグちゃんが少なからず殺意を強めてくれたお陰で、こちら側に来ようとしてた何かは散ったみたい。

でもうちのグループは眠っているけれど、そろそろラルフ君あたりは何かしら感じて目を覚ましそう。

今しがた回収した魔石を火に放りこむわ。

すると短時間に魔石２つを焚べた事で火がぼっと激しく上がり、煙が一気に立ち昇る。

これでこちらのテントは１時間くらいならラグちゃんの殺気と認識阻害テントのお陰で蟲も寄ってこないはず。

それに私もいるもの。

蟲って動物型の魔獣より直感が鋭いから、本能的に私を避けてくれるわ。

もう１度、ここの周囲に限定して索敵魔法を使う。

「お馬鹿さんね。

身から出た錆よ」

良かった。

１人はこちらに走って来ているわ。

他の３人は一緒に何処かへ移動し始めたのね。

大体の蟲達はその３人を狙おうとしては避けるような動きをしている。

けれど……１匹は様子を窺うようにゆっくりと一定の距離を空けてついて行ってない？

もしかして魔獣避け以外にも、アレを持ち出したの？

魔獣避けは全部で６つ使っているけれど、こちら側のテントは端っこに設営してあるの。

つまり近くには２つの魔獣避けがあるけれど、こちらに異常は感じられなかった。

そして４つは上級生側のテントに近い位置にあったわ。

魔獣避けは４本以上で囲って初めて力を発揮するから、本来あちら側の魔獣避けが１つくらい駄目になっても蟲達がすぐに中に入れたりはしないの。

という事はあちら側の魔獣避けが２本以上、急に機能しなくなったって可能性が１番高いのだけれど、ラグちゃんの反応からしても、索敵で感知した３人の怪しい動きからしても、恐らく上級生の誰かが作為的に壊したか、あるいは持ち去ったかね。

「どちらにしても、帰ったらラグちゃんの冷たくてすべすべの体にすりすりして、サラツヤな鬣をさわさわしたいわ」

『……わかった』

微妙な間は何かしら？

そんなところまであの日のキャスちゃんと似せなくても良いのではない？

「公女！」

まあまあ、可愛い聖獣ちゃんとの突然始まった念話は残念だけどここまでね。

走って来たのはうちのお孫ちゃんよ。

「あらあら、どうなさったの？」

「いつの間にか眠らされていた隙に、あの３人が向こうの魔獣避けを４本持ち去った！

蟲が来る！」

「まあまあ、困った方達ね。

でもここはしばらく安全でしてよ」

真っ青なお顔に着の身着のままね。

そんなに慌てなくても、お孫ちゃんの体には寝る前にこっそり守護魔法をかけていたの。

万が一にも蟲に噛まれたり、毒液を吐かれたりしても無傷でいられるから安心してちょうだいね。