「何を思い出している?」
「え?」
蒲焼きを3枚焼いて葉っぱ皿に盛ったところでそう声がかかったわ。
中身は既に火が通っているから、パン粉をこんがりさせるだけのお手軽調理。
焚き火は火力が強いし、時間はさほどかかっていないのよ。
「笑みが自然なものになったし、何かを懐かしむような顔だ」
まあまあ、目ざといわ。
私もうっかりさんね。
でも仕方ないじゃない?
「幸せな夢を思い出しただけでしてよ」
だって前世の記憶はいつでも私の心を温かく満たしてくれるのだもの。
でもそうね、デフォルトの微笑みに戻しておきましょう。
「……そうか」
どうしてかしら?
なんだか急に残念そうなお顔をされてしまったのだけれど。
とか思いつつも、手はしっかり同時進行中よ。
例によって食べ終えた葉っぱ皿は火の中にポイッ。
残りの1枚をジュワッとしつつ、魔法で洗浄したフォークを使って容器から小さな魔石を抜いて、タルタルソースをそえる。
残りは別のお皿に移しておくわ。
魔石は保冷剤効果を付与したクズ石よ。
けれど少ない魔力をこめれば何度か繰り返し使えて便利なの。
入れてないと食材が傷んでしまうから、この世界ではキャンプの時のマストアイテムね。
「さあ、どうぞ」
そう言って差し出せば、ズタボロ王子は食べ終えた葉っぱ皿を私と同じく火にポイッとして、またまた素直に受け取ってすぐに食べ始めたわ。
「これも美味い。
公女は料理が得意なのだな」
基本的にそこまで愛嬌を振りまくタイプではないのでしょうけれど、嬉しそうなのは見て取れるから私もつられちゃう。
あちらの世界の孫達と同い年くらいの若者が美味しいと言って食べてくれるのって、中身がお婆ちゃんとしては嬉しくなるのよ。
けれど毒見とかしなくていいのかしら?
もちろん毒が入ってたら、もう手遅れでしょうけど。
確か同母妹の王女の毒殺未遂事件からそんなに経っていないわよね?
ズタボロ王子の警戒心、大丈夫?
フライパンを振って最後の小さめの一切れをクルンとひっくり返してから、空の容器と魔石を洗浄して片づける。
「手際もいいな。
普段からよくやっているのか?」
「ええ。
訓練では料理担当ですもの」
できあがったフライをお皿に乗せて、フライパンも綺麗にしてから片づければ、心置きなくフライをパクリ。
うん、このほのかな酸味と野菜のマリネ、ゆで卵の風味が最高ね!
それにサクサク食感の合間に感じる蒲焼きのタレの甘辛さとの味のハーモニーもクセになるわ!
2人して無言で食べ、無言で食後のお茶も飲んだ後、本題に移る。
「それで、ここで何してらっしゃるの?」
「そなた達を助けにきた」
……あの孫と兄弟なだけの事はあるのね。
「それは第1王子殿下というお立場からも、随分無謀では?」
もちろん淑女らしくは微笑んでいるけれど、内心呆れてしまうわ。
「ミハイルとニルティ家次期当主と共に来た。
装備も整えてきたから、実力的には問題なかった」
「まあまあ、お兄様も?」
知ってるけれど、それでも……いえ、それだけではないのかしら?
そうね、あの学園に保険医として残った理由はわからないけれど、今回の件の真相次第では彼の行動もある意味正当化できない事もない……かも?
まあ褒められた事ではないでしょうけれど。
ニルティ家の次期当主はきっと弟の家格君を物理的に消しに来たのね。
先に金髪組と会っていたら、そちらも消していたんじゃないかしら?
お兄様は……何しに来たの?
今回の件には恐らく従妹で義妹のシエナが何かしら関わったんじゃないかと思うけれど、それを有耶無耶にしたかった、とか?
でもシエナはせいぜい家格君を焚きつけたくらいじゃない?
けれど……ふといつぞやの異母兄を思い出してしまったわ。
ああ、今世で1番のため息を吐きそうね。
仮にもあの子は彼らの孫だもの。
そうでない事を願っているわ。
それよりもお兄様よ。
まさか私を助けに来たとか言わないわよね?
「全てを覚悟してそなたを助けようとしていた」
「あらあら?」
そのまさかだったわ。
お兄様、ニルティ家の次期当主、ズタボロ王子の誰が欠けてもこの箱庭に入らなかったでしょうけれど、よりにもよって上手く3人が揃ってしまったのね。