「これは命令かしら?
それともお願いなのかしら?」
「公爵からはそなたの意志を尊重すると言われている。
父上、いや、国王陛下もそれにならうと仰った」
何てこと!
今日ほどお父様を素敵に感じた事はないわ!
ほっとした途端にテンションが上がるけれど、仕方ないと思うの!
そんなのお返事は決まっていてよ!!
キラキラなエフェクトなんて余裕の無視ね!
「もちろんお断り致しますわ」
「即答……泣いて良いか?」
「他所でおやりになって」
にっこり微笑めば、泣くまではいかないけれどしょぼくれてしまったわ。
……次の小説の題材はズタボロしょぼくれ王子にしようかしら?
「そうか。
また求婚するとしよう。
その権利は公爵から認められている」
なんて思ってる間に復活?!
立ち直りは早いのね。
「どんな権利だ……」
私もお兄様には激しく同意するわ。
「……左様ですの」
間違いなくお父様への大暴騰したお株が大暴落よ。
乱高下が激しいわ。
「念の為お聞きしますけれど、血筋を保つ以外にそうされる意図は何かありますの?」
「ない。
むしろ血筋も何も俺の気持ち以外のこれといった理由はない。
そなたの魔力以前に、その逃げ癖は王子妃であったとしても血筋の正しさを軽く凌駕する悪癖だ」
キリッとした顔で、何だか随分な言われようね。
そこまでの悪癖持ちのどこがいいのよ?
本当の事過ぎるから、もちろん何も言い返さないけど。
「側妃殿下は何故妹と第2王子殿下の婚約にこだわっていたかご存知ですか?」
「それは俺にもわからない。
俺のそなたの妹への婚約の打診を知って、あの方にしては珍しく取り乱していた」
「……何故?」
「さあ?」
美男子達は首を捻る。
私も一緒に捻ってみるわ。
うーん、側妃、または妃殿下と呼ばれる彼女は確かアッシェ家の傍系にあたる元伯爵令嬢だったのよね?
来年学園に入学予定の今年14才になる第3王子も産んでいるわ。
「いや、それよりも殿下は何故そこまでうちの妹を?
以前にどこかで会っていたのですか?」
「それは……」
何かしら?
私をじっと見つめたわ。
「秘密だ。
そなたの妹が思い出せば教える」
と思ったら、視線をふいっとそらされちゃった。
何なのかしら?
そういえば、箱庭でも見覚えがないか、とか聞いていたわね。
……まあ今はいいわ。
ちなみに目の前の彼はロブール家の傍系にあたる元侯爵令嬢を母に持つの。
彼女は国王の正妃、または王妃と呼ばれて、国王陛下と共に表立って政に参加する資格と権限を持つのが側妃との決定的な違いかしらね。
側妃がいない頃なら妃殿下とも呼ばれない事もないだろう彼女は、8才の初めてのお茶会で毒を盛られそうになった第1王女の母でもあるわ。
あらあら、そういえばこの王子とはかなり遠いけれど遠縁の血族関係になるのだったわ。
なんて家系図を掘り下げていきながら、前々世で会った事のある人達の顔もチラついていく。
そんな中でふと、色々な点が細い糸で繋がった気がしたの。
……あ……そうか……そうかもしれないわ。
え、やだ、前々世時代にあった歪みって、無駄にどうしようもなく根深いものなのねえ。
つうか、むしろしょうもな。
マジでしょうもな。
はっ、あらヤだわ。
ついうっかりお久しぶりに、前世の言葉が……いや、でも、もしそうなら本当にしょうもないわね。
もしかして側妃が私との婚姻にこだわるのは……お母様とはパターン違いの同じ類の理由なのかもしれないわ。
「ラビアンジェ?」
「どうした?」
美男子達が気づかわしげに声をかけてきて我に返る。
そういえば、居たわね。
脳内で勝手に騒いで現実世界では微笑み浮かべてフリーズしていたから、我ながらちょっと怖い人になってたんじゃないかしら。
というか、2人の存在を普通に忘れてしまっていたわ。
「いいえ、ただ……眠くなってきましたわ。
他に何かありまして?」
「ああ、一応元婚約者の第2王子の状況なのだが……」
「え、興味ありませんことよ?」
「いや、一応聞いておいてくれ」
「……はあ、まあ、一応?」
「そんなに不服そうに……そこまで興味ないのか……本当にシエナの言っていた事は真実とほど遠かったんだな」
お兄様、呟きがもろ聞こえでしてよ?