「これが今回の試作品ね……」
そう言いながら背の高いスラリとした美人さんがくるりと回れば、動きに合わせてスカートの裾がふわりと動く。
ゆるい癖と艶のあるアッシュブラウンの長髪が揺れて、前髪が軽くダークグレーの瞳にかかっているからかしらね。
表情が色っぽく見えるわ。
「ふふふ、どうかしら?」
ああ、眼福。
出されたお茶を堪能しつつ様子を窺うわ。
美人さんの反応は悪く無さそう。
「見た目は良いんじゃねえ?
いつもより足は長く、腰回りは細く見える」
赤茶の短髪、本人いわくまだまだ男盛りらしいガタイの良いオジサンがニヤリと笑う。
前世の日本人を彷彿とさせる焦げ茶色の左眼のあたりには、鋭い4本爪で引っ掻かれた傷痕があるの。
額の方から斜めに入ったそれのせいで、厳ついお顔を更に厳つく演出しているせいね。
初対面の人からは大抵警戒されちゃうみたい。
実は面倒見が良くて優しいのだけれど、初対面の小さなお子ちゃまなんかが道端で出くわしたら、大抵泣かれるわ。
子供好きもあって、幼少期の私と出会った頃からの悩みらしいの。
解消された様子がないのがお気の毒ね。
「すらっとしたシルエットだが、歩きやすさはどうだ?」
オジサンがそう言うと、美人さんが部屋の中をスタスタ歩く。
「裾が広がってるからかしらね。
歩幅も取れて、タイトスカートよりも歩きやすくていいわ。
それにお腹周りにゴム素材を使っているから、スカートの腰の位置が高いのに締まり具合が気にならないの」
そうそう、せっかくゴムを作ったのだもの。
活用してみたわ。
いつも通り今日は私もほぼ同じデザインでサイズ違いのハイウエストなマーメイドスカートを履いているのよ。
違いはウエスト部分ね。
あちらは腰の部分が幅のある折返しで中にゴムを入れているだけのシンプルなタイプ。
私の方はもう少し幅をもたせてあって、バックでリボン結びにしてあるの。
「なるほどな。
だったら月影、合格だ。
いつも通りこっちで型紙におこして生産に回す」
「ふふふ、よろしくお願いするわ、商会長さん」
そうそう、ここでは月影って呼ばれているのよ。
厳ついオジサンは一応上司で雇用主になるのかしら?
リュンヌォンブル商会の商会長さんよ。
「ああ。
ガルフィ、月影の方のスカートをスケッチしたらそのスカートと一緒にいつもの担当に回しといてくれ」
「わかったわ、ユスト。
月影ったらセンスは良いのに、絵が壊滅的に下手くそだものね」
まあまあ、少し前にお城へのお誘いをお断りしたからかしら?
なんだが辛口。
もちろん彼は王家の影で家名は秘密の31才、ガルフィさんよ。
見た目も美人だし、言葉使いもちょっぴりオネエだったでしょう?
物腰も柔らかいし、こういう服装だと女性にしか見えないわ。
ちなみに上の服は簡素なシャツ姿だから、できる女風ね。
時々こうやって商会の事務所にお邪魔しては、3人でお仕事してるのよ。
「あらあら、酷いわ。
ガルフィさんの絵が上手すぎるだけではないかしら?」
「ふふん、それはそうよ」
何だか得意気に胸を張られてしまったわ。
「それじゃ、型紙におこし終わったらいつも通りこのスカートは私がいただくわね」
「ったく、ぬかりねえな。
ああ、いつも通り言っとくよ。
つうか、女が履くにゃデカすぎだろう」
「そうね、お陰で定期的に流行の先駆者になれて嬉しいわ」
そうなのよね。
私が作る服はモデルのガルフィさん基準だから、型紙におこす時に女性用サイズに修正しないとなの。
でもパタンナーさんとは長いお付き合いだから、腰骨の性差も含めて修正は手慣れているわ。
といっても私が商会長さん以外と顔を合わせたりもしないのだけれど。
『あの影は相変わらずのオネエっぷりだね』
不意に私の頭でくつろぐリアちゃんが喋ったわ。
もちろん念話よ。
リアちゃんは現在進行形で魔法を使って姿を見えなくしているけれど、ずっとここにいたのよ。
リアちゃんのこの手の魔法がバレた事はないけど、もし見えたら後ろ姿はド派手な長い髪をした人のように目立つ事間違いなしね。
ある意味カリスマデザイナーみたいな頭かもしれないわ。